人の物を盗ったら泥棒
翌日、『クナスナイル』のメンバーは出国のため外門へと来ていた。
「……結局、すーさん置いてかれるんだね」
大和が悲しそうな顔をする。
「もし間に合っても、乗せてもらえるかどうか……」
黒石は昨夜の怒ったジルを見ているので、ここで間に合っても乗せてもらえないと諦めている。
「すーさん……」
天汰は何とも言えない顔をしている。
ギ……ギ……ギ……と、乗っている馬車からは前が見えないが、音で外門が開くのが分かった。
天汰達が乗っている馬車は前は見えないが、後ろはよく見える。そして、天汰達は遠くはるか後方から馬が走ってくるのが分かった。その馬に乗る人影がこっちに向けて手を振っていることも。
「アレ? あの馬の後ろに乗っているの、すーさんじゃね?」
近付くにつれ、馬は三人乗りで、前には金髪の女性、後ろに小さい女の子、真ん中に鈴木が乗っているのがわかる。
「イタイ! イタイ! スフィア! イタイ!! 髪が顔にあたるし、馬の振動が! 腰に響く!」
「うるさいです。スフィアさんに送ってもらえるだけありがたいと思った方がいいです」
「いいこと言ったわアイリスちゃん」
やがて馬は『クナスナイル』の馬車群に近付く。
「すーさん!」「お前その美女誰だよ!」「お前その美幼女誰だよ!」
誰がどのセリフを言ったのかは想像に任せる。
ジルの方も、近付いてきた馬に気付いて馬車から降りてくる。
「ジルさん、出発はまだですよね?」
「出発はまだだが、お前は金を払え」
「あー、はいはい『借りていた』お金ね、『借りていた』やつでしょ?」
(うわ、すごい白々しい……)
スフィアは少し引いた。
「では、スフィアさん、お願いします」
「はあ……わかりました」
スフィアは馬から降りる。ついでにアイリスも馬から降りた。
「え、ちょっと、なんで二人とも降りるの? 待って、俺も降りる、スフィア降ろし……ファオ!? バランスが、ヤバババババ!!」
鈴木が馬具に足を引っ掛けて宙吊りになり、大変危険なことになっているが、誰も見向きもしない。
「初めまして、ワタシはキリシキ・スフィアと申します」
スフィアはドレスのスカートをちょいと持ち上げて挨拶をする。
「キリシキ……ハッ!」
ジルはキリシキを知っているのか、急に顔を強張らせる。
「これはすーさんがワタシ達の手伝いをしてくれたほんのお礼です」
スフィアはジルに巾着袋を手渡す。
「こ、こんなに……!?」
「もうひとつ、これはその子、アイリスちゃんの養育費です」
「お、おう?」
よくわからないうちに手渡されてしまった。
その頃、アイリスが仕方なく鈴木を助け出す。
「うぎゃ!」
馬から落とすことが助けると言えるのかは、少々議論が必要だが、とにかく鈴木は馬から降りることができた。
「ジルさん、乗り賃はそれで足りますよね? 二人分」
スフィアが手放した金額は知らないが、ジルの表情を見て十分だと思っての発言である。
「チッ、アァ、十分だよ、早く乗れ、もう出発だ」
ジルは心底嫌そうに吐き捨てた。
「ありーッス! アイリス、行くよ」
「はい、わかりました」
アイリスはもうおびえる様子もない。完全に鈴木を危険はないと判断したからだ。
鈴木は天汰達が乗っている馬車に乗り込むと、アイリスに手を貸す。
「どうも」
鈴木に手を引かれて馬車に乗り込んだアイリスは、振り返りスフィアにお辞儀をする。スフィアも笑顔で手を振る。
ジルも自分の乗っていた馬車に乗ると、大声を上げた。
「野郎ドモォ! 出発するゾォ!!」
声に反応して、馬車群は外門を走り抜けた。
「……行っちゃったか、アイリスちゃん、可愛かったなぁ」
スフィアはハァ……とため息をつく。
「まあ、すーさんが隠し持っていた銃は回収できたからいいわ……と……ん? あれ……」
銃をおさめようと、ドレスのポケットに手を伸ばしたところで、違和感に気付く。
「アレ、アレ? ない、ウソ!? まさか……」
思い当たるのはひとつしかない。先ほどまで後ろにいた奴だ。
「まさか、アイツ!」
思い至った時にはもう外門は閉じられていた。
「しまったぁ!」
スフィアはお嬢様らしからぬ声を出してしまった。
「それにしても、惜しかったですね」
馬車の中、アイリスは鈴木に言う。
「何が?」
「ああ、やっぱり気付いていませんでしたか。スフィアさん、アナタのポーチから、隠し持っていた銃をとっていましたよ、だから、惜しかったですね、と」
アイリスは言う。しかし、鈴木はにんまりと下品な笑みをうかべる。
「ふっふっふ、甘い、これを見ろ!」
鈴木は立ち上がって、両ポケットから二挺の拳銃を取り出した。
「は!? すーさん何ソレ!?」
大和が驚く。
「まさか、スフィアさんから?」
アイリスは冷静に確認を行う。
「モチ、スフィアも俺のポーチから盗ってるからおあいこって事で」
(あれ、元々、スフィアさんの家の物だったんじゃ……)
アイリスはそう思ったが口にはしなかった。
「弾もちゃんと持ってきてあるし、てか、スフィア、弾は持っていかなかったんだな」
ポーチをまさくる鈴木。
「――多分、馬上だったから、銃をとるのに精一杯だったのでしょうね。それに、本体がなければ弾も持ち腐れと考えたのでしょうか」
ここで天汰が口を挟んでくる。
「え、もう色々話が見えないけど、その銃、もしかして……」
「うん、『借りて』きたZE!]
「ド、ドロボ――――!!」
天汰の声が馬車内に響いた。
さて、そろそろ書き溜めていたやつが尽きてきましたね、執筆スピードにダイレクトに影響してくると思います、ご了承くださいませ!