八話
八話になります
神田誠 主人公
前田智 同僚で同い年
山田繁人 同僚で五つ上の先輩
大竹一哉 同僚で先輩。おまじないを勧めた人
一月一日、正月になった。
九時には前田と山田さんが俺の家に来る。
それまでにはなんとか準備はできた。
チャイムが鳴り、ドアを開ける。
前田は山田さんと途中で待ち合わせをしたのだろう、一緒に俺の家に来た。
そして二人は俺の頭を見て予想通りの反応を見せた。
「あっははははは!どうしたんだ神田!こんな時期に坊主なんて、本当に良いことでもあったのか?あはは、いや、やっぱ何でもない。初笑いがお前の頭を見てだなんて・・・・・・奇跡だよ奇跡!いやー・・・・・・ありがたやありがたやー」
山田さんは笑いながら俺に向かって合掌した。
「見せもんじゃないですよ。笑わないでください」
「ごめんごめん。あまりにも予想外過ぎたもんだからさ、ついどツボにはまっちゃったよ。面白かったよな?前田・・・・・・」
山田さんは前田にふった。
俺と山田さんは前田を見るが、前田は俺を見て止まっていた。
「ん?どうした前田」
俺は尋ねる。
「良いね・・・・・・」
「ん?」
「良いね神田!その頭!やっぱお前は坊主が似合うと俺は思っていたよ!なんかこう、大人っぽくなったって感じに見えるよ!」
母親と同じ事言っている!
「前々からお前見て、ずっと思っていたんだよ。何で髪長くしているんだろう、何で髪切らないんだろうって、つくづく思っていたんだよ。やっぱお前は丸刈りが一番だな!うん!」
「そ、そうかな・・・・・・ありがと」
坊主になってここ数日、ずっと落ち込んでいたが前田の言葉にすごく助けられた気がした。
「気になったんだけど、なんで丸刈りにしたわけ?」
山田さんが予想通りの質問をしてきた。
「それは・・・・・・ですね」
そして俺はクリスマスの後から、坊主になったこれまでの話をした。
一切の作り話はせず、あったことそのままを話した。
「―――ということなんですよ」
前田も山田さんも、驚いた顔をしていた。
「そ、それは結構怖い話だな・・・・・・。一応聞くけど、今の話本当なのか?」
「本当なんですよ。それからなんか怖くなって、ずっと引きこもってました」
「うーん、不思議なことが起こるもんだな・・・・・・。まあ、とりあえず考えすぎてもまとまらないから、先に初詣に行こうぜ」
そう言って、前田が家に出る事を勧めた。
切り替えの早い奴だと思った。
「それもそうだな。よし、行くか!」
山田さんの言葉で、三人は神社に向かった。
俺の家から神社まで、徒歩で約二十分程度のところにある。
三人ともダウンジャケットで厚着をしているのだが、不意に吹く風が肌を凍らせる。
「ふう、今日は結構冷えますね。初詣に行ったら、その後何かあったかい物食べに行きましょう」
ふと思いついたことを俺は言った。
「うーん、そうだな。何か食べたいのはあるか?」
「屋台でたこ焼きが食べたいです!」
山田さんの質問に、前田が笑顔で即答した。
「たこ焼きか・・・・・・良いね。神田は何か食べたいのはあるか?」
「俺は、願掛け気分で甘酒を飲みたいですね」
「「おおー」」
前田と山田さんは感心したような声を出した。
「なかなか良いセンスだな、神田。食べ物じゃないけど」
「チョイスが大人らしいね。食べ物じゃないけど」
「食べ物じゃなくてごめんなさいね・・・・・・」
「でも甘酒は良いよな。こういう時くらいしか飲む機会ないし、飲みに行こうぜ」
「あ、でも俺お酒初めてです」
「え、甘酒はアルコール入ってないよ」
前田の言葉に俺が答える。
「へえ、そうなんだ・・・・・・って、こんなしょうもないことが今年の初知識かよ」
「しょうもないって言うなよ。ていうか初知識ってなんだよ」
「え!神田、初知識知らないの?」
「知らないし知りたくない」
「知らないなら教えてやらないとな」
「いや、別にいい」
「いいか?初知識とは―――」
そんなくだらない会話をしながら、三人は神社に着いた。
人は老若男女溢れ返るようにいて、お参りをしに行く人や用が終わり帰る人、屋台で遊んでいる人やゆっくりしている人で、道は混雑していた。
「うわぁ、結構いますね」
「こりゃあ結構時間かかるだろうな・・・・・・」
俺たちは少しため息をはき、神社に向かう事にした。
だけど、意外な事に早く着いた。
神社までの道のりは近くない。むしろ遠い方だ。
何故早く着けたのだろう・・・・・・。
頭にかぶっているニット帽を山田さんに外すよう言われ、とって少し歩いていると周りの人が道をゆずるように一直線の道が出来てしまったのだが・・・・・・何故だろう。
少し不思議に思ったが、ラッキーだと思い急いで神社に向かった。
俺の後ろで前田と山田さんが、少し笑っていたのが気に病むのだが・・・・・・。
お参りをする事にした。
『十分にご縁がありますように』という言葉にちなんで、三人とも十五円をお賽銭箱に入れた。
神社に向かって二礼二拍一礼をし、願い事をする。
「なあ、何お願いした?」
山田さんは俺と前田に聞いた。
「そりゃあ、彼女ができますようにです!」
「あーあ、言っちゃったな」
前田が即答したことに俺は反応してつい言ってしまった。
「え、何が?」
「神社でした願い事を、他の人に言うとその年は叶わないらしいよ」
「う・・・・・・うそだろ!」
前田はショックをうけていた。
山田さんは声をあげて笑っていた。
「山田さん!なんて事してくれるんですか!」
前田は山田さんの肩を揺さぶる。
「いやー、まさかこの話知らないとは思わなくってさ、まあ前田は今年一年も彼女できないってことで、頑張れよ」
「そ、そんなぁ・・・・・・」
がっかりしている前田を見て、凄く哀れに見えた。
「神田!お前は何をお願いした!」
「今こんな話したのに言わないよ」
「ちくしょう!」
なんだか最後の悪あがきみたいで、ますます哀れに見えてしまった・・・・・・。
ちなみに、俺は何もお願いをしていない。
何度も言うが、俺は神をじていないから、お参りには行くがお願いはしていない。
変だと思うだろうが、皆がやっている行事にはちゃんと参加しようと思っている。
お参りの次は、おみくじを引く事にした。
俺たちはおみくじを引いて見せ合った。
山田さんは中吉、前田は大吉、俺は小吉だった。
「やった!俺大吉だ!」
「はあ?なんで前田が大吉なんだよ」
前田の喜びに山田さんは不満をぶつける。
「日頃の行いってやつですよ」
「もう立ち直っているよ。単純だな」
「そういう神田は小吉じゃん。神田は日頃良い事しないから神様からは良い奴って思われてないんだろうな。もっと良い事しないと駄目だぞー」
「例えば?」
「そうだな、例えば俺の荷物運んだり、俺に飲み物おごってくれたり、俺に金貸したり、他には・・・・・・」
「それ、パシリって言うんだぜ」
俺は前田の例えばトークを止めた。
「んだよ、まだまだいっぱいあるぞ」
「一つ聞くが、俺がそんなことしていたらどう思う?」
「気持ち悪いな、引く、いや・・・・・・ドン引きだね」
「山田さん、いくらなんでも言いすぎでしょ」
地味にへこんでしまった。
そこで前田が俺の肩に手を置いた。
前田を見ると、眉間にシワをよせ半笑いをし、哀れだなと言わんばかりな表情でゆっくりと頷いた。
「てめえぶっ殺されたいのか?」
少しイラッとした。
・・・・・・話題にはしなかったが、俺のおみくじにはこう書かれていた。
『うまくいかないことが多い。時にはうまくいくことがあるが、それはほんのひととき。控えめの人生ですごすのが、開運の導きとなるでしょう』
要するに、調子にのらず大人しくしとけ・・・・・・との事なのだろうか。
小吉は初めて引いたのだが、あまり良い事は書かれていなかった。
待人、来ず。恋愛、現れず。勉学、出来ず。
落ち込みそうだったが、一つは別だった。
『金運、絶頂期』
「・・・・・・」
少し奇妙に感じたが、あまり気にしないようにした。
その後はお守りを買いに行った。
山田さんは安全祈願の一つ、 前田は数えるのが面倒くさいくらい大量に購入した。
「お前、本当に馬鹿だろ・・・・・・」
「ん、何が?」
「いや、何でもない」
こいつ、どっかズレてるよな。
「あれ、神田は何も買わないのか?」
「いや、自分はこういうの買わない主義ですから」
「ふうん、どうせだから何か買っちゃいなよ・・・・・・な?」
「うーん、そう言われても、何を買えばいいかわかんないんですよね」
「じゃあ、これ良いんじゃないか?お前宝くじ買ったし・・・・・・」
そう言われ、金運のお守りを半ば強引に買わされた。
「これ、持っとくだけで良いんですか?」
「そうだよ。何かに付けとけば?」
「じゃあ、これに・・・・・・」
そう言い、俺は財布に付けた。
「おっ、良いとこに付けるね」
「いやあ、金運だから財布がベストかなって」
「なるほどね・・・・・・ん?前田は?」
前田を見ると、今買ったお守り全部を自分のかばんに付けていた。
「お前、本当に馬鹿だろ」
「ん、何が?」
「いや、何でもない・・・・・・」
やっぱこいつ、どっかズレてるなと思った。
ありがとうございました。
次話もお楽しみにm(__)m