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おとなりダーリン。  作者: 坂戸樹水
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 どうか、今もオレの曲をスキでいてくれますように。

そんな願いを込めながら、スペアのヘッドホンを被ろうとした所で、


(何か、聞こえる……?)


 こうゆう時、耳を欹てるのはオレだけじゃないっしょ。



……

……



「!!」


 聴き取ったり!!

オレはガタン! と音を立てて立ち上がり、両手で顔面を覆う。


(ぅわぁあぁあぁ!! ヤッってるぅ!! 喘ぎ声、聴こえてるぅ!!)


 言わずもがな、隣の部屋から。中都由也の部屋から。



(つか、どっちの声!? どっち!! どっち!? そこ重要!!)



 ユーヤ君の声は ハスキー? ってか、音楽的に言うとキレイなアルトだ。

この声はぁ……って、壁に耳つけちゃってるオレは大した変態っぷりだけど、

自分の部屋の段ボール壁に寄り添ったって捕まりゃしねぇよ。



(ゎ、分からねぇ!! ウッスラとしか聴こえんから判別つかん!!)



 ヤバイヤバイヤバイ。

さっき散々 発散させて来たってのに、オレの全身の細胞がヤル気満々になってっし!!

オレはヘッドホンを被り、聴覚を塞ぐ。

そして、慌てて布団を敷いて掛け布団を被る。


(心頭滅却!!

仕事は明日に繰り越して、今度こそバッチリ片付けちゃるよ!!

今日 吸収したエナジー全開に投下して、神曲 作っちゃるよ!!

だからオレに安眠を!! 安息を!!)


 ギューーっと、目ぇ閉じて丸くなって朝が来るのを待ちましたとさ。



*



――チュンチュンチュンチュン。



(小鳥の囀り……あぁ、清々しい朝の訪れ……)


 で、目が覚めるワケなくて。

つか、結局 眠れんかったんですけど、どーしてくれるよ、オレの目の下のクマさん達。


「ヤベ、頭イテぇ……」


 ヘットホン被ったまま一晩を過ごしたから、コメカミが痛い。


(ボロアパの壁、パンの耳だっつっといたのにさぁ……)


 日本語崩壊してっけど、ソレくらい このアパートの壁は薄いって話だよ。

ソレはちゃんと念押しといたのに、何であの子は学習しねぇのかね?



(バカなのか? バカでしょ。バカだろ、お前。クソガキ。オス猿)



「のクセにカワイイとか、許すしかねぇし……」



 金髪頭ワシャワシャ掻いて、オレは新聞を取りに外に出る。

普段は気づいた時にしかポスト何か覗きゃしねぇけど、今日ばっかりはクソマジメな記事でも読んで現実逃避したい。



ガチャ。

ガチャ。



 オレが玄関ドアを開けると同時、隣の部屋のドアも開くから ご対面。


「あ」

「ぁ」


 普段しなれないコトをするもんじゃないよ。って、

実家の母チャンが言ってたのを思い出した。


「……ぉ、はよ。真奈チャン?」

「ぁ、ぁ、ぁ、ぉ、おはよう、御座います、石神、サン……」


 昨日と同じ服でユーヤ君の部屋から出て来たのは、癒し系の真奈チャンだ。

想像するでも無く、昨晩のユーヤ君の相手は この真奈チャンだったワケで、

狙い通り、気に入った子をお持ち帰り出来たってコトが分かりましたね。


(つか、大人として どのよーな反応で見送ったらイイんだかぁ)



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