8.圧勝
本日三話目です!
書けたので、載せますね。
「”エスト”」
先程と同じ氷の剣が生み出される。その剣は透き通っていて綺麗な剣だと氷雨は思っていたら。
氷雨が持つ刀は、全体に白く染められており、刃の方も白い色だが、銀の模様が描かれているのが見える。
「俺様の剣裁きを見せてやる!!」
先に動いたのは武の方だった。透き通るような剣が氷雨の四肢を斬り落とそうと振るわれる。
だが、氷雨は『超反応』を持っている。目で見えるなら殆どは反応できるといった強化された神経がそうさせている。
武の攻撃は当たらず、氷雨の剣はカウンターで武の身体へ剣の先が掠っていく。
「何ぃ!?」
「お前は剣に慣れているみたいだけど、俺はそこらの人とは違うからな」
武は剣道を嗜んでいたので、他の人より剣の扱いに慣れていたが、氷雨との相性が悪かった。
「お前はバランスよく強化されているみたいだな」
「それがどうした!?」
当たらなくてもうイライラして来ている武。その武はパワー、スピード等の戦いで必要な箇所を全てバランス良く強化されている。氷雨の場合は全てを10としたら、パワーとスピードは2ずつで、他の6は神経の強化へ振り分けられている状態なのだ。
つまり、バランス良く強化されている武は目に追えるぐらいのスピードしか持たないから、氷雨の反応を越えることが出来ないのだ。
もし、氷雨が相手ではなく、さらに『超反応』を持った敵じゃなかったらバランスよく振り分けられていて、剣の扱いに慣れている武は戦える人間側の方だっただろう。
「く、これでどうだ!!”プリスド”!!」
三本の太い氷柱が空中に現れて、撃ち出される。
「この程度か?」
氷雨は近くの距離から放たれても、氷柱は見えていて簡単に避けていた。まさか、一発目から避けられると思っていなかったのか、驚愕して少し身体が硬直していた。
その隙を見逃す氷雨ではない。
「はぁっ!!」
「うぐっ!」
武は反応が遅れても、後ろへすぐに下がったため、致命傷になるような傷を負わなかった。肩が少しだけ斬れた程度で、戦いには支障はない。
「超反応……、ふざけんな、そんなチート!!ふざけんなふざけんなふざけんなぁぁぁぁぁ!!」
武は”プリスド”を連続で使って、大量の氷柱が生み出されていく。だが、さっきより距離があったため氷雨には余裕があった。
これらの氷柱は放たれても、その後に操って軌道を変化させることは出来ないので、『超反応』を持つ氷雨にしたら数だけの攻撃は単調でしかなかった。
「う、嘘だろ……!!」
「もうネタ切れか?”グリム”」
次は氷雨の攻撃だ。入口は伸ばして出口は武の首の後ろに設置した。そのまま、剣を振ったら終わりの筈だったが…………
武は下へ下がることで、首への攻撃は避けられ、代わりに左腕が斬られていた。
「う、うぁぁぁ!!痛え、痛えよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「避けられた……?」
まさか、死角からの攻撃を避けられるとは思わなかったから、少し驚いていた。その答えをくれたのは、ココネだった。
『ユメノコの仕業かもしれないよ。私の能力を知っているから』
(……あぁ、成る程。知っているユメノコが死角からの攻撃を察知して、あの男に伝えたわけか)
学校が同じだったので、ココネの能力を知っていてもおかしくはない。
首への攻撃は避けられたが、左腕を斬られているので致命傷なのは間違いない。そろそろトドメを刺そうと近付いていたら…………
「警察の人、向こうです!!」
そんな声が聞こえ、さっき逃げた女性が警察を呼んだとわかった。ここへ踏み込まれたら面倒になりそうなので、さっさと片付けようと思ったが、
武は既に脚を動かして逃げようとしていた。一瞬だけだったが、向こうの声に気を取られた氷雨から武は直ぐに逃亡を選んだのだった。
「”グリ…………ちっ」
油断してしまった氷雨は”グリム”で刀を届かせようとしたが、武は曲がり角へ逃げ込まれたので、間に合わなかった。
”グリム”は目に見える範囲まで展開出来るが、曲がり角などの死角に逃げ込まれたら、発動出来ない。
「逃したか……」
『そろそろ、来ちゃうからここから離れないと!!』
「あぁ、そうだな……」
氷雨もここからすぐに立ち去ったーーーー
左腕を斬られて、氷雨から逃げ出した武は別の路地裏へ入って座り込んでいた。
「か、解除!」
武とユメノコに分かれて、腕も元通りになる。斬られたのは思想体だから、生身は無傷だ。思想体はしばらくすれば、回復するので悪魔が死なない限りはまだ戦える。
だが、斬られた腕にまだ痛みが残っているように感じられた。
「畜生、まだ少し痛えよ……」
「大丈夫よ、それは幻痛だからしばらくすれば無くなるわよ…………しかし、あの子はこんなに強かったの…………?いえ、あのパートナーが強かったみたいだね」
「畜生、畜生畜生畜生、殺す、絶対に殺すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
武の心が殺意に溢れ、ユメノコの身体から発光した。
その光はユメノコが覚醒したということであり、新たな術がユメノコの中で生まれたのだ。
「これは……ふふっ、やっぱり貴方は最高のパートナーよ」
殺意で怒り狂う武と暗い笑みを浮かべて、武の後ろから抱きつくユメノコ…………
氷雨は既に解除しており、ココネを見つけた河原まで逃げていた。追ってくる者はいないか確認してから警戒を解いた。
「よし、ここまで来れば大丈夫だろう。…………ココネ?」
黙って何かを考えているココネを見て、どうしたのか?と呼びかけてみる。
「ココネ、どうした?」
「え、あ、うん。私の力は氷雨の役に立っているのかなと思って…………」
ココネは敵を逃してしまったことに自分の力が足りないから、氷雨の足を引っ張ってしまっていないかと落ち込んでいた。
ココネがどうしてこんなことになっているのか、戦いのことを思い出して理解した。氷雨ははぁっ、と溜息を吐きながらココネの頭に手を乗せる。
「馬鹿か」
「え?」
「逃してしまったのは、俺が他のことに気を取られたからだ。お前のせいじゃないさ」
「で、でも……、私の能力に攻撃性があったら、発動するだけで終わったかもしれないんだよ?」
武が使った”プリスド”みたいに一動作だけで、敵を倒せたかもしれないのだ。氷雨の場合は空間の穴を設置してから刀を振るわらなければならないから、動作が増えてしまうのだ。
「言ったんだろ?俺が他のことに気を取られなければ、すぐ斬っておしまいだったんだ。むしろ、お前の能力でクラスでは格上の悪魔を押していることを誇れ。自信を持ってもいいんだぞ」
「氷雨……」
ココネの眼から涙が出て、それを隠すために氷雨へ抱きついてしまう。
「……ありがとう、貴方がパートナーで良かったよぅ…………」
ココネの身体が発光し、覚醒した。
ココネの自信から生まれた術でココネはさらに強くなった。
氷雨は発光したことに驚いたが、顔を緩めて、まだ抱きついているココネの頭を撫で続けたのだった。
この日に覚醒した殺意の力と自信の力がいつか、ぶつかる事になる…………