異世界へ行く方法
異世界、まあなんと中二心くすぐる言葉であろうか。
さて、異世界と聞くと大多数の人が剣がぶつかり魔法が飛び交うファンタジーな世界を思い浮かべるであろう。実際はそれだけではないのだけれど、そうだね――鈴木雄介が初めて行った異世界もファンタジーな世界だったし、まずはその話からしようか。
え? 鈴木雄介って誰だって? ふむ、至極当然な質問だねぇ、彼はどこにでもいる普通の――いや、鋏を収集したり深夜徘徊したり三年になって半年も経つというのにクラスメイトの半分以上の名前を覚えていなかったりと少々奇行が目立つがそれでも何とか普通な感じの生活をしている極異常な高校生だ。何故こんな社会不適合者が今まで生活できていたのかは知らないし興味もない。僕が知っているのは異世界に行く直前の鈴木雄介だからね、さあ、話が逸れてしまったね、じゃあそろそろ彼らの冒険について話していこうか。
「すーさん異世界行こうぜ!」
「は?」
鈴木雄介に何の脈絡もなく話しかけてきたのは平田天汰だった。
教室の自分の席でラノベを読んでいた鈴木は、向かい側にいきなり現れた友人にお前は何を言っているんだという顔を向ける。
「異世界だよ、異世界」
「別に聞き取れなかったから『は?』って言ったわけじゃないけど。で、どうした急に」
「いやさ、実は昨日異世界に行ける方法をぐぐってたんだけどさ――」
天汰は近くの席からイスを借りて鈴木の目の前に座る。
「ああ、エレベーター使ったり、寝る時に枕の下に飽きたって書いた紙を入れるアレね」
「そうそう。なんだ、すーさんもちゃっかり異世界に行く方法を調べてるじゃんか、このこの~」
天汰は肘で鈴木を突こうとしたが、向かい合わせなので肘が少し届かないことに気が付いて変に腕を曲げただけみたいな恰好になった。
「でも、今日話すのは多分聞いたことない方法だと思うよ」
「ほう、詳しく」
鈴木は読んでいたラノベにしおりを挟んでそっと閉じる。なんだかんだで鈴木も異世界という言葉に心動かされた。
「それには人数が必要なんだけど、まあ、あいつらを使えばいいか」
天汰は教室の隅でスマホのゲームで盛り上がっている集団に目を向ける。
「大和は確定として、他にも数いるの?」
「あと一人、黒石くんか赤村のどっちかを予定してる」
木場大和、鈴木や天汰と並んでクラスの三バカトリオと呼ばれている。
基本は天汰が何かを立案、大和が悪乗り、鈴木がサポートというような感じだ。それに黒石真心太、赤村一輝を加えた五人で問題児組という通り名がある。
「まあ、赤村は放課後バイトだろうし、暇があるのは黒石のほうだろうな」
「じゃあ俺は赤村が今日バイト休みに賭ける」
天汰は120円(缶ジュース一本分の値段)をポケットから机に乗せる。
「乗った。じゃあ逆の目にそれの三倍」
「オーケイ、じゃあ放課後、聞いてみるか」
丁度、タイミングを見計らったかのようにチャイムが鳴る。天汰はニヤリと口角を上げた。
放課後、学校の近くの川原には天汰たち四人が集まっていた。ちなみに、鈴木は缶ジュースでのどを潤している。
「えー、本日はお日柄もよく、足元の悪い中お集まりいただきありがとうございます」
なお、誰もツッコミを入れない。天汰は何事もなかったかのように(本当になかったのだから仕方がない)話を進める。
「今日集まってもらったのは、異世界に行く方法を手伝ってもらいたくて集まってもらった」
「それは知ってるよ。で、何すればいいのさ」
私服姿の大柄な男子、大和は、長くなった爪を毟りながら天汰に聞き返す。ちなみに、大和と黒石は授業合間の小休憩の時間に話を通している。
「よくぞ聞いてくれました、てことではいこれ」
天汰は通学から遊びにまで幅広く使っているリュックからファイルを取り出し、他三名に一枚づつ紙を渡す。紙には、俗にいう魔法陣というものがプリントされており、よくわからない読めない文字が陣の内側に沿うように描かれており、鈴木はアラビア文字とルーン文字の中間みたいな文字だと思った。
「これは?」
黒石が聞くと、すぐに天汰が答える。
「見ての通り、魔法陣だけど? 今からこれを地面に描きます」
「どうやって?」
「それは、ふっふっふ、アレを使います」
天汰が指をさす方向には、よく運動会などで石灰粉をまき散らしているライン引きがあった。
「あれ天汰のだったのか」
大和が呟く。
「今日のためだけに準備した。後悔はしないように努めている」
「あ、ちょっとはしてるんだ」
黒石のツッコミに大和は「しっ」と口止めをする。
「天汰だってその場の勢いで衝動買いしてしまったって後悔はあると思うからあまり傷口に触らないで上げよう」
「うん、そうだね」
「おいお前ら、全部聞こえてんぞ」
「とにかく、あのライン引きでこれをつくるんだね?」
「そ。それで黒石、お前を中心に陣を描くからその場から動くなよ」
「えっ」
「じゃあ俺、これ見て天汰を誘導するわ」
「じゃあ残った俺がラインマンな、オッケー」
ちなみに、鈴木は空き缶を捨てに近くの自動販売機に向かったが、誰も鈴木がいないことに何も言わない。そういう奴だと思われているのだろう。
「そこ、ちょうどそこから文字? みたいな所にはいる」
「ここな、あ、石灰切れた。かえを持ってきてくれる?」
「ほいほい」
「ねえ、僕はいつまで立ってればいいの?」
「ハイありがとう、引き続きナビよろしく」
「了解」
「おい無視するなよ」
そうこうしているうちに日は完全に暮れ、川原と自販機の間を五往復ほどした鈴木は最後まで手伝わず、すみっこで昼寝(夕方だが)をしている。黒石は足の限界を感じたが、座ることを許されずにいた。
「ねえ、本当に座らせて、イジメじゃないこれ?」
まあ、座るなという友人の意地悪な言葉を律儀に守る黒石も黒石なのだが。
そしてしばらく時間が過ぎて――
「できた!」
「うお――疲れたー!」
「ねえ、もう座ってもいいよね」
「みんなお疲れさまー」
声に反応して目を覚ました鈴木は、さらりとごく自然に輪に入る。
「いやー、みんなこんな時間までごめんな。今度メシ奢るわ」
「やったぜ!」
「当然のように混ざってきたけど何一つ手伝わなかったオメーには奢らないよ?」
「はっ? 超ショック」
「それよりも天汰、時間かけてコレ作ったけど、この後どうするの?」
大和が手を腰に当てて尋ねる。
「ああ、そうだったね。えっとね、この後はみんなで魔法陣の中に入って」
おいでおいでと天汰が魔法陣の内側で手招きをする。ちょうど、陣の内側で四人が向かい合う形だ。
「で、次は――うおおおおおおおおお!!」
天汰は両腕を空に向けて声を張り上げた。
「え?」
「元々おかしなやつだと思っていたが、急にこんな奇行を繰り出すとは」
黒石はポカンとしているし、鈴木は憐れむ視線を天汰に向ける。
「ほら、お前らもやるんだよ。あとすーさんは人のこと言えた義理じゃないと思います」
「よくわからんが、天汰のマネをすればいいんだな?」
大和は確認を取ってから両手を上にあげて例の奇声を上げた。
「大和君まで!? 鈴木君、どうしよう?」
黒石が鈴木の方を向く。
「うおおおおおおおお!! え? 何か言った黒石?」
「お前もやってるのかい!」
「ほら、やってないのは黒石だけだぞ」
諭すように天汰は言う。
「~~わかったよ! やればいいんでしょやれば!」
「それでいい。よし、じゃあみんなで合わせて言おう、せーの!」
「うおおおおおおお! って、なんでみんな言わないんだよ!」
「「うわー、ホントに言ったよこの人」」
天汰と鈴木はシンクロして同じことを言った。大和もかわいそうにという視線を向ける。
「お、お前らふざけんな!」
顔を真っ赤にして拳を振り上げる黒石を、この中では一番大柄な大和がまあまあと押さえつける。
「今のは天汰達が悪い」
「何を、大和だってうおおおおって言わなかったし」
「まあ、何となくこうなるんじゃないかって思ってたし」
「つまり大和も同罪で」
「わかったよ、俺も一緒に謝る、ごめん黒石」
「悪かった黒石、ほんの冗談だ」
「だが私は謝らない!」
「鈴木テメー!」
あえて空気を読まないスタイルな鈴木。
「冗談だよ冗談、半分ジョーダン。すなんな黒石」
「うん。ん?」
「さて時間はっと、もうこんな時間か。天汰、やるならさっさとやる、時間かかるなら明日に回す、そんな感じの時間だぞ」
鈴木は黒石から何か言われる前に話題を逸らす。腰ポーチからスマホを取り出してわざとらしく時間が遅いことを伝える。
「お、そうだな。よし、じゃあ次こそはみんなで声をそろえてやろうか。大丈夫黒石、今度は引っかけないって、これ以上すーさんがふざけたら蹴り入れるから」
「解せぬ」
「解せろ。そういうわけだから大丈夫」
(でも、蹴り入れられる覚悟があるならふざけられるのか)
とも考えたが、あんまりしつこいと場がしらけると思ったのでまじめに『うおおおおお!』と言おうと決めた鈴木であった。
「じゃあ、いっせーので!」
「「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」」
次の瞬間、みんなの視界が真っ白い光に包まれた。
初投稿です。あれ、この展開見たことあるぞ、この次の展開、簡単にわかるぞって思っても生暖かく見守っててください。