3.神の試練
神の玩具、『謎箱』。
急に現れたかと思ったら、異質さに顔をしかめる氷雨。異質だと思ったのは、生き物のようで生き物じゃないとわかったからだ。
目の前の『謎箱』は薄く笑えるぐらいには感情があるとは違い、初めから決められているような笑顔を匂わせた所から判断した。
「初めてですので、軽く説明させて頂きます。月の曜日、暗きの時計が長いのが上、短いのは下。それが揃ったら開かれる」
そう言うと、壁だった所が薄っらと浮き上がるように豪華で遊び心がある扉が現れた。
「ここを通ると、戦いのチャンスを得られます」
「戦いのチャンス……?」
「駄目よ!!断って!!」
ココネはそう騒いで、氷雨と『謎箱』の間に入って氷雨を守るように立つ。
「確かに断るのは出来ますが、権利は人間にしかありませんので、悪魔は静かにしていなさい!!」
「っ!!」
鼓膜が破れそうな大騒音につい、耳を塞いでしまう氷雨。真正面から言われたココネは迫力に押されて、少し下がられていた。
「大きな声を出してすいません。この扉を通れば、戦いの相手がいます。この神の試練は敵になかなか出会えずにいる方へのためにあります。全員の前へ現れていますが、やるのかは貴方の自由です」
「ふむ」
氷雨はまだ一度も『悪魔融合』を試していないし、ココネの技もまだ見ていないからココネの言う通りに今はやめた方が無難だろう。だが、氷雨は氷雨で…………
「よし、やろう」
「氷雨!?」
「ほぅ、私は断ると思っていましたので、意外でした」
『謎箱』は氷雨がまだ一度も『悪魔融合』をしたことがないのは知っていたし、ココネが断れと騒ぐのもわかる。だから、意外で驚いていたのた。
「では、お通り下さい」
「ま、待ってよ!なんで、やると決めたのよ!?危ないんだよ!?」
「ココネ」
氷雨は扉を通る前にココネが立ち塞がったので、しゃがんでココネの目線に合わせる。氷雨は強い瞳でココネの瞳を見る。
「俺は命を賭けてもいい」
「えっ?」
氷雨はそれだけを言って、ニヤッと笑って立ち上がる。そのまま、ココネの横を通り抜けて扉の前へ立つ。
ココネは簡単に命を賭けてもいいと言われたことに怒っていると思えば…………
頬を赤らめていた。
(え、ええっ!?わ、私のために命を賭けてもいいってこと…………?それは、嬉しいけど、死なさせたくないし…………どうすればいいのよ!?)
ココネはココネで都合の良いように妄想を膨らませていたのだった。実際、氷雨は退屈を解消でき、楽しめるなら命を賭けてもいいと言ったかもしれないが、ココネには全く伝わっていなかった。
「ココネ!行くぞ!」
「はひっ!」
顔をまだ赤くして返事に噛んでしまったが、トテトテと氷雨の所まで走って抱きつく。
氷雨は抱きつくが好きなんだなーとしか思っておらず、好きにさせていた。ココネは引き剥がされないことに嬉しく思い、へへっとだらしない笑顔を見せていた。
(この調子で大丈夫なんだかな……)
その様子を見ていた『謎箱』は呆れながらも、触らずに手を挙げるだけで扉を開く。
「では、始まりだ」
辺りが光に包まれて、手で覆う必要があるぐらいに眩しくなった。
光が弱くなり、目を開いてみると世界が変わっていた。
「宇宙空間……」
「わぁっ……」
周りは星だらけで後ろは青く丸い地球があった。太陽は地球の反対側にあり、眩しくはなかった。
ここは一種の結界に囲まれた広い部屋のようなものだった。
「ん、よく見れば、ここは月か?」
「テメェは!?」
「ん?」
向こうから声が聞こえて、目を向けてみると坊主の筋肉質男と身体に岩がくっついている子供が見えた。
「あぁっ!?私を追いかけていた岩の人間!!」
「もしかして、知り合いなのか?」
「違います!!まだパートナーがいなかった時に襲ってきたクソ野郎です!!」
どうやら、俺と出会う前に襲われていたようで、その本人が対戦相手だと言う。
偶然だと思ったが、近くにいる者と戦うように調節されていたかもしれない。
「おめぇは、パートナーを見つけたのか?アハハッ!!弱そうなガキじゃねぇか!!」
「むぅ!氷雨はあんたみたいに脳筋馬鹿じゃないんだから、いいの!!脳みそが筋肉で出来るようなクズに氷雨のことを馬鹿にするなぁぁぁ!!」
「こ、このガキが!殺す!!コズ、やるぞ!!『悪魔融合』!!」
向こうはお互いの手を合わせて、『悪魔融合』をしていた。
「ココネ、向こうみたいに手を合わせればいいのか?」
「うん。初めだけは自分が強いと思っている姿をイメージをして。余りにも人間離れしていたら、失敗するから気をつけて!」
「了解だ。『悪魔融合』!!」
氷雨とココネも手を合わせて、『悪魔融合』をする。氷雨は自分が強いと思う姿をイメージしながらココネの体温を感じている。
(不思議な気分だな。強いと思う姿は…………アレだな)
イメージは簡単に出来ていた。今まで様々なラノベを読んできたのもあり、前から強いと思える姿は考えていた。
先に『悪魔融合』が終わったのは筋肉質の男で、先程のコズとそのまま融合したような身体になっていた。部分だけに岩が付いており、ぶつけられただけでも骨が折れるほどの硬さを誇る。これが相手がイメージした硬くて力強い身体。
「ちっ、融合している間を狙いたいが、無理か」
この世界では、お互いが『悪魔融合』を終わらせるまでは攻撃が出来ない。奇襲が出来ないのは、お互いの前には絶対に壊れない壁があるからだ。
そして、氷雨も『悪魔融合』が終わり、煙が晴れる。煙から現れたのは…………
肌白く、腰まで長く伸ばされている黒い髪がある。
服装は銀の糸で縫われた巫女服に黒の模様が刻まれており、膝まで長くなっているスカートの上に白く透き通った羽衣のようなモノが重ねられていた。
そう、服装からすぐにわかることだが……………………、今の氷雨は女性の姿になっているのだ。
もしココネを大きくすれば、このような容姿になるだろうと想像できる。
「ほおー、確かにイメージ通りじゃないか。さらに刀も出来ているな」
敵はポカーンとしている間、氷雨は手に持っていた刀を軽く振って確かめていた。
『な、ななっ…………、ひ、氷雨!?なんで、この姿なんですか!?しかも、女性になっているしーーーー』
「うおっ、頭の中からココネの声が聞こえる」
『それはいいのですから、なんでこの姿なんですか!?』
「んー、俺が気に入ったラノベに出ていたキャラなんだけど、『ペットと行く異世界巡り』なんだけど。知らない?」
『知らないですよ!大丈夫なんですか!?』
失礼になるかもしれないが、ココネから見たら強そうには見えないのだ。始めに決まる姿だが、姿が変わるだけではなく、身体に合わせた強化が現れるのだ。
敵は見た目でわかるように力と硬さが強化されているのだが、氷雨は何処が強化されているのか、わからない。もしかしたら、強化されていないのかもしれないから、ココネは焦っているのだ。
「おい、それはお前が想像した強さなのか……?」
「そうだが?いいから、かかって来い」
「……はぁっ、いいだろう。俺の硬さを見せてやる!”ブロガ”!!」
相手がそう唱えると、身体に岩が現れて、肌を完全に隠して、身長も170センチから二メートルオーバーになる。
「ははっ!!これが俺の強さだぁぁぁ!!」
下へ拳を振り下ろすと、半径二メートルほどのクレーターが出来た。そのクレーターが拳の威力を証明されている。
「お前に俺の拳を防げねぇ!!」
シュッ!と地面を抉りながら走り出す。身体に岩を付けて重くなっているのに、スピードは速い部類に入るのだ。
『ヤバイヤバイですよ!?』
「面白くなってきたな」
氷雨は女性の姿になっても、氷雨は氷雨で楽しそうに向かってくる敵を見ていた。
まだまだぁぁぁ!!