4.初戦闘
戦いのゴングを鳴らすように、敵がこっちへ向かってくる。当たれば、氷雨の身体がバラバラになりそうな威力が向かっているのだ。
慌てているココネは正常で、落ち着いて頭の中にいるココネへ話しかけている氷雨は異常だろう。
(おい、聞こえているか?)
『聞こえていますが、それどころじゃないよね!?』
もう敵は近くまで来ており、あと十歩で氷雨に届くだろう。
(そうだ、こんな時だから、お前の術を素早く説明しろ!さらに発動の呪文もな!)
『は、はいぃぃぃ!!』
氷雨の頭に術の内容が流れ込む。その時間はたった1秒にも満たない。
(ふむ、成る程な……)
理解した時は既に敵は腕を振りかぶって、頭を殴り飛ばそうとしている。
『嫌ぁぁぁぁぁ!!』
ココネはもう終わったと思った。ココネだったら、この距離では避けることが出来ず、腕で防御をしようとするだろう。だが、腕で庇ったとしてもあの拳を防げるとは思っていない。
だが、衝撃が来ないことに訝しんで視界を閉じていたのを開けてみると…………
「何!?」
氷雨の視界を共有しているココネが見たのは、敵が外した横の姿が見えた。さらに伸ばされた敵の腕に刀を打ち込まれているのも見えた。
『え、ええっ?』
どうやってこの状況になっているのかわからなかったココネは、次を見逃さずに目を開いたままにしていたら、次は腕を横薙ぎをしようとする敵の姿があった。
だが、氷雨はふっと笑って、
紙一重に避けていた。
『えええぇぇぇぇぇーーーー!?』
(煩いぞ)
『なんで、避けられるんですか!?』
ココネから見てもさっきの横薙ぎも早くて、動きを読めていなければ避けるのは難しいと思うのだが、氷雨はゆったりと動きながら敵の攻撃を目で追っていた(・・・・・)。
『まさか、見えているのですか……?』
信じられないようなことあっさりと氷雨はやっているのだ。
向こうも同じのようで、攻撃を止めて叫んでいた。
「貴様、何故当らねぇ!?」
「それを敵に聞くかよ…………まぁ、いいか。相棒も知りたがっているし、教えてやろう」
何故、当らないのか?その謎が氷雨の口によって解き明かされる。
「『超反応』だよ」
氷雨のキャラは、ラノベで出てきた女性であり、回避が得意な女性だった。ラノベは天性の才能と書かれていたが、氷雨はそれをイメージしたわけではなく……
作り出したのだ。もし、こうすれば回避が得意というより、さらに高い確率を望めるとわかった上で、イメージをした。
そして、思想体になることによって強化される箇所を氷雨は神経をイメージしたのだ。
神経とは電気の流れで脳から送る電流が身体に命令を出す大切な部位である。
この神経を強化することで、全身への命令を出すのが早くなった。だから、氷雨は攻撃が見えていれば、その攻撃を避けるのは容易いことだ。
「ち、超反応だ?だったら、当たるまでやるだけだ!!」
『氷雨は凄いことを考えますね…………あれ、それだと女性でいる理由がなくないですか?』
真似をしたわけでもなく、作り出したなら身体を真似する必要はなかったのだ。なのに、何故、そのキャラの身体にしたのか?
(あ?決まっているんだろ。俺がそのキャラが好きなだけだ!!)
『威張って言うことじゃないでしょうが!?もう思想体の身体は変えられないのですよ!?』
(別にいいんじゃない?)
氷雨は別にこの身体を変えようとは思っていない。むしろ、好きなキャラを動かせることにワクワクしていた。
『……はぁ、もういいですよ。でも、回避が凄くてもこっちの攻撃が効かないのでは……』
氷雨は今まで避けながら刀で反撃をしていたが、硬い岩に刃が通らず相手に効いていない様子だった。
「体力は自信があるから、長引こうとしても無駄だ!それに、その刀ももうボロボロじゃねぇか!!」
「まぁ、このままなら駄目だろうしな。逆転しようと思っても、確かにボロボロになったこの刀では生身を貫けないだろうな」
「ふははっ!!だったら、このまま楽になれぃっ!」
「馬鹿か?俺は言ったんだろ。このまま(・・・・)ならって」
氷雨が持つ刀はもうボロボロで、岩を剥がせたとしても生身を上手く斬るのは無理だろう。それどころか、折れそうだ。
「直せばいいだけだ。”リジェクト”」
ココネが説明した一つ目の術、”リジェクト”は本来、自分の傷を少しずつ修復する呪文である。だが、ココネが気付かなかっただけで、”リジェクト”の技はただ傷を治すだけに使えないわけでもない。
ココネの持つ能力は『自己修復』だ。自分自身だけを治す能力だったが、それを氷雨は覆す。
「な、何!?刀が少しずつ直っていくだとぉぉぉ!?」
『えっ、えええ!?そんなことが出来るのでしたっけ!?』
「まぁ、この刀は俺の思想体から生まれた物であり、俺の一部だったからのもあるな。『修復』は回復とは違って元に戻す能力に近いしな」
氷雨の一部ではない他の武器ではそういかないが、この刀は氷雨の思想体と一緒に出来た物だから適用出来たのだ。
『へぇー、こんな使い方があったんだね……』
「ち、だが!その刀が修復しようが、俺の硬い身体を貫けねぇ!!」
「ふっ」
喚く敵の姿を見て、馬鹿な姿が面白くて可笑しくて、笑っていた。氷雨はそろそろ教えてやることにし、指を指して教えた。
「気付かないのか?綻びがあるぞ」
ポロッと掌に乗るぐらいの石が剥がれて落ちた。剥がれた箇所は生身の肌が覗いていた。
氷雨は今まで、同じ箇所にしか攻撃をしていなかったのだ。岩も一生壊れる物ではないし、何回も攻撃を加えられた箇所は少しずつダメージが溜まっていたというわけだ。
「な、何…………」
「これで、攻撃が通るようになったな?」
「だ、だが、こんなに小さい隙間を、お前が超反応を持っていようが、そこを突くのは無理だ!!」
小さな生身が覗く綻び、敵が動き回っていたら流石に氷雨でも狙うのは難しい。だがーーーー
「簡単なことだ」
刀の持っ手を変え、刀の先が地面に向くように持つ。
「反応が出来なければいいだけだ。”グリム”」
氷雨は下に向けて突き刺した。だが、地面から突き刺すような音は鳴らずーーーー
「…………あ?」
敵はすぐに理解することが出来なかった。何故、腕から痛みがあるのか?さらに、何故、刀の先が刺さっているのか?
それを完全に理解した時は顔を歪めーーーー
「うぎ、うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!」
倒れて腕を抑えていた。
「うがぁぁぁ、な、何をしやがったぁぁぁ!?」
「そこまで教える必要はないな」
氷雨は動けない敵に向かって、突き刺された腕ではなく反対の腕を狙ってダメージを蓄積させていく。
「ぐがぁぁぁぁぁ」
やられっぱなしではなく、腕を振り回しているが、氷雨の超反応で躱される。
「ほぅら、二つ目の綻びだ」
「やらせてたまるか!!”ブロガ”!!」
もう一回、”ブロガ”で剥がれてしまった岩を貼り直す。
「ほぅ」
「次で終わらせてやる!”バルロガ”!!」
”ブロガ”を発動している間は発動するためのエネルギー、敵の場合はコズと呼ばれた悪魔のエネルギーを使っている。
随分、エネルギーを使ってしまっているが、今発動した”バルロガ”で決めるつもりだった。
無事の左手に岩が集まって、牛のような顔に鋭い角が出来ていた。大きさは人の頭程度であり、当たれば致命傷を避けられないだろう。
「超反応があろうが、ずっと追いかければいいだけだ!!」
別に角が当たらなくても、敵の身体に当たるだけでも大ダメージを受けるのは見えている。
「受けてやろう。来いよ」
『ひ、氷雨、本気!?』
氷雨はあえて避けずに受け止めると言うのだ。直撃すれば、致命傷どころか死んでしまう可能性がある。
「ようやく諦めやがったか!!死ねぇぇぇぇぇ!!」
”バルロガ”には推進効果があるのか、今までの攻撃で一番スピードがあった。そのまま、氷雨の懐へ入り…………
ドバァァァァァン!!
入った。攻撃が当たった。だがーーーー
「ごぁ、ごふぅっ!?」
ダメージを受けたのは、敵の方だった。しかも、氷雨は傷一つもない無傷の姿があった。何が起こったのか?
それは、氷雨が発動した術にある。
二つ目の術、”グリム”。
氷雨の腹には黒い穴のような物があり、敵の攻撃はその穴の中に入っていた。
その穴の中には、ある場所へ繋がっているのだ。
敵の頭の後ろにだ。
二つ目の術、”グリム”の効果は氷雨が目に見える範囲に限り、入口と出口を設置出来るというものだ。黒い穴は直径50センチもあり、攻撃される前に氷雨の腹には入口を設置し、敵の頭の後ろには出口を設置したため、今の状況へ繋がっているのだ。
頭の後ろに設置されたため、自分の攻撃が自分に帰ってしまったため、敵は血を吐いてダメージを受けている。
「そろそろ終わりにしてやろう」
氷雨は薄く笑い、下に向けていた刀を敵に向ける。この時、敵は悪魔よりも怖いと感じていた。
次が最後!