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俺は神を信じない  作者: コハ
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四話 宝くじを買う

四話目になります


神田誠  主人公

前田智  同僚で同い年

山田繁人 同僚で五つ上の先輩

大竹一哉 同僚で先輩。おまじないを勧めた人



家に帰ってからは特に何をする事もなく、早い時間に布団に潜り込んだ。

目が覚めるといつもは垂れ眼で、見ただけで寝不足だと分かるくらい疲れている顔をしているのに、今日はなんだかとても目覚めが良い。

最初に目を開けた時から感じたが、目の疲れが無くなっているのがわかる。

凄く気分が良い。

体を起こし背伸びをすると、寝ただけでこんなに体調が良くなくなるのかと思うくらいに気分が良かった。

時計をチラッと見る。

現在十一時半。



「・・・・・・げっ!」



どうやら長時間寝ていたらしい・・・・・・。

凄く気分が良かったのが、その事を知ってしまうと急に体がだるく感じてしまった。

それに、前田と山田さんと待ち合わせの時間は十二時だから、あと三十分しかない。



「やべぇ・・・・・・やべッ!痛って!」



急いで支度をしようと起き上がり、足を前に出したところでテーブルの脚に小指をぶつけてしまい悶絶した。

痛みに我慢しながら、俺は急いで準備を済ます。

蛇口から出る冷たい水で顔を洗い、服を着替える。

部屋にある鏡で全体を見渡し、「よし」と小さい声で気合をいれて、待ち合わせ場所に向かって家を出た。

一生懸命走ってきたのだが、十二時二十分と時間はとっくに過ぎている。



「おーい、神田―」



前田と山田さんはすでに待ち合わせ場所にいた。

前田は手を振っているが、山田さんは腕を組んで不機嫌そうな顔をしている。

山田さんは結構時間に厳しい人で、俺が遅れたから怒っているみたいだ。



「はぁはぁ、遅れて・・・・・・すいませんした」



少し申し訳無さそうな顔で山田さんを見ると、やっぱり怒っていた。



「遅いぞ、まったく。次からは遅れないようにしろよ」

「はい・・・・・・気をつけます」

「んじゃ、早速行きますか」と、山田さんはすぐに機嫌を戻し、明るく接してくれた。



服を見たり、ゲームセンターに行ったり、クリスマスツリーに飾られたイルミネーションを観賞して、俺たちはクリスマスを遊戯着に楽しんだ。

食事は宝くじを買うおまじないをするまで食べちゃ駄目との事だから、それが終わってからという事になった。

何年振りだろうか、クリスマスという日に外出していろんな所に行くのは。

これまで彼女がいなかったから、外出しなかったのはしょうがない。

だけど今回は、前田も山田さんもいて、なんだか気が楽でいられるような感じがして心地いい。

今年のクリスマスは、楽しい思い出になるだろうと思った俺だった。



「おっ、もうこんな時間か。神田、そろそろ行こうか」



山田さんが時計を見て俺に言った。

俺も時計を見ると、現在二十時十分前。

周りもとっくに暗くなり、イルミネーションの光が一層眩しく感じる。



「そういえば神田、アレはやってきた?」

「あ、ああ、そういえば急いでいたからやってないんだよ」



アレとは、大竹さんに言われた、おまじないに欠かせない絵みたいなものである。

その絵が、周りにある『運気』を集める力があるらしい。

そして、買うときにその蓄えた『運気』を一気に開放するための言葉が『アーメン』らしい・・・・・・。

罰ゲームみたいで恥ずかしいのだが、言わなきゃおまじないはできないから言わざるをえない。という事で、デパートのトイレに行き、その絵を手と足に書いた。

手のひらに絵が書かれていたら他の人から変な目で見られるため、手袋を着けておく。

『運気』はすぐには溜まらないため、少し時間を置いて買いに行く事になった。



適当に時間を潰し、俺たちはついに宝くじ売り場に着いた。

宝くじ売り場は、二十一時に閉店とのことで、その十分前、閉店ギリギリの時間に来た。

ちなみにこの時間に買いに行くのはもちろんわざとである。

理由は簡単。

宝くじを買うときに言うあのセリフ、それを人だかりの中で言うのが恥ずかしいからである。

クリスマスの夜は、人口密度が高い。

そんななか、宝くじを買っている時に「アーメン」なんて、いきなりそんな言葉を言うとまわりから変な目で見られるのは当然である。

小さい声で言えばいいじゃんと思うが、それでも嫌なのだ。

気にし過ぎかもしれないが、嫌だと言ったら嫌なのである。



それともう一つ。

俺は神は信じないが、「残り物には福がある」と言う言葉は、結構信じている。

俺がここで宝くじを買う前に、他にもたくさんの人が宝くじを買っている。

その買った宝くじの中に、当たりがあるかもしれないが、俺は逆に、前に買った人の宝くじは外れで、俺が買う売れ残った宝くじの中に当たりがあることに賭けた。

まあ・・・・・・その前に、クリスマスの日に宝くじ買うって可哀想な光景を他人に見られたくない・・・・・・。

そして今・・・・・・俺と前田、山田さんの三人は宝くじ売り場に着いた。

狙い通り、売り場の周りにはあまり人はいなかった。

俺は前田と山田さんに「では、行ってきます」と言った。



「待て、神田」

「はい?」



山田さんの呼びかけに俺の足は止まった。



「「俺たちも行くぜ」」



山田さんと前田の二人が声をそろえて言った。



「え、ど、どうして?」もちろん俺は驚いた。

「お前一人でさせるのが心配だからな・・・・・・」

「山田さん・・・・・・」

「実は俺もやってみたいんだよね!宝くじ!」

「前田・・・・・・」



今、三人の気持ちが一つになった。そう確信した。



「じゃあ、二人もおまじないを・・・・・・」

「「それはしない」」

「あ、そうですか」



気持ちが一つになったのは、気のせいだった・・・・・・。

前田と山田さんは普通に宝くじを楽しむようだ。

最初に山田さん、次に前田が宝くじを買った。

そして俺の番がきた。



「いらっしゃいませ」



受付の女性が優しく挨拶してくれた。



「年末ジャンボ宝くじをお買い上げですか?」

「はい」

「連番、バラの二つがありますが、どちらにしますか?」

「バラでお願いします。」

「はい、いくら分お買い上げになりますか?」

「じゃあ、三千円分お願いします」



一枚三百円だから、十枚である。



「はい、本日年末ジャンボをお買い上げになりまして、誠にありがとうございます。こちらが、年末ジャンボ宝くじでございます」



そう言って、受付の人が宝くじを渡そうとした時に、俺は手を前に出してストップをかけた。

受付の人の手がとまり、不思議そうな顔をする。



「どうかされましたか?」



受付の人は、疑問そうに声をかけた。

そして俺は、言わなくちゃいけない・・・・・・。



「アーメン」という言葉を。



さっき山田さんに言われた「普通にそれだけを言っちゃなんか変だし、全然面白くないな。どうせだったら、思い出に残るように決め台詞風に言ったらどうだ?」というアドバイスを言われたため、俺はそれを実行にうつした。



「今日、この日に、ここで宝くじを買うのは神のお導き、そして運命でしょう。この中に当たりがあり、翼の生えた札束が、ここに舞い降りてくる事を願い・・・・・・」



言葉だけではなく、いろいろ振り付けをしながら考えていたセリフを言い、手を受付の人の方に手を差し伸べ・・・・・・。

俺は言った。



「アーメン」



「・・・・・・」

「・・・・・・」



俺と受付の間に沈黙が生じた。

・・・・・・恥ずかしい。

それはもう、とてもとても恥ずかしい気持ちだった。

この場からすぐにでも走り去りたい気分だ。

俺は今、どんな顔をしているのだろう・・・・・・。

恥ずかしさのあまり、顔の温度が急上昇しているのがわかる。

頭がクラクラしてきた。

受付の人がドン引きしていた。

「は、はぁ」とか言って、頑張って笑顔を作っているようにしているが、全く笑顔の形になっていなかった。



初めてだよ。

初体験だよ・・・・・・こんな空気味わったの。

耐え切れねぇよ。

助けてくれよ・・・・・・。

助けてくれよ!前田!山田さん!

振り返って二人を見ると・・・・・・笑っていた。

大爆笑していた。

腹と口押さえてから笑うのを必死で堪えている山田さんと、何も隠さず大声で笑っている前田がいた。

俺の顔は・・・・・・自分でもわかるほどの無表情だった。

完全なる『無』になっていた。

山田さんに言われてこんな事した自分が馬鹿馬鹿しく思えてしまった。

なんか・・・・・・死にたい。

シニタクナッテキタ。

恥ずかしい。



「もう・・・・・・どうにでもなれ」



受付の人が持っている宝くじに手を差し伸べ、店員がそれに気付き、慌てて俺に宝くじを渡した。

宝くじを受け取った。


その瞬間だった。



「・・・・・・ッ!」



ドッ!と一気に体に疲れが走り、急に体の力が抜けた。

呼吸も荒くなり、喉の奥が乾き始めた。

まるで、長い距離を全力疾走したとか、ボクシングを何ラウンドもおこなった後のような感覚だった。

体はだるくなり、まともに立てなくなっていた。

目まいで視線が定まらず、腰を下ろせざるをえなかった。

変に汗もかきはじめ気持ち悪く感じる。



「はぁ・・・・・・、はぁ、な・・・・・・え?」



全く意味が分からなかった。

何が起こったかもわからず、俺の思考回路は止まっていた。

落ち込んだフリしているのかと思って、前田と山田さんはまだ笑っていた。



「大丈夫ですか!」



受付の人が俺に声をかけ、駆け寄って来ている様子を見て、二人も俺のところに駆け寄ってきた。



「おい!神田、大丈夫か!」

「どうした、しっかりしろ神田!」



前田も山田さんも俺に声をかけている。

俺に声をかけて心配してくれているのは嬉しいが、正直それどころではなかった。

今、俺の頭の中で考えてられるのは一つだけだった。

そう、たった一つだけ。

それは・・・・・・。



「はぁ、はぁ・・・・・・が・・・・・・った」

「なんて?聞こえねぇよ、もう一度言ってくれ!」



山田さんが俺の肩に手を当て、大声で叫んだ。



「と、とりあえず、救急車!」



そう言って、前田が慌てて携帯電話を取り出す。



「はぁ、腹・・・・・・が・・・・・・へった」

「「「・・・・・・は?」」」



前田と山田さんと受付の人が、一瞬時が止まったように間を空け、理解していない顔をして言った。

前田の携帯電話はすでに病院に電話をしていて、数回コールが鳴った後病院の人が電話に出ていた。

俺はもう一度言った。



「腹が・・・・・・はぁ・・・・・・減った。何か、食べたい・・・・・・」

「腹が減ったのか?何か食べたいのか?」



山田さんが言い、その言葉に俺が頷く。



「お腹が・・・・・・・・・・・・すいただけ・・・・・・」



前田が小さく言った。

受付の人は唖然していた。

周りに人がいなくて本当に良かったと思った。

売店から漏れる光が、まるでスポットライトかのように俺たちを照らしていた。

こんなシュールな光景、見せてはいけない。絶対に笑われる。

前田の携帯電話からは、応答をねがう要求の声が何度も聞こえていた。




ありがとうございました。


次話もお楽しみに(´・ω・`)

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