十一話
十一話になります
神田誠 主人公
前田智 同僚で同い年
山田繁人 同僚で五つ上の先輩
大竹一哉 同僚で先輩。おまじないを勧めた人
俺が出した答えは正解だった。
当たってほしくない答えが当たった時のショックが、こんなにキツイものだとは思いもしなかった。
信じたくないのだが、信じざるを得ないのだろう・・・・・・。
母親が何に取り憑かれていたのかは大竹さんも知らないらしいが、取り憑くのもこれっきりだから心配はいらないみたいだ。
仕事も終わり、今は家で仰向けに寝転がりながら、大竹さんと話していたことを思い出し、考え事をしていた。
「・・・・・・」
母親のことはもう大丈夫。心配はいらない。
俺の母親は、いつも元気だから心配するのももったいないだろう。
母親の件はそれで済んだ。
本題の話はその後だった。
『あなたの代償は頂きました』
俺が寝てしまう直前に聞こえた幻聴。
この幻聴がなんなのか大竹さんは教えてくれた。
――――――
「その『代償』が、お前の髪の毛だったんだ」
「俺の髪の毛が『代償』・・・・・・ですか?」
「そうだ。ちなみ聞くけど、起きた時にはお前の切られた髪の毛は家のどこかにあったか?」
「あ・・・・・・」
何処にも無かったことを俺は思い出す。
てっきり、母親が片付けたのかと思っていたのだが、よくよく考えると、掃除をした形跡もなかった。
「でも、俺の髪の毛は、なんの代償になったんですか?」
「それは『運』だ。お前の髪は運の代わりに持っていかれた」
「持っていかれた?ど、どこにですか?」
「いやー、それがさ、信じられないんだけど・・・・・・聞く?」
「もちろんですよ!こんな中途半端に話を切らさないで下さい!」
「・・・・・・神のところにだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
その言葉と同時に俺の頭の中は空っぽになり少し沈黙が続いた。
「・・・・・・は?い、いいいい、今・・・・・・何て言いました?神、神だって?神って神様の事ですか?あはは、何言っているんですか大竹さん。俺の髪が神のところに行くなんておやじギャグ以上におもしろくない事言わないでくださいよ。まだフトンガフットンダーとか、ネコガネコロンダーとかの方が断然おもしろいですよ。・・・・・・第一、神なんていないんですよ。冗談もほどほどにしてくださいよ。いくら大竹さんでも、嘘と本当の区別くらいわかりますよね?」
「お前俺を馬鹿にしてんのか?そんくらい区別できるわ。俺もそれだけは嘘っぽくて信じちゃいないんだけど、そう聞いたんだよ」
「聞いたって、誰からですか?」
「・・・・・・いや、それは言えん」
「何もったいぶっているんですか?言ってくださいよ。そこまで言っといて言わないつもりですか?ありえないですよ」
「無理だ。これは口が裂けても絶対に言えん。言えば、お前は聞いてしまったことに後悔するかもしれん」
「そ・・・・・・そこまでですか?」
「そこまでだ。だから・・・・・・言えん」
凄く気になる事を結局聞けなかったが、自分の事も考え聞かないことにした。
「それで、何で髪の代わりに運が必要なんですか?確かに運は必要かもしれないですけど、そこまでする必要はないんじゃないですか?」
「それはな、まあわかりやすく言うんだけど、人ってのは必ず運がないといけないらしい。例えばだな、運の最高が100だとしたら、最低でも1はないといけないという事だ」
「もし、運が0になったら?」
「死ぬ」
俺の質問に大竹さんは即答した。
この答えを早く言いたかった、その質問を待っていましたと言わんばかりの即答で、俺は「死ぬ」という言葉に一度だけ心臓が大きく動いたと同時に寒気を感じた。
「『死』・・・・・・ですか」
「まあ、死ぬって言っても急には死なん・・・・・・かも」
「かもですか」
「事故とか、通り魔とか、強盗に巻き込まれたとか、そんなふうに事件とか事故に巻き込まれて、運悪く死んでしまうみたいだ。急って言ったら、心臓麻痺とか脳梗塞とかかな」
「ちょっ、ちょっと言っている意味がわからないんですが、まあ・・・・・・よしとしましょう」
大竹さんの説明が下手なのはもう知っている。
「それで、運が0になって死んでしまわないように、運をわずかだけれど神が与えてくれるらしい」
「神が・・・・・・ですか」
神だけは信じたくないのだが、今はとりあえず聞いておこう。
「だけどタダでは運はもらえない。その代わりが『代償』だ。だから、運の代わりにお前の髪の毛は神のところに持っていかれたと言うわけさ・・・・・・わかった?」
「それはわかりましたけど、自分が何で運を必要になったんですか?もしかして、運が0になったってわけじゃ・・・・・・」
「そうだよ」
「えっ?」
「お前の運は一時期0になっていたんだよ。おまじないをして、宝くじを買ったときにな」
「・・・・・・」
俺は宝くじを買ったときのことを思い出す。
「じゃあ、あの時の体の異変は・・・」
「お前が今まで溜め込んでいた運が、一気に抜けていった事で現れた症状なんだよ。その時にお前の運は0になっていた。だからといって、おまじないをする時、運を0にはならない程度に使うみたいなことはできない・・・・・・。おまじないをしたら、運は必ず0になる」
その話を聞いた途端、俺はとても危険な事をしたと実感した。
あの時、俺はもしかしたら死んでいたのかもしれない。
この世にいなかったかもしれない。
そう思うと、さらに寒気を感じ体が震えた。
「でも大丈夫だ。だってお前は今こうして生きているじゃないか。代償も払って、ちゃんと運はあるみたいだから死なないよ」
大竹さんが俺の肩に手を置き、励ましてくれた。
「・・・・・・大竹さん」
「ん?どうした」
「そのおまじない、大竹さんが教えたんですよ」
「ん?え、ああ、そ・・・・・・そうだったっけ?」
「なにとぼけているような仕草をしているんですか、話を曖昧にしないでください。もし、これで俺が死んでいたらどうしてくれたんですか?もし死んでいたらずっと恨み続けていますよ。謝ってください」
「ご、ごめん。すいません」
大竹さんが俺に謝った。
大竹さんを謝らせるのが・・・・・・なんか、清々しかった。
「それで、話は戻って、もっと宝くじの当選金額を上げる方法はどんななんですか?」
「お、おいおい、別にここまで話したから教えてもいいが、まさか・・・・・・やるつもりじゃないよな?」
「いやいや、やらないですよ。こんな死ぬかもしれない事、もう二度とごめんです。ただの興味本位で知りたいだけですよ」
「そ、そうか。・・・・・・なら教えてやるよ」
という事で、早速教えてもらった。
「まあ、教えると言っても超簡単だぞ」
「え?そうなんですか?」
「手足にあの絵、書いただろ?」
「あ、ああ、あの絵ですか」
「何色で書いた?」
「そりゃあ、大竹さんに言われたとおり黒ですけど」
「それを赤色にする」
「赤色に、ですか?」
「そうだ」
「赤色・・・・・・ですか。それで、他には?」
「それだけだ」
「それだけ?」
「ああ、簡単だろ?」
「超簡単ですね。本当にこれだけ良いんですか?」
「ああ、本当にこれだけだ」
「逆にこれだけって心配ですね」
「本当にこれだけだよ、考えすぎだぞ」
「ふーん、わかりました、ありがとうございます」
「礼はいいけど、これは絶対にやるなよ」
「わかっていますって。人は何よりも命が大事ですからね」
「はぁん。言うじゃねぇか・・・・・・」
「んじゃ、午後の仕事も頑張りますか!」
「そうだな、行くか」
俺と大竹さんは、昼食を終え午後の仕事に向かった。
――――――
以上で、大竹さんとの回想は終了。
おまじないの事についてはだいたいわかった。
宝くじの当選金額を上げる方法、代償の事もいろいろと・・・・・・。
まあ、大竹さんも言っていてあんまり信じていなかったが、やっぱりなんと言おうと神なんていないよな。
「神への代償・・・・・・ね」
そんな事も呟いてみたが全然なんとも思わない。
いや、むしろイラッとした。
「なにが神だよ・・・・・・」
俺は仰向けになりながら、苛立ちで畳を叩きつける。
「んなの信じるかよ、馬っ鹿じゃねえの。はっ!ふざけんな」
一言ぼやくたびに、苛立ちが増してゆく。
苛立ちを抑えるために深呼吸する。
立ち上がって背伸びをし、また深呼吸する。
「・・・・・・よし」
そして、俺は決心したのだ。
ありがとうございました(^^)
次話もお楽しみにm(__)m