十八話
十八話になります
ラストスパート!
月日は流れた。
急に話をとばしすぎて申し訳ないのだが、あれから最悪な日々が続いていた。
借金を返すために家にある家具、服、テレビ、貯金、全て渡したけど借金の半分にも満たなかった。
保険でもらえるお金では、生きていくだけで精一杯で借金は返せない。家の中は何も無い。俺の周りには何も無い。何もかも、無くなってしまった・・・・・・。
借金取りは毎日のように来た。
もうお金が無いのをわかっているのに何度も来た。留守を装っても何度もチャイムを鳴らし、暴言を吐きながらドアを叩く。
俺は家の隅っこで一人うずくまり怯えていた。恐怖で、体の震えが止まらなくなっていた。
同じアパートに住んでいる人や大家には出て行ってほしいと言われ、俺はその度にしがみついて謝り続けた。
そんな日々を耐え、十二月二十五日のクリスマスが来た。
夜になり、俺は久しぶりに家を出た。
街中を歩くと、周りは家族連れやらカップルで人がたくさんいた。
そんな中、俺は浮いていた。
それもそうだろう。片足義足で髪はボサボサ、ひげも伸び、体は痩せ細り、ボロボロの服を身に着けていて、松葉杖をついて、今にも倒れそうな危ない歩き方をしていた。
周りからは怪しい目で見られているのが見ずともわかる。
そんな俺は、ある所に向かっている。おわかりだろう、宝くじ売り場だ。
おまじないをして、もう一度大金を手に入れる。
そして、借金を全て返済し、普通の生活を暮らすんだ。
だけど、おまじないをするからには代償が必要だ・・・・・・。
そんなことはわかっている。
代償?そんなもんくれてやる。
もう俺は、こんなクソみたいな毎日からおさらばして、普通の暮らしになれるんだったらなんでもくれてやる。
神とか仏とか、ましてや死神とか・・・・・・ふざけるのもいいかげんにしろってんだよ。
もう神がいようがいなかろうが関係ない。
早くおまじないを終わらせて、大金を手に入れて、こんな地獄をとっとと終わりにしてやる。
歩いている途中に、ふと気付いた。
「・・・・・・あ、忘れてた」
力の無い声が俺の口から出る。
あの五芒星の絵を書くのを忘れていた。とりあえず書こうとしたのだが、ペンを持っていない。買おうにも宝くじを買うために必死に隠したお金しか持っていない。
「お、いいもん・・・・・・見つけた」
どうしようと辺りを見回して良い物を見つけた。
俺はそれを手に取った。
それは、空になった瓶だった。
誰かが酒を飲んだ後に、建物と建物のすき間に投げ捨てたのだろう。
俺はそれを叩き割ると、破片が辺りに飛び散った。瓶の破片を手にして、俺は人目のつかない場所に隠れた。
そこで俺は、両手と左足の皮膚を切って五芒星の絵を書いた。
その瓶の破片で・・・・・・。
もちろん痛かった。痛いし、血も出てきた。
最初は人差し指だけ切って出てきた血で書こうと思ったが、途中で絵が消えてしまったらと思うと不安になったため、瓶の破片で両手と左足に直接五芒星の絵を書いた。
ガリガリ、ガリガリ・・・・・・と音を立てながら俺は書いた。
何故か痛みは途中から快楽へと変わり、俺は不気味な笑顔を作っていた。
「へ、へへ、これで、もう大・・・・・・丈夫」
五芒星の絵を書き終わり、俺は宝くじ売り場に向かった。
周りからの視線はますます酷くなっていた。
片足義足で髪はボサボサ、ひげも伸び、体は痩せ細り、ボロボロの服を着けていて、今にも倒れそうな危ない歩き方をしていた。その上、手からはぽたぽたと血が垂れていた。悲鳴をあげているのもいた。
俺は周りの反応など気にもせず、宝くじ売り場に向かう。
宝くじ売り場に着いたのはいいものの、周りからの視線は変わらず酷かった。
今回は人目を気にする事もせず、閉店ギリギリではなく、まだ周りに人がたくさんいる時間に堂々と俺は宝くじ売り場に訪れていた。
「え、えっと、本日は宝くじをお買い上げに来たのですか?」
受付の人はおどおどしながらも、なんとか言った。
「・・・・・・」
俺は何も言わず、お金を受付の人に渡した。
「え?あ、あの・・・・・・」
「・・・・・・下さい」
「あ、はい?」
「年・・・・・・ンボ・・・・・・下さい」
「あの、すいませんお客様、もう一度・・・・・・」
「聞こえねえのか!年末ジャンボ下さいって言ってるんだよ!何度言わせたらわかるんだこの野郎!」
俺は怒鳴った。
少しがやがやしていた周りは一気に静かになった。
「あんた耳大丈夫か!ふざけんじゃねぇぞ、こっちはお金出してるんだからさっさと宝くじ出せって言ってんだよ!」
「す、すいません!少しお待ちください」
受付の人は完全にびびって、慌てていた。
そのせいで宝くじを出すのも遅れてしまい、ますます俺を苛立たせる。
「早くしろっつんだよ!このノロマ!」
「お、遅れて誠に申し訳ございません。こちらが・・・・・・年末ジャンボになります」
そう言って、受付の人は震えながら俺に宝くじを差し出した。
俺はそれを奪い取るかのように掴み、不適な笑みを浮かべた。
そして言った。
あの言葉を・・・・・・。
「アーメン」
「・・・・・・ッ!」
そして来た。
あの感覚が。
あの症状が。
俺は脱力し立てなくなった。
溢れるほどの汗、目まい、体のだるみ、激しい鼓動、体中が奮えていた。
急に怒鳴ったり、急に座り込んだりで、周りも受付の人も戸惑っていた。
「・・・・・・はあ・・・・・・はあ」
「あ、あの・・・・・・大丈夫ですか?」
受付の人が俺のところに駆けつけた。
「ひ、ひひ・・・・・・」
「・・・・・・?」
「ひひひひひひひひひひひひっひひひひひひひひひひひひひっひひひひひひひひひゃははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
俺は突然笑い始めた。
そんな俺を見て、周りは完全に引いていた。周りから俺を見たら、完全に狂った人にしか見えていないだろう。
「き、来た、ついに来た。これだよこれ!俺はこれを待っていたんだ・・・・・・。これで俺は、やっと自由だ!ひひ、ひゃはははははははははははははははははははははははははは!」
家族連れだったのだろう、子供が俺を見て大泣きしていた。
怖い、怖いと言って・・・・・・。
それを俺は、全然気にしなかった。
俺は周りを、他人を気にせず、自分の事しか見えていなかった。他の奴なんてどうでもいい、そう思っていた。
それだけ俺は、人間として落ちていて、人間としての価値が無くなっていったのだろう・・・・・・。
ありがとうございました!
次話もよろしくお願いします( ..)φ
小話をはさんで、次話が最終話になります。