適性試験
新規登録のため、冒険者になるための適性試験を受ける天汰、大和、クラリアの三名は、ギルドの職員に連れられて芝生が生えているサッカーの試合ができそうな広いフィールドに来ていた。
「はー、建物の中にこんな場所があるんだ」
天汰が関心したように言う。
「一番メジャーなフィールドですからね、どこのギルドでもあるようにしていますよ」
職員が説明してくれる。
「さて、いまからあなた達三名にはギルドの職員三名と戦ってもらいます。全員Cランク相当ですので、全力で相手してください。
「「「はい」」」
三人は声をそろえて返事をする。
「忘れ物はありませんか?」
「大丈夫です」
天汰、大和はそれぞれ武器を持ち、防具を着けている。クラリアは防具はつけていないが、十手を持ち、軽く素振りをしている。
「……では、適正試験を始めます」
「え? 相手は――」
大和が職員に聞こうとした直後、
「危ない!」
クラリアが大和の背中側に十手を振り上げた。
キーィン と何かがはじけ飛ぶ音がしたとき、やっと二人は気が付いた。弓矢に狙われていたのだと。
「注意散漫ですよ!」
いままで説明してくれていた職員が拳を構えて天汰に殴りかかる。
「くっ!」
天汰は盾で受けるが、その威力に後ろに転げる。
(インテリっぽい見た目のくせに素手パンチ強すぎだろう!)
すぐさま大和が転んだ天汰の前に行きカバー、インテリ職員に斬りかかる。しかし、刀はインテリ職員には届かなかった。何故なら、人の形を模しているような銅鏡がインテリ職員の前に出てきて、攻撃を庇ったからだ。
(私とて鞭ではない、最初の矢はレンジャー、このインテリは格闘家、銅鏡は種類までは分からないが魔法使い系でしょう)
クラリアは瞬時に敵のだいたいの当たりをつける。
「二人とも聞いてください、遠距離の敵は天汰さんを狙いません!」
クラリアは言う、そう決めつけた理由は簡単だ、天汰の甲冑は全身を守れるもの。よって、ただの矢程度ならダメージはない。防具は大和も付けているが、こちらは頭部が兜――つまり天汰のような顔全身を守れるようなものではないため、そこに矢が飛んでくる可能性もある。
(格闘家の動きが気になりますが、ここは……)
クラリアは先ほど矢が飛んできた方向を見る。そこにはやっぱり大弓を持っている男がいた。きっとこいつもギルド職員だろう。クラリアはそいつに向かって走った。
(一番身軽な私なら、弓使いが逃げても追いつけるし、今見た程度の矢なら十手ではじける。二人とも、そちらはお願いします)
一方、天汰は何とか起き上がって体勢を立て直した。
(クラリアさんが弓使いの所に行ったか、インテリの他にもう一人いるはずの敵の姿が見えないのは不安だけど)
天汰はロングソードを構える。
「大和、二人で押すぞ!!」
二対一の有利な局面で素早くインテリを倒したいと、そう思っての発言だ。
「でも銅鏡に邪魔されるぞ」
「銅鏡は一つしかない、ごり推せるはず、セヤー!!」
「わかった! ハァアア!」
二人して斬りかかる。が、インテリ職員は慌てる様子はないむしろ、口元が緩んでいるくらいである。何かがおかしい、天汰はそう感じながらも、走り出したので急に止まることもできないので、突撃せざるを得ない。
「くらいやがれ!」
大和の切り札、荒々しくも地下蛾強い斬撃がインテリ職員に迫る。スラッシュブロウだ。しかし、その斬撃は銅鏡によって阻まれる。ならば、もう一人が攻撃するだけの話。
「天汰!」
「まかせろォオオオオ!」
天汰は走り、右手のロングソードを振り上げた。
「来なさい」
インテリ職員も右こぶしを腰に構える。走りくる天汰を迎え撃つつもりだ。
天汰は走り、十分な距離になると、雄叫びを上げながら振り下ろした。しかし、
「ハッ!」
インテリ職員は、天汰のロングソードの側面を殴りつけて軌道をずらすことで攻撃を避ける。
「甘かったですね!」
攻撃失敗、インテリ職員はカウンターをかけようと左の拳を握る。しかし、天汰の攻撃はまだ終わっていなかった。
「お前がなァ!!」
シールドバッシュ――肉薄するほどの距離で盾での攻撃を行うスキル。天汰は左手の盾が驚いた表情をしているインテリ職員のこめかみにヒットしたのを確認した。
(取った!!)
天汰はロングソードを殴られた時の衝撃でバランスを崩しつつも、同じように立ち崩れるインテリ職員をしっかりと目に収めた。
同様に、クラリアが体勢を崩した弓使いの喉元に十手を向けて、事実上勝ったも当然になったときだった。
「終了~!」
フィールドの丁度中心部分、茶色のローブをかけて、短い杖を両手に持った女性魔法使いが、いつの間にかそこにいて、両手を上げて『やりきった』みたいな顔をしていた。
「三人目はそんなところにいましたか」
クラリアは弓使いの喉元から十手を引き、腰に付け戻した。心なしか、弓使いがほっとしたように見える。
「でも何で……さっきはいなかったのに、急に現れたように見えたぞ」
大和が少し警戒しつつ、いつでも刀を振れるように、さりげなく刀身を返す。
「そら、私魔法使いですもの。銅鏡を使った光の魔法で姿を隠すことだってできるからね~。あ、因みに私は『人形使い』っていう種類の魔法使いで、なかなかレアな職種だから~」
言われて大和は、銅鏡が人の形を模しているのに遅れながら気付く。
「それより、その……この人大丈夫でしょうか?」
天汰は起き上がり、こめかみから血を垂らして倒れているインテリ職員を気まずく見ながら聞く。
「ああ、その内目を覚ますから、放置してていいわよ」
ソイツも修行中だから厳しくしているのよ、と人形使いの女性が呟く。
((ギルド厳しっ!))
天汰と大和は同時に同じことを思った。
「じゃあ、三人は見事Dランクの試験に合格したのでー、晴れてギルドのメンバーに登録されます、イェー! おめでと~!」
そんなことを言われてもいまだにそんな実感はまだわいてこないが、少しずつおさまってきた動悸だけが、無事に試験が終わったことをじわじわと伝えてくる。
「こまごまとした処理は我々ギルド側がやっておくからー、お前」
人形使いは、クラリアと一緒にこちらに歩いてきた弓使いを指さす。態度からしてこの人が立場が上のようだ。
「ハイ!」
「この人たちをホールへ案内して、後処理は私がやっておくから」
「ハイ!」
弓使いが返事を返す。
「では皆様、あちらへ」
そして流れるように天汰達を誘導するのだった。