晴れ男と雨男
ギラギラと光輝いたと思えば、ポタポタと涙を落としやがる。
「お空様のご機嫌は悪いのか?」
「知らないわよ、兵多」
土曜日だって仕事だった。だけれど、よーやくやってきた日曜日と思えば、太陽が出ないで雨が降る一日だそうだ。
「兵多ってホントに雨男よね!電車で来るハメになったし!」
「悪かったな。だけど、ポケモンの最新映画を観るのに雨も晴れも、雪も関係ねぇーだろ」
山口兵多と山口夏目。今時では珍しいかもしれない。俺の知り合いにそーいった奴がいないからかもしれない。
20代前半同士で結婚(式は挙げてないけど)、同棲生活。まだ子供には恵まれていないけれど、ポケモン好きで2人は繫がっている。
「手。迷子になったら困るだろ?この前、そうだったし」
「大丈夫!テレポートで兵多のところに行けるから!…………でも、寒いから、兵多の手を握ってるね」
「そうだな」
もし、子供ができたら一緒にポケモンを育てようなんて思っている。これだけポケモン馬鹿カップル。
毎日出会えばポケモンを語ったり、ポケモン勝負を繰り広げたり、コスプレをしたりするほどだ。
天候ぐらいじゃ2人の絆は千切れやしない。なにせ、屋内でポケモンができるからだ。
休日はこうして2人共ポケモンで過ごしている。これが2人の癒しの一つ。
「ありやしたー!」
そして、月曜日。
「山口はやっぱり晴れ男だな。仕事の時ほどいて欲しい奴はいないぜ。ちゃんと仕事するし」
「言われて嬉しいよーな、嬉しくねぇーよな」
「配送業は天候の良し悪しで大分決まるからな。晴れ男いて、ホント助かるぜ」
兵多のお仕事は配送関係。主に荷物をお客様にお届けする末端部分。ポケモン好きでありながら、自動車好きという一面があり、バイク、AT車、MT車、トラック、果てはクレーン車まで操作可能というハイスペックな男。父親も似た仕事に就いていた影響だった。ポケモンは母親のおかげである。
朝9時には車を運転し、それから夜9時まで仕事をしっぱなし。労働基準法なんて存在しない世の中だ。
「無事故、無違反、今日も終了だ」
それだけで神経が磨り減る。自分自身が気をつけていても、相手の方は分からない。
会社を出るのは夜の10時だ。いつもなら、いつも通りなら
「兵多!迎えに来たよー!」
やっぱり。
夏目も働いているが、自分より楽な仕事だ。9時出勤、15時退社の簡単なパート。
兵多の大型バイクを乗り回し(最近は夏目が乗っている時間が長い)、手を振って誘導してくれる。
「後ろ乗って!私が家まで送るから!」
「いつも悪いな」
夏目はいつもこの時が嬉しそうだ。寂しかったのかもしれない。当初はポケモン好きで出会い、バイクを教えたら好きになっていった。今では運転がホントに上手になった。
「今日は何にする?」
しかし、料理はあまり作ってくれない。いつもどこかのファミレスなり、料理屋に直行。食費はあれであるが、兵多は勤務時間と高額な時給もあって、かなりのご馳走がいけるのだった。夏目の料理は……冷凍をチンである。
「なぁ、夏目」
「なによ?」
赤信号で止まっているところ、兵多は夏目に話しかけた。
「今度、バイクで一緒に旅行しないか?休みを入れるからさ。親父からもう一台、バイクを借りるからよ」
男の仕事。この勤務時間。休み日となれば雨ばかり。こんな雨男と晴れ男。
併せ持つんだから、しょうがない。
「嫌!だって、兵多が休みの時は雨ばっかりだもん。家で一緒にポケモンをしてたい!」
「だよな。それがいいよな」
でも、たまには
「お前と一緒に走りたいんだけどな」
「むぅー、私の時は雨男のくせにー」
信号が青になってバイクは走り出していく。
「じゃあ、兵多もバイクで出勤、退社すればいいじゃない!そうしよ!ついでに色んなホテルに泊まろうよ!」
「おいおい」
「文句言わなーい!決定!」
来週一週間。仕事帰りにツーリングすることとなった。寝不足が酷くなったけれど、俺も夏目も喜んでやれるからどーってことはなかった。
木曜日。
「どーした山口。珍しく、ボーっとしているぞ」
「だ、大丈夫です。けど、運転を代わってください」
仕事がキツく感じた。やっぱり、休みをとって出かけよう。もっと遠くに行きたいしな。
雨、降るな。




