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おとなりダーリン。  作者: 坂戸樹水
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 途方に暮れているオレに、ユーヤ君はボールに卵を落しながら問うて来る。


「で、昨日は どうでしたか? 浅野センパイとは」

「ぁ、ああ。お陰サマでぇ」

「……アハハハ、上手くいったみたいで良かった。俺、石神サンの役に立てました?」

「まぁ、そりゃ充分すぎる程に」

「良かったぁ。

石神サンにはお世話になりっぱなしですから、ちゃんとお礼したいんだけど、

俺、こうゆう事くらいしか甲斐性が無くって」

「つか、オレ、何か お世話したっけかな?」


 ご恩と奉公。

ユーヤ君はソレくらい律儀な考えの持ち主なのか、

つっても、オレが何をしたかと言えば、初日に引越しの手伝いをしたくらいだ。

あと、回覧板の回し方にゴミの出し方。

大家サンの機嫌の取り方に、ヘッドホン貸したとか その程度で、ココまで構って貰う覚えはねぇよ。


 そんなオレの言葉に、ユーヤ君はキョトーン。

デカイ目をパチクリさせて、少し不満そうに言い返して来る。


「沢山 教えてくれたじゃないですか。俺、本当に助かってるんですよ?

もしかして、ガキ扱いしてます?」


 ボンボン扱いしてるだけです。


「そんなコトねぇけどさ。ちと律儀すぎ? 何か心配だよ、オッサンとしては」

「何がです?」

「悪い人に騙されやしねぇかとぉ」


 例えばオレみたいな。

まぁ、オレの場合は誤解したってだけだけど、中には血迷ったのもいるだろぉからさ。

そんなオレの不安を他所に、ユーヤ君は笑う。


「ハハハ。俺、石神サンの事、オッサン何て思った事ありませんし、ソレに騙されないから大丈夫」

「そーゆー人が騙されるんだって」

「じゃぁ、そうゆう時は石神サンが教えてくださいよ。コレなら安心でしょ?」


 ねぇ、オレ、口説かれてるって思ってもイイですかぁ?


「でも、浅野先輩と付き合う事にでもなれば、俺なんかに構ってられないですよね……」

「ぃゃ、別に、付き合うとか そんな話はして無いんだけどぉ?」

「そうなんですか?」

「いや! まぁ、今の所はイイお友達? アチラの気持ちもあるコトだしねぇ、ハハハ!」

「ああ、ソレなら大丈夫だ。浅野先輩、石神サンの事すごく気に入ってたから」

「社交辞令でしょぉ」

「そんな事ないですよ。だって、浅野先輩からメール報告 貰いましたもん、俺」

「ぇ?」

「石神サン、予想以上に好みのタイプだったからって。またセッティング宜しくって」


 肉食系女子、スゲェなオイ。筒抜けかよ、色々と。


 何だかんだ話してる間にスクランブルエッグ何てシャレオツな朝食が配膳されましたよ。カニとホタテの缶詰も上手いコト混ざってるシーフードなヤツが。

ついでにフランスパンまで並ぶんだもん。今日はローマの休日ですかぁ?

でも、紅茶のカップを置くユーヤ君の手元は乱暴で、ガチャン! って食器が音を立てるから、オレは思わず窺ってしまう。


(機嫌ワル? オレが適当なコト言ったから? っても しゃーないっしょ?

男と女のコト何だから、須らく付き合うとかそーゆー展開にゃならんってコトくらい、ユーヤ君だって知ってるでしょぉが)


 でもまぁ確かに、知り合いを適当にされんのは胸クソ悪いよな。

ごめんごめん。


「アチラがOKなら、オレも前向きね。前向き。ハハ」

「……そうですか。おめでとうございます」

「っつか、コレ、食べてイイの? オレ」

「どうぞ」


 早速スクランブルエッグを一口。


「ぅわ、ウマ! 何コレ!? こんな美味いの食ったの初めて何スけど!」

「ほ、本当ですか!?」

「イイ嫁サンになるよ!」

「……俺、男ですけど」

「ぁ……」


 ユーヤ君の目ぇ、座ってる。女扱いとか地雷だったみてぇだよ。


「ジョーク、ジョーク! やっぱ、料理くらい出来ねぇと男はモテねぇわぁ!

って、どーせなら真奈チャンにも食わせてやりゃ良かったのに。

ゼッテェ喜んだと思うぞ!」

「そうかなぁ? でも、真奈チャンとは そうゆう関係じゃないからなぁ」

「……は?」

「はい?」


 ユーヤ君さぁ、カワイイ顔して言うコトがさぁ、結構ド下衆いんだわぁ。


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