伝説
禿頭の先生と黒板のいちゃいちゃトークが退屈で、気づいたらノートに「あー死にてー」って書いてた。なんとなく。いつもなら、なんとなく書いたのだろう、特に理由なんてないだろ死にたいわけないじゃん、となんとなく流すのだけど、今日は、自分は死にたいのだろうか、どうせ死ぬなら有効活用すべきではないか、となんとなく自殺を考えることにポジティブだった。
とりあえず苦しんで死にたくはないから、打ち上げ花火のように一瞬で散ってしまうのは理想だ。でもただの打ち上げ花火じゃ悲しい。どうせなら記憶に残る打ち上げ花火がいい。
そういえば軽音部の奴が言っていた。エレキギターで感電死すると伝説になれるらしい。
結末に至らずに何かが終わる時、もったいなさを感じるのは分かる。ハンターハンターやワンピースがこのまま作者が死んで未完で終わったようなもんだろう。
じゃあレジェンド的な死に方をする下準備はどうしたらいいだろうか。
例えばエレキギターを使う音楽とかワンピースやハンターハンター等の物語作りは心に伝わるものだから、伝える力はもちろん、伝える内容、いわゆる心根も必要だ。その心根がアイスピックのように凶悪に尖っているのか、布団のように温かく包み込んでくれるものなのかは別にして、受けてが捉える心根は特徴的な方がいい。印象づけるのだ。自殺という芸術を成した奴、みたいに。
例えば僕が、例えば今、きちがいみたいな曲を歌いながら教室の窓から飛び降りて死ねば伝説になれるかもしれない。
少なくともこのクラスでは伝説だろう。逸脱行為すぎる。
自殺の後はどうだろうか。
彼らは僕の自殺の原因について推測し始めるだろう。けど、伝説になりたいだけという僕の本心は分かるわけがない。そんな下らない理由で自殺するとは思わないから。
きっと彼らは僕の本心とはまったく違うけど、でも客観的には異常行動をそれっぽく納得できる結論に行きつくのだろう。異常な行動には異常な精神があったという結論。
でも異常な精神に行きつくまでの理由を今度は推測し始めて、そしてその原因は本人以外のもので、つまりは家庭環境か学校環境を原因の候補に絞る。自殺した場所が学校なのだから、学校環境にある可能性が高いだろう。
インターネットに飛び火したら万々歳だ。
行動に意味深が期待されたら、まわりは勝手に解釈してくれる。教室、ネットと広まっていくにつれ、きっと勝手に僕の自殺に意味が付加されていって、その付加価値が僕の自殺を伝説にしてくれる。
あー。でも有名になりたい一心で自殺まで至るというのもそれはそれで異常な精神なのか。というか自殺するのに普通の精神ってなんだろう。生活苦はともかく、転生したいとか、夏休みが終わるのが嫌になったとか、そりゃ本人にとっては切実な悩みなのかもしれないけど、一旦冷静になればどうでもいい自殺の理由じゃないのかなぁ。違うのか。本人にとっては心臓を止めない程、もしくは体から離れたいほど切実なのか。それとも、生と死の境目がベルリンの壁ではなく、チョークの線程度なのか。果たしてどっちもなのか。
分からん。
そんな俺の考えなんてどうでもよしに、先生と黒板のトークは続いている。性とはもちろんたくさん寝ている。きっとあの先生は生徒個人個人なんて見て何だろうな。生徒はきっと生徒だ。でも生徒も先生を先生としか見てない。生徒に向かわぬ授業も、禿頭を見上げぬ授業も、同じだ。誰がどういう奴なのか、行動とか属性からしか判断できない。
かくいう自分も禿頭を仰いでないわけで、果たして形式というか、儀式めいたこの空間に意味があるのか疑問が出てきて、トイレに行くことにした。
手を上げて、
「トイレいってきまーす。」
高らかに宣言。自己主張してみた。
禿頭の先生が「あいよ。」と普通に言った。その際に自分と目があったのは火星での第一歩のように思えた。
トイレにいきまーす。と言ったが、トイレにはいかなかった。
さらっと階段に向かいタンタンタンと足音を立てて2階から、3階、そして屋上に行く。もちろんフェンスは自殺ができないように高い。登ろうと思えば登れるだろう。けども、下を見る。地平線の方を見る。下は高いし、冬の風はやっぱり寒い。高さ以上に、住宅街や樹々の見える範囲はもっと広い。家の一見一見はカプセルかもしれないけど、道路でつながっている。人はどこにも潜んでて、自殺率の高さから考えると屋上から見渡せる範囲のどれくらいかの人は普通に自殺している。
もう一度下を見る。高いし、冬の風はやっぱり寒い。
「あー。なんとなく、なんとなく死にたくないだけなんだなー。」
なんとなーく死にたいって言う時もある。でもそれ以上に、なんとなーく死にたくないだけ。そのなんとなーくがある限り、俺は境目を超えられないだろう。来週のジャンプも読みたいし。
上を見る。空は地上以外のすべてだ。そういや地面に落ちちゃ花火じゃねーな。打ち上げ花火は勝手に解釈されないでも、だれが見ても打ち上げ花火だ。空に上がるのは、大変だ。




