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俺は神を信じない  作者: コハ
13/21

十二話

十二話になります


神田誠  建築業で働く主人公

前田智  同僚で同い年

山田繁人 同僚で五つ上の先輩

大竹一哉 同僚で先輩。おまじないを勧めた人



急に話がとんで申し訳ないが、あれから何ヶ月も経ち、現在はクリスマスの夜である。

クリスマスといえば、ちょうど一年前に俺と前田、山田さんの三人で宝くじを買いに行った日だ。

そして今日、一年前と同じように俺は宝くじ売り場に来ている。

今回は俺一人だけ・・・・・・のはずだったが・・・・・・。



「よし、行くか」

「ちょっと待て」



前田が行こうとしているところを俺は止めた。



「なんでお前がいるんだよ」

「ん?良いじゃん良いじゃん!俺も暇だったんだしさ」

「ったく・・・・・・」



何故か前田が俺と一緒にいる。

この日に宝くじを買いに行くのはみんなには内緒にしている。

もちろん、前田にも山田さんにも大竹さんにも・・・・・・。

前田にしては、昨日電話で



――――――



「神田、お前明日宝くじ買いに行くのか?」



急にそんな事を言われて俺はその時驚いた。

買いに行く気だが俺は「いや、行かないよ」と言った。



「ふーん、そっか・・・・・・わかった。じゃあ、暇だから明日遊びに行こうぜ!」

「ああ、いや・・・・・・俺明日高校の頃の友達と遊びに行くんだ。ごめんな」

「そっか、わかった」



そう言って前田は電話を切った。

大竹さんと話したおまじないの代償とかの話は、前田も山田さんも知っている。

信じているかはわからないのだが・・・・・・。

もし俺が、「宝くじを買いに行く」と言ったらあの三人は俺を止めにくるだろう。それに俺は「もうおまじないはしない」とも言っている。

だから、俺が宝くじを買いに行くとは思っていないと・・・・・・思っていたのだが、外に出ようとドアを開けると・・・・・・。



「よっ」

「・・・・・・え?」

前田がいた。



――――――



そして現在にいたる。



「っていうか、お前は俺を止めないのかよ」

「ん、なんで?」

「だって俺、今から宝くじ買いに行くんだぞ。あのおまじないをして」

「ああ、俺は止めないよ。だって・・・・・・」

「だって?」

「おもしろそうじゃん!」

「ああ、お前そういうやつだったよな・・・・・・」



そういえば、前田の趣味は人間観察だった。



「もしかして、俺が宝くじを買いに行くって知っていたから、俺の家の前で待ち伏せしていたのか?」

「もちろん!」

「そ、そっか・・・・・・」



お見通しだったってことか。



「なんでわかった?」

「そりゃあ、クリスマスに近づくにつれてお前がソワソワしてきているのを見れば誰でもわかるでしょ」

「いや、お前にしかわからねえと思うよ・・・・・・たぶん」

「そんなにソワソワしていたか?」

「うん、遠くから見てもわかりやすかった」

「そこまでかよ」

「まぁ、俺と神田は一年と九ヶ月の仕事の付き合いじゃないか!隠そうとしてもバレてるもんだぞ」

「一年と九か月でわかるもんなのかよ」

「ちなみに、お前と喋っているとき大竹さん、かなりいやらしい目でお前を見ているぞ」

「えっ!まじで!」

「冗談」

「もうそれ以上なにも言わないでくれ・・・・・・」



こいつと話しているだけで疲れてしまう。



「前田は今回買うのか?」

「どうせ当たらないから買わないでおくよ。そういえば神田、あの絵はもう書いたのか?」

「ああ、家で書いてきたよ」

「なんだかんだ言って、おまじないは信じているんだな」

「そういうんじゃないよ」



俺は手袋を外して前田に見せる。



「うわっ、赤色!」

「言ってなかったっけ?黒じゃなくて赤色にすると、当選金額が上がるみたいなんだよ」

「へー、なるほどね。でも、本当に当選金額が上がる・・・・・・だけ?」

「ん?他に何が上がるんだよ」

「たとえば、代償の価値・・・・・・とか」

「んなことあるわけないだろ?どうせまた髪だって。神様だけにさ」

「え、その短い髪で?」

「お前に言われたくねえよ。これでも頑張って伸ばしたほうなんだぞ。さ、行こうぜ」



現在二十時五十分。

前に言った通り、さすがにアーメンと人前では言いたくないので、二十一時の閉店ギリギリの時間を狙って宝くじを買いに来た。



「いらっしゃいませ。何をお買い上げになりますか?」

「えっと、年末ジャンボをお願いします」

「はい、バラと連番の二つがありますがどちらにしますか?」

「んーと、バラで」

「はい、今回は何枚お買い上げになりますか?」

「十枚の三千円分でお願いします」

「はい、こちらが年末ジャンボ宝くじバラ十枚でございます、ありがとうございました」

「・・・・・・」



宝くじ売り場の店員は、俺に宝くじを差し出した。

俺がこれを手にとりアーメンと言うと、あの時の症状がでる・・・・・・はずだ。

本当に出るのだろうか?

少し不安になる。

別にあの症状になりたいわけじゃないのだが、あの症状があらわれれば、おまじないは成功したということになる。

息を飲んだ。

そして、少し息を吸い、宝くじを手にとる・・・・・・。

そして俺は言った。



「アーメン」



大きな鼓動が鳴った。



「・・・・・・ッ!」



そしてきた・・・・・・あれが。

あの症状が!

俺はすぐに立てなくなりひざまずいた。



「お、おい!神田!」



それを見て、前田はすぐに俺に声をかける。



「き、きた・・・・・・」

「は?」

「きた、きた・・・・・・きたきた、ふふふっ。きた・・・・・・きたきたきたきたきたきたああああああああ!」



俺は大声で叫んだ。

急にひざまずいてどうしたと思ったら、急に叫んだりして、前田と店員は、俺を見て凍ったように動かなかった。

でも、そんなの今の俺には関係ない。

どうでもいい。

この症状、一気に疲れが走り、体の力が抜け、まるで全力疾走した後のような呼吸の乱れ。気持ちの悪い汗をかき、めまいを起こし、後から体がだるくなる。

そう、この症状だよ。

待っていた。この症状を待っていた。

俺は、俺は・・・・・・。



「俺は、これを望んでいたんだ!」



上を向いて大声で叫んだ。

その時の俺はあまりにも不気味な顔で笑っていたと、前田から後になって聞いた・・・・・・。

「お前本当に大丈夫かよ」

「だから大丈夫だって言っているだろ?心配すんなって」

「そうか、なら・・・・・・いいんだけど」



俺と前田は、一年前と同じように近くのファミリーレストランで食事をしている。

前日の朝から今まで、水で空腹をごまかしていたため、本当にお腹と背中くっつくかと思うほどにお腹が空いていた。

とりあえず、おまじないは無事に成功した。

これで一安心だ。

後は近いうちに、いるわけがない神とやらが運のパラメーターみたいなのが0のままであるのを防ぐために、代償を取りに来るのだろう・・・・・・。

まあ、俺の運が0になっているはずだとしたら、いつ、どこで、なにが俺の周りで起こるかわからないわけで、用心しておかないといけない。

今回の代償はなんだろうか。

また髪とか?

俺はなんとなく頭をさする。



「何してんだ?神田」

「ん?ああ、なんでもないなんでもない。はは、はは。」

「代償がまた髪だったらやだなって思っていたりしてな」

「・・・・・・なんでわかるんだよ」



図星だよ。



「当たってた?やっぱり当たってた?やっぱ俺ってすげえ!」

正解して前田が喜ぶ。

「だから、なんでわかるんだよ」

もう一度質問する。



「いや、ただの勘だけど」

「ただの勘でそんな答えが出せるんだったら、俺の心の中丸見えも同然じゃねぇかよ・・・・・・あ」

「ん、どうした?」



俺が何かに気付いた事に、前田が反応する



「そういえば、これ消すの忘れてた。ちょっとトイレいってくる」

「オッケー」



俺はトイレの手洗い場で両手の絵を落とし始めた。

蛇口を捻り、水を出し、手を洗う。

なんてことはない、普通の動作だ。

一年前とまったく同じだ。

そう、一年前と同じ。



「・・・・・・?」



洗っている手を止めて、ふと気付いた。

ここのファミリーレストランは結構大きい。

それに、前田と食事をしている時は別に感じなかったが、思い出せば客はたくさんいた。

だから頻繁にとは言わないけれど、四、五分間隔で客が来てもおかしくはない。

なのに、他の客がトイレに来ない。

来ないというより、なんとなくだけど来るような気配がまったく感じない。

それに、店内に流れていた音楽がいつの間にか止まっていてやけに静かに感じる。

ドアの向こうには客がたくさんいるはずなのに、話し声も聞こえない。

店員の声も、家族連れできてはしゃいでいた子供の声も、ざわざわした感じがまったくない。



「・・・・・・・・・・・・」



なんだ、なんなんだこの感覚は。

凄く、体が嫌がっている感覚・・・・・・。

体がこの場所から出たい、逃げたいと訴えているけど、俺はこの場所から出られず、この場所に一人だけ取り残されている感じが背後から強く伝わってくる・・・・・・。

何故だかわからないが、俺の体中から危険信号が発っしている。



「早く・・・・・・早く出よう」



焦りを感じ、俺は急いで手を洗った。

その時だった。



「・・・・・・え?」



急に俺の視界が、テレビの砂嵐ようになり見えづらくなった。



「な、なんだ・・・・・・これ」



体がふらつき、洗面台に両手を置いて体を支え、少し目まいがするのを抑えるために排水溝を凝視する。

こんな症状は初めてで、俺の頭の中は真っ白になったが、すぐに砂嵐はおさまり、見えるようになった。

しかし、安心したと同時にまた砂嵐が始まった。

間隔は短く、ザザッ・・・・・・ザザッと俺の視界が砂嵐で見えなくなってしまう。

少しずつパニックになり、俺の呼吸があたたかく、激しく乱れる。



「ハァ、ハァ・・・・・・」



俺は顔を上げ鏡を見た。

自分の顔が見える。

ザザッ・・・・・・ザザッと砂嵐が俺の視界を防ぐ。



「・・・・・・ッ!」



俺は、あまりの驚きに呼吸が止まった。

声も出せなかった。

俺は、今何を見た・・・・・・?

何を・・・・・・・・・・・・見た?

鏡を通して自分を見ていた。

砂嵐が一瞬おさまり、そして・・・・・・それは俺の視界に映った。

俺の後ろに・・・・・・。




死神がいた。




一目ですぐにわかる。

黒装束で、顔が皮膚も筋肉もない・・・・・・頭蓋骨だった。

黒装束を頭まで覆い、その奥から鏡越しに俺を見ていた。

俺は勢いよく振り返った。

だけど、そこには誰もいなかった。

当然といえば当然だろう。

トイレには、俺しかいないはずだから。

気付けば俺はびっしょり汗をかいて呼吸が乱れていた。

ゴクリと唾を飲む。



「ハァ、ハァ・・・・・・お、俺は」



何かを言おうとしたが、客が入ってきた。

俺はすかさず鏡の方に振り返り、何でもないような素振りをする。

気付けば店内の音楽も流れていて、ドアの向こうから客の声がたくさん聞こえていた。

さっきまでの静けさはなんだったのだろうと思うほどに、店内は賑わっている様子だった。

俺は考える事もせず勢いよく手を洗い、慌ててトイレを出た。

俺は足をふらつかせながら、前田のいる席に急いで行って席についた。



「ど、どうした神田!顔真っ青だぞ!」



前田は俺の顔を見て驚いていた。

俺は今、それ程の顔をしているのだろう。

見たくない。

いや、見れない。

また鏡を通して自分を見ると、俺の後ろに・・・・・・あいつがいそうで怖くて見れない。



「み、見たんだ・・・・・・」

「見たって、何を?」

「・・・・・・」

「おい、神田。大丈夫か?」

「いや、なんでもない・・・・・・大丈夫だよ」



俺はそう言って、笑ってごまかす。



「どう見ても大丈夫じゃないだろ、どうしたんだよ神田!」

「・・・・・・」



言えない。

絶対に言えない。

前田にも、他の誰にも・・・・・・。

おそらく、あいつはおまじないをした俺から代償をとりにきたのだろう。

神が、死神が・・・・・・。

神は神でも、死神だったって事なのか?

・・・・・・わからない。

でも、もしこの事を目の前にいる前田に言ったら、その話を聞いてしまった前田はどうなる?

もしかしたら・・・・・・いや、考えすぎだ。

でも、この事は絶対に誰にも言ってはいけない。

何がおこるかわからない。



「ごめん、俺先帰るわ」

そう言って俺は席を立った。



「おい神田。待てよ」

「え、ああ・・・・・・悪い。お金払わずに帰ろうとしていたや。はは・・・・・・」

俺は前田にお金を渡そうとした。

だけど前田は受け取らず、お金を持っている俺の手首を力強く掴んだ。



「前田?」

掴まれていた手のから前田への視線に変わる。



「金のことはいい、何があったか話さなくてもいい、とりあえずしっかり休めよ」

「あ、ありがとう」

前田の優しさに俺は感動し、感謝の言葉を言った。

「また初詣行こうぜ。山田さんと三人でな」

「・・・・・・うん」



俺は力なく返事し、前田を残してファミリーレストランをあとにした。




ありがとうございました


次話もお楽しみにm(__)m

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