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俺は神を信じない  作者: コハ
11/21

十話

十話になります


神田誠  主人公

前田智  同僚で同い年

山田繁人 同僚で五つ上の先輩

大竹一哉 同僚で先輩。おまじないを勧めた人


正月休みも終わり、俺は仕事場に行くと、宝くじで百万円を当てた話はあっという間に広まっていた。山田さんと前田がすでに言いふらしていたらしい。



「良かったじゃないか!」

「おめでとう!」

「今度飯おごってくれよな!」

同僚の先輩からいろんな言葉を頂いて、その日はとても気分が良い一日だった。



丸坊主になっているのを見てみんな笑っていた・・・・・・。

もちろん、この話は大竹さんの耳にもすぐ入っていたようで、いつも集まって昼飯を食べている俺、前田、山田さんの三人の所に喜びの顔を見せながら混ざってきた。



「それにしても神田、やったな!」

少し話をしていると、大竹さんが宝くじの話をしてきた。



「ああ、はい。本当に宝くじが当たっちゃいましたよ」

「いやー、やっぱり俺が教えたおまじないのおかげだな!」

「そうなんですよ、俺は大竹さんを信じていましたよ」

「またまた、どうせ信じてなかったんだろ?」

「いえいえ、信じていましたよ」

「どうせ信じてなかっただろ?」

「信じていましたよ」

「信じてなかっただろ?」

「はい、信じていませんでした。嘘ついてすいません・・・・・・」

なんとか最後まで嘘を貫こうと思ったが、大竹さんの目が大きく開いて睨んでいる顔に負けてしまった。



「はあ、やっぱ信じてなかったのか・・・・・・」

大竹さんが本気で落ち込んでしまった。

「そう落ち込まないでください大竹さん。大竹さんが教えてくれたおまじないのおかげで、宝くじが当たったのは事実かもしれないんですから」

山田さんがなんとか大竹さんを励ます。

「かもじゃない!宝くじが当たったのはおまじないのおかげだ!」

「す、すごい自信ですね」

前田がびっくりする。



「いったい、どっからそんな自信がでてくるんですか?」

「いや、それは・・・言えん」

俺がなんとなく聞いてみると、少し慌てたそぶりを見せ言うのをやめた。



「「「えー」」」



俺、前田、山田さんの三人は少しガッカリする。

なんか怪しい・・・・・・俺はこの時そう思っていた。

いつもは自信なさげにおまじないや占いを無理矢理やらせるのに、今回は自信満々におまじないを説得したことに前々から違和感はあったのは本当だ。

でも、口とか行動には出さない。



「でも!宝くじが当たったのはおまじないのおかげなんだって!」

「そんなに自分の手柄にしたいんですか?大竹さん」

前田が痛いところをついた。

「うっ、ち・・・・・・ちがう」

「じゃあなんでそこまで言えるんですか?教えて下さいよ」

「そ、それは・・・・・・」

「さぁ、教えて下さいよ」



山田さんが大竹さんを追い詰める。

あの大竹さんが山田さんに追い詰められている。



「「「さあ」」」

俺たちはどんどん大竹さんを追い詰め、さっきまで喜びで興奮していた大竹さんの顔はおもいっきり引きつっている表情に変わっていた。



『まるで、何かに恐れているような』



「わ・・・・・・悪い。そういえば俺、やる事あったんだった。先に仕事してくるわ!」

「あっ、ずるい!話の途中で行っちゃ駄目ですよ!」

前田が言うが、大竹さんは無視して仕事場の方に慌てて行ってしまった。

「なーんか怪しいな・・・・・・」

山田さんが興味津々な顔で呟く。

「なんかっていうより、めちゃくちゃ怪しいですよ」

俺も呟いた。



「大竹さんいじめるの・・・・・・結構楽しいかも」

「「・・・・・・」」

前田の言葉に俺と山田さんは、あえて何もつっこまなかった。

前田の意外な一面を知ってしまったからだ。

それからというもの、俺が宝くじで当てた百万円はたった三ヶ月であっという間になくなってしまった・・・・・・。

何故か。

簡単に言うと、無駄遣いをしていたからだ。

友達と遊びに行った時はお金は俺が全部払い、家族で遊びに行く時も同じ事をした。そこまで欲しくも無い物をその時の気分に任せてついつい買ってしまう。

お金を使うたびに「まだ大丈夫」と残高を確認しながら思い続け、気が付いたら全部使い果たしてしまっていたのだ。

百万円が無くなってしまった時の絶望感といったら、とても口で言えるほど簡単ではないほどのものだ。



それから俺は、何度も何度もあのおまじないをし、給料のほとんどを使って宝くじを買いに足を運んだ。

別におまじないを信じているわけではない・・・・・・。

ただ、うまくいったことがあったら、まったく同じ条件でもう一度挑戦したくなるのが人間の心理ってやつだ。

買うたびに「アーメン」と言うのはとても恥ずかしかったが、それよりお金の欲望が勝っていた。

しかし、ロト6、ナンバーズ、スクラッチ、どれも全滅だった。サマージャンボも試してみたが当たらなかった。

あの時の体の症状もでてこない。



「なんで・・・・・・なんで当たらないんだ!」



何回も挑戦しているんだから、一度くらい当たってもおかしくないだろうと思うが、その期待を裏切られるかのように当たらない、当たらない、当たらない・・・・・・。

当たらないのが当たり前、そうわかっていても、こんなにも当たらないものなのかと、少しずつ俺は焦り・・・・・・苛立っていた。

お金の欲しさに、当選しない事に、欲に満ち、意味もなく焦って焦って焦って焦って焦った・・・・・・。

時には苛立ちで壁を殴り、その頻度が日に日に増えた。

今まで、苛立ってもそんな事はしなかったのに・・・・・・。



「なんで、なんで、なんで!なんで当たらないんだ!くそっ!くそっ!くそっ!」



何度も壁を殴るが、手の痛みはまったく感じなかった。

金の欲望で、痛みも、理性も無くなっていたのかもしれない。

俺は知らず知らずのうちに『欲』に飲み込まれていたのかもしれない・・・・・・・・・・・・。

俺は我慢の限界で、大竹さんに話をした。



「大竹さん、ちょっと良いですか」

午前中の仕事が終わり、コンビニで弁当を買おうとしている大竹さんに話しかけた。

「お、どうした神田」

「ちょっと話があるんですけど」

「いいぞ、じゃあ飯買ったら山田のとこに来るよ」

「いえ、二人で話がしたいんです」

「ん?おお、わかった」

そして俺は大竹さんと二人で昼食をとることにした。



「それで、話ってのはなんだ?」

「あのですね、しょうもない話なんですけど・・・・・・宝くじが当たらないんですよ」

「はあ?当たり前だろ。宝くじはそんな簡単に当たるわけねぇだろ。もしかしてお前バカなのか?」

「そりゃそうですけど、大竹さんが教えてくれたあのおまじないをやっても当たらないんですよ。やり方を間違えているはずはないのに・・・・・・なんでですか?」

「は?だってあのおまじない、クリスマスの日にしか効果ないぞ」

「え、そうなんですか!」

「あー、そういえば言うの忘れていたな、わりぃわりぃ」

大竹さんは気軽に謝った。



「あ、もしかして、おまじないどおりやったって事は、アーメンって言ったのか?」

「・・・・・・はい」

「うわっ!言っちゃったのか。これは恥ずかしい事をしたな。ドンマイドンマイ!ははは!」

笑っている大竹さんを俺は睨んだ。



「そ・・・・・・そう睨むなよ。怒るなよ、忘れていたんだからしょうがないじゃないか。そうだろ?」

「まあ、そうですけど」

「それに、そのおまじないはクリスマスの日にはちゃんと効果はでると思うから、それまで我慢しろよな・・・・・・な?」

「・・・・・・はい」

大竹さんは笑顔を見せ、俺をさり気なく慰める。



確かに大竹さんは何も悪くない。むしろ感謝しないといけないほうだ。大竹さんが教えてくれたおまじないのおかげで宝くじが当たったかもしれないのだから。

まあ、かもしれない・・・・・・だけど。

クリスマスまで素直に我慢する事にしよう。だいぶ長いが、結局はいつもの日常に戻れば、それほど苦痛ではない。

百万円あったあの時が、俺にとっての非日常なのだ。

そう自分に言い聞かせ、次の年末ジャンボ、クリスマスまで・・・・・・。

しかし、俺の欲望がこう言っている。



『もっとお金が欲しい』と・・・・・・。



その気持ちが抑えられず、俺は大竹さんに言った。

「でも、次宝くじが当たったらどうせならもっとほしいですね。なにかいい方法ないんですかね?大竹さん」

その言葉を聞いた瞬間、大竹さんの顔から笑みが消えた。

むしろ、怒っているような・・・・・・いや、恐れているような顔にも見えた。



「大竹・・・・・・さん?」



何も喋らない大竹さんに俺はもう一度声をかけた。

だけど返事は無い。

ずっと、何かに恐れているような顔をして黙ったままだった。



「あのー、おおたけ・・・・・・」

「ある」

もう一度声をかけようとしている時に大竹さんは言った。



「・・・・・・え?」

「方法は・・・・・・ある」

「もっと当選金額が上がる方法があるんですか?なぁんだ、あるじゃないですか。もったいぶらないで早く教えて下さいよ」

方法があるとわかった事に俺の気持ちは高ぶった。

「だけど神田、それはやめたほうがいい・・・・・・」

「え、なんでですか?」

「なんて言えばいいかわからんけど、それだけはやめとけ」

「そんな事言わないで、とりあえず簡単な説明で良いんですよ。簡単に」

「・・・・・・」



大竹さんは珍しくも、真剣な表情で考え込んだ。

すると、落ち着かせるように深呼吸して俺に言った。



「神田、なんであの時坊主だったんだ?」

「えっ?あの・・・・・・それは、その」



大竹さんの不意な質問に俺は、少し長くなった自分の髪をさわりながら言葉を探した。



「今、なんて言いました?」

わかっているのに、俺はもう一度聞いてみた。

「だから、なんであの時坊主だったんだ?」

「えっと、イメチェンです」

「本当の事を言えよ」

「・・・・・・はい」



どうやら、大竹さんにはお見通しみたいだ。



「言わないと・・・・・・いけないですか?」

「ああ、もちろんだ。宝くじが当たったのがおまじないのおかげだとしたら、俺の予想は当たっているはずだ」

「・・・・・・?」



大竹さんの言葉が気になったが、俺は坊主になったあの奇妙な体験の話を大竹さんに隅から隅まで話した。



「・・・・・・やっぱりそうだったか」

「あの、やっぱりってのは・・・・・・」

大竹さんの言葉を俺は気にかけた。

「予想通りだったって事ですか?」

「ああそうだ」

俺の質問に大竹さんは即答した。



「予想通りって、具体的に言うと?」

「全部で四つかな。一つ、お前が宝くじを受け取ったその直後の体の異変。二つ、様子がおかしい母親が家に来て急に眠気が来て起きたら坊主になっていた。三つ、その日にお前の家に来た事を母親はまったく覚えていない。最後に、お前が寝てしまった時に聞こえた幻聴。これが、俺の考えていた予想通りだ」

「あの・・・・・・」

「ん?どうした。なんか変なところがあったか?」

「今の話、信じているんですか?」

「もちろん信じているぞ」

「な、何を根拠に?」

「知らん」

「知らないんですか・・・・・・」

「まあ、知っているとしたらお前の坊主だけかな!ははははは!」

「あは、ははは・・・・・・」



予想通りとか言っているが、正直信じてないと思っていた。

こんな奇妙な体験話、誰が信じてくれるのだろうと思っていたが、大竹さんは素直に信じてくれた。



「まあ、単刀直入に言うと、お前の頭を坊主にしたのは母親で間違いない」

大竹さんが話を戻して、あっさり答えを言った。

「えっ!やっぱり犯人は母親でしたか!あの野郎、俺に嘘をつきやがって」

「まあまあ、そう言うなって。お前の母親も悪気があってやったわけじゃないんだからよ」

「息子の頭を坊主にするって、悪意しかないですよね?」

「いいか?お前の母親は悪気が無いどころか、記憶も無くて当然なんだよ」

「・・・・・・どういう意味ですか?」



大竹さんの言っている意味が俺にはわからなかった。

いや、わからなくて当然だろう。



「あの時の母親は、お前の母親だけど・・・・・・母親じゃないんだよ」

「すいません、あの・・・・・・言っている意味がわからないんですけど・・・・・・」

「そうか?んー、じゃあこう言おう。外は母親だけど、中身は母親じゃない」

「え・・・・・・」



言葉が出なかった。

わかってしまったからだ。

いや、わかったって言っても、ほんの少ししかわかっていないのだろうけど、本当にこの答えで当たっているのだろうか。

いや、そんなはずはない。

こんな事は、小説とかアニメとかドラマとか映画とか、そんな中での話であって、こんな現実の世界では絶対にありえないんだ。



「まあ、簡単に言うと・・・・・・」

「大竹さん」



大竹さんが答えを言おうとしているのを俺は止めた。

聞きたくないわけではない。

むしろ、聞かなければならないのだろう。

でも、この答えは大竹さんの口からではなく、自分の口から確かめたかった。

だから俺は言った。



「俺の母親は、何かに取り憑かれていたってことですか?」




ありがとうございました(^^)


次話もお楽しみにm(__)m

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