『クナスナイル』にとっての鈴木は、ただの穀潰しであると気付けました
スフィア一行と鈴木、アイリスは、スフィア一行が宿泊しているホテルにいた。
「ふは、ベッド柔らか!」
鈴木はベッドの上で飛び跳ねている、それをアイリスが『うわぁ……』とジト目で言っている。スフィアの意向によって、新しく鈴木とアイリス用に部屋を取ってくれたようだ。
比較的高いホテルだったので、なかなか味わえないリッチ感を堪能する鈴木、決してビンボー症などではない。 最初こそ、黒石と離れることに不安を感じていたが、元が楽観的な性格なので、もう覚えていないようだ。
「……で、どうするんですか?」
二人きりの部屋で、アイリスがジト目のまま聞く。
「何が?」
「何って、場所のことです。アナタ、ギルドの場所すら通行人に聞いていたじゃないですか、察するに、この辺りのこと、知らないんじゃないですか?」
なかなか聡い子だと鈴木はアイリスを評価する。
「そうだね、でもまあ、アイリスちゃんが覚えてくれているはずだから問題ないよね」
「うわぁ、他力本願ですか」
「信頼しているからね、何も問題ないね」
鈴木はニッコリと笑顔を向ける。
「……」
「いや、何か言ってよ。まあ、よーじんしているというか、自分以外のすべてが敵みたいな顔していたからさ、どんな些細なことでも覚えていそうだと思ったんだよ。別に、分の悪いかけでもないと思ったしね」
抜け目ない人なのか、面倒臭がりの適当なやつなのか、どちらにしろよくわからない。よくわからない奴は怖いので、アイリスはより一層警戒を強める。
実際、アイリスは道を覚えているし、用心もしているので、鈴木の言ってることは外れてはいない。
「と、ゆー訳で、道案内はお願いできるかな?」
鈴木は笑顔で言った、そのつもりだが、奴隷としてしばらく生きているアイリスにとって、買主(飼主)の命令は絶対服従、それ以前に恐怖で断ることができない。
アイリスは顔を少し青くしながら、「はい……」と言った。
(ん? なんで今、青ざめたんだ?)
と、鈴木が些細な変化に気が付いた時だった。
コンコン、と木製ドアがノックされたかと思った時にはもうドアは開かれていた。
(ノックの意味ねー)
スフィアとソフィーだ。ソフィーは腕に何着か子供用の服を持っている、スフィアが持たせているのだろう、きっと従者の誰かに買いに行かせたのだろう。男の従者のほうかな?
(フフ)
想像したら少し笑える。
「アイリスちゃんの服、買ってきたわよ!」
スフィアが興奮気味に言う。
「ほら、試着するからアンタは出て行って」
思ったよりも強い力で鈴木はベッドから引きずり出される。スフィアはなんだかんだで鍛えているようだ。そしてそのまま部屋の外に投げ出される。
「覗くなよ?」
「……………………覗かねーよ」
「なんでちょっと沈黙があったのよ」
「ウィッス」
バタン! 無慈悲にドアは閉まる。
「……さて、どうしよう」
覗くなと言われたが、あえて覗いてやるか?
「お前、そこで何やってる」
「イエ決して覗くなと言われてあえて覗いてやろうだなんてこれっぽっちも思ってないです!」
『うわぁ……』みたいな顔をされた。何その顔、流行ってるの?
よくよく見てみると、そいつはスフィアの従者で、鈴木を肩に担いでホテルまで連行してきた奴だった。
「おう、そんな目で俺を見るなよ」
「……こんなことでもない限り、お前みたいなやつとは関わることはもうないんだろうな」
元は鋭い眼光を放つであろうその目は、今はなんというか、呆れと侮蔑、軽蔑が入り混じったような目をしていた。
「殺していいかな?」
イラッとしたのでそう言ってみる。勿論、戦闘になった場合鈴木が返り討ちに合うのは目に見えているので、本当にそうしようという訳ではなく、あくまでポーズとしてそう言っただけである。
「ああ悪い、別に悪気はなかったんだ」
(どうなんだか)
「と、そういえば自己紹介がまだだったな。俺はガレア、メレニー・ガレア、お嬢のボディーガードをしている」
「鈴木雄介、クナスナイル所属の――……所属だ」
少し考えたが、クナスナイルでの自分の役割について、特に何も思いつかなかった、もしかしなくとも、ただの厄介者だわ。
ガレアはそこについては触れてはいけないと思ったのか、何も言わずに、
「漢字圏の人か……いや、でも名前の感じが違う気がする」
眉間にしわを寄せ、考え込む姿が怖い。きっと前世はヤンキーだ。
「そちらにも事情があるように、こちらも事情があるのです、事情があってもいいじゃない、人間だもの、鈴木」
「元になった言葉は知らないが、何となく造語だというのは分かった」
「まあ、お互いに過干渉はしないということで、アナタは私のことをどう思っているか知りませんが、これでも武力を使わない方法でアナタ達に壊滅的打撃を与えることくらいはできますので(大嘘)」
さらりと言うことで、真実味が増すような気がした。
気がしただけで実際に一般人レベルの(あるいはソレ以下の)スキルしか持たない鈴木にそんなことできる訳はない。真実を隠し、歪曲した情報を操り、嘘ハッタリで騙くらかす。姑息な手だけど仕方がないね。
「……お前、いったいなんなんだ?」
まあ、ガレアには鈴木が不気味にうつったようなので、ハッタリは成功したということで。