一話 何気ない日常
本編に入る前の小話って感じです
物語は三年前から始まる。
俺は少し都会外れのアパートに一人暮らしをしている。実家も同じ地区にあり、そう遠くない場所にある。
どうして一人暮らしをしているのかというと「単純に一人暮らしがしたい」「親離れしたい」という、大人になるとしたくなる自然的行動が理由である。
だけど、親は心配だからとよく顔をだしに来るし、晩御飯を作るのが面倒くさいという理由で、俺の方から実家に帰ったりもする。本当に親離れができているのかと言うと・・・・・・それは聞かないでほしい。
部屋は十二畳ほどのワンルーム、家賃は意外にも二万五千円と安い。シミがあるとか、軋む音がうるさいとか不満は多々あるが、家賃が安いため文句は言えない。むしろ安くてありがたい方だ。
風呂はなく、近くの銭湯で済ましている。
特に綺麗好きでもない俺の部屋の中は、捨ててないゴミ袋やら、洗濯したけど畳んでなくてほったらかしの服とかが、部屋中に転がっている。
一目見て誰もが「汚い」と呟くほどだろう。
だが面倒くさがりな俺は、いざ掃除をしようと思ってもなかなかことが進まないのだ。その為、たまに顔をだす母親が様子を見るついでに掃除をしてくれている。母親というものは、自分の息子の部屋が汚かったら無性にイライラするものなのだろうか。文句を言いながらも、掃除をしてくれる。
「あんたはいつになったら自分の部屋を掃除できる人になれるのかねぇ」
口癖のように、母親はぼそぼそ独り言をつぶやいている。
それを俺は、いつも聞いていないフリをする。
俺が一言言うと、その何倍にもなって返ってくるからだ。
正直面倒くさい。面倒くさい事にはあまり関わりたくない、疲れるだけだからである。
そしてこの日も、俺の部屋を掃除してくれていた。
母親は一通り終わったところでお茶を飲む。
「掃除ありがとう」
「いいえ」
返事をし、母親は俺を見てため息をついた。
「まったく、あんたはいつになったら自分の部屋を掃除できる人になれるのかねぇ」
「・・・・・・」
母親はいつもの口癖を言い、俺はそれを聞こえないフリをする。
「誠、聞こえているでしょ?ちょっとこっち来なさい」
そう言われ、俺は母親の前に座る。
「あんたいつも部屋が汚いけど、綺麗にしようとは思わないの?」
「・・・・・・思っています」
「じゃあなんでやらないの?」
「まだ掃除しなくても大丈夫かなって」
「あんなに服とゴミが散らかっていて大丈夫ですって? あんた、もし急に友達が家に遊びに来て、汚い部屋を見たらどう思う? 『誠、掃除してないんだな』って笑われるわよ」
「いや笑いはしないと思うけど・・・・・・」
「だいたいね――」
こんな感じでいつも面倒くさい説教に入る。
「――だからあんたはちゃんとこまめに掃除しないから、清潔感がない人に見えるのよ」
「別に掃除が嫌いって訳じゃないよ。ただ、掃除してもまた散らかるし、それに綺麗過ぎたら、なんかこう・・・・・・逆にイライラするんだよ」
「まあ、綺麗過ぎるのが嫌ってのいうのはわかる気がしないでもないわよ。お父さんがそんなだものねぇ。良く似ているわね、親譲りかしら?」
「うるせぇ」
「でも、掃除するのは大事よ。掃除をすると心も一緒に綺麗になるんだから」
「心を綺麗にしたら、何かあるのかよ」
「んー、神様が何かご褒美をくれるかもよ?」
「・・・・・・」
またそれかよ。
何か良い事したら神様がご褒美を与えてくれるなんてでまかせだ。
嘘だ。この世に神などいない。
俺はこの世に生まれて二十年、神を信じていない・・・・・・そう、神なんていないのだ。
この時の母親は嫌いだ。口喧嘩をして、一週間も口を聞かなかった事もあるけど、その時より嫌いだ。楽しく話をしていても一気に気分が冷めてしまい、何も話す気力が無くなってしまう。
その後も、少し掃除をしてから母親は実家に帰った。
掃除してくれるのはありがたいけど、こんな話をするのだったらあまり家に来ないでほしいと、内心思ってしまった。掃除はこれから自分で何とかする。
正直、有難迷惑と思っていたところだった。
でも、本当の事を言うと感謝はしている。掃除をしてくれなかったら、今ごろ俺の家はゴミ屋敷になっていたかもしれない。二十歳になって大人になった俺を、いまだに子ども扱いし、心配しているところはうざったく思えるけれど、そんなふうに見てくれる事が内心嬉しい自分がいる。
だから、いつかはちゃんとお礼をしようと思っている。今はまだ一人暮らしの生活でいっぱいいっぱいなのだが、しっかり仕事をして、お金を貯める努力をしようと思っている。
最近は「お金が貯まったら何を買ってあげようか、旅行とかも悪くないかもな」とか思い、まだまだ先の事を考えている。
先の事を考えるのは悪くないだろう。親孝行をするのは良い事だ。
だって、親のために何かをするのは当たり前だろ?
ありがとうございました
次話から物語は進んでいきます