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おとなりダーリン。  作者: 坂戸樹水
19/36

19 (ユーヤのツブヤキ1)


 実家を離れて早1ヶ月、友人の紹介で駅前のカフェでバイトをさせて貰って、働く事の大変さを日々 学んでいます、中都です。



「由也君がバイトに入ってから、お客サンが増えたよぉ」



 俺がシフトに入るとマスターは必ず こうして褒めてくれます。

本当、働き甲斐がある。俺も褒めて人を伸ばせる大人になろう!


「そうですか? 

マスターのコーヒーが美味しいって評判が広まり出しただけですよ」

「ハハハハ! 由也君は上手い事を言うよなぁ」


 週に3~4日のバイトだけど、大学を終えてココに来る頃には常連客の皆サンが一同に迎えてくれる。

気さくに話しかけてくれる人ばかりで、本当に親しみやすい。


{その中でも石神サンが1番だ。明るくて楽しくて、本当に優しい。本当に本当に。

でも、カフェに寄ってくれるように声をかけても1度も来てくれないな……

石神サン、忙しいのかな?}


 会社帰りのサラリーマンも結構 利用してくれるんだけど、

そう言えば、石神サンが出勤する姿を見た事が無い。

俺が大学に行く時も帰る時も、家にいるみたいで。



{謎めいた人だな……}



 だから気になってしまう。今だって、手が空けば窓の外を見てしまう。

石神サン、来てくれないかな、って。



カランコローン。



 入り口のカウベルが鳴る。

石神サンを待っている俺の前に現れたのは、浅野先輩だ。


「アレぇ!? いらっしゃいませっ、浅野先輩、どうしたんですかっ?」

「由也クン、ココでバイトしてるって言ってたでしょ? 折角だから寄らせて貰ったの」

「覚えててくれた何て嬉しいなぁ、ありがとうございます!」


 浅野先輩はピアノの調律師をしている、俺の大学のOBです。

数日前に開いた合コンにも来てくれて、今日にも顔を出してくれるとは驚きです。

カウンター席しか空いていなくて申し訳ないけど、浅野先輩は『ソレでも良いよ』と言うのでご案内。


「でも、どうしたんですか? 近くで お仕事でも?」

「ううん。そうじゃないんだけどぉ……取り敢えず、アイスコーヒーくれる?」

「はい! 少々お待ちください!」


 普段はクールビューティーな浅野先輩だけど、今日は何か落ち着きが無い。



{もしかして、石神サンの事かな?}



 昨日の今日だから、不意に そんな予感。


「アイスコーヒー、お待たせしました」

「うん、どーも」


 折角 来てくれたんだから世間話の1つでも……と思うんだけど、どうも気が進まない。

忙しいのを良い事にカウンターを離れようとすれば、浅野先輩は俺の背を呼び止める。


「由也クン、ちょっと聞きたい事があるんだけど……イイ?」

「?」

「勿論、バイトが終わった後でイイから。駄目?」

「……はい。イイですよ」


 何だろう? ……って、考えるまでも無い。絶対、石神サンの事だ。

合コンを途中で抜けた石神サンと浅野先輩は、ソレはソレは楽しくエロエロな事をしやがったみたいで、このメスはソレをわざわざメールで報告して来やがって、

つか、そんな事 誰が知りたいってんですか、ファックヤロー。


 お膳立てした お礼の報告だってのは分かるけど、ウザ! て思った俺は、浅野先輩のメールをそのままスルーした。


{お持ち帰りした真奈チャンには悪かったけど、

もぉフテ寝しないと気が済まないくらいハラワタ煮え繰り返ってしまったと言う不思議。自分で手引きしといて、一体どうしちゃったのかと}



『ぁ、兄的な?』



 俺にとっての自分のカテゴリーを石神サンは『兄』と言ったけど、

って事は、石神サンは俺を弟のように思ってくれているって事かな?


{兄か……うーん。

どっちかと言えば、混同しているように思う。石神サンと、石神先生}


 イメージは真逆だけど。


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