10.迷子のお嬢様
今日も一話だけですが、どうぞっ!!
武やユメノコとの戦いから三日が経った。毎日、戦いになることはなく平和なモノだった。
毎日、ココネを影の中に入れて学校に通ったが、襲ってくる悪魔はいなかった。察知に長けた悪魔は近くにはいないようだ。
「退屈だな……」
何も起こらない日常に氷雨は退屈していた。神の試練は明日からの休日が終わらないと始まらない。
欠伸を噛み締めながら、授業を受けていたら隣の席である委員長、奈々がひそひそと話しかけていた。
「ちゃんと授業を受けなさいよ、昨日の夜は何をしていたのよ?」
欠伸をしていたため、夜更かしをしていたと思われたようだ。
「違うぞ、つまんねぇから出た欠伸だぞ」
「授業がつまらないのはわかったけど、隣で欠伸をしないで頂戴。私まで欠伸が移りそうになるわ」
「へいへい」
わかったよと言うように手をブラブラと振る氷雨。委員長は眉をピクッとしていたが、授業中だからなのか何も言ってこなかった。
『むぅ、誰なの?』
(最近、影の中にいて話を聞いていたのに、興味を持ったのが今とはな)
今まで氷雨以外の人間に興味を持っていなくて、話題にも出したこともなかったが、珍しくココネが委員長の奈々のことを聞いてきたのだ。
(まぁ、いいか。クラス委員長ってわかるか?学校に通っていたなら、知っていると思うが)
『うん、クラス委員長ならあるよ』
(そうか、そこの奈々が委員長ってわけだ。真面目で、小さい頃から一緒だったから幼馴染みって奴さ)
『奈々……、敵の匂いがする。主に私の』
(は?まさか、奈々が悪魔と組んでいると言いたいのか?)
まさか、クラスメイトから悪魔と組んでいると思われる人が出るとは思っていなかった。悪魔は全員で666人しかいないから、世界中に散らばっているならクラスメイトの2人が偶然に悪魔と組むのはあり得ないと思っていたのだ。
だが、ココネが敵だと言うのだ。その敵が小学生から一緒で委員長の奈々がだ…………
『うぅん、違うよ。別の意味で』
(なんだそりゃ)
どうやら、悪魔とは関係ないようだ。被害はなさそうだから、放っておくことに決めた。
放課後、氷雨は部活に入っていないからすぐ帰りになる。スポーツは苦手というよりも得意だが、面白いとは思えないのだ。
氷雨が退屈を紛らわせるのはラノベを読むか、命を賭けた戦いだけだ。
やることはないので、さっさと家に帰ろうとしたらーーーー
「む?」
向こうで金髪の女性が困っているように立ち尽くしていた。服は高価そうなドレスを着ていて、自分とは別次元の世界に住んでいる人だとわかる。お金という汚い意味でだ。
(困っている?見た目が日本人じゃないから、周りの人は避けているから助けを求めたくても求められないということか)
だが、困っているからって氷雨があの金髪女性を助ける理由にならない。このまま、見なかったことにして立ち去ろうと思ったら…………
目が合った。目が合った金髪の女性はジーと氷雨を見ていた。ちなみに、ココネは影の中である。
瞳には助けてと書いているように見えた。
「……………………はぁ」
ここで無視したら、後味が悪くなりそうなので、声を掛けることにした。日本語が通じるかわからないが…………
「日本語、通じるか?通じてないか?」
「はい、通じます」
「おっ、流暢な日本語じゃねぇか」
まさかの日本語で答えられたことに驚いた。しかも、流暢な日本語だった。
「はい……、日本語を話せるのですが、何故か皆様は目を逸らされてしまうのですよ」
それは、見た目が外国人だとわかるし、外国人に助けを求められたらちゃんと答えられるかわからない。その恥をかかないように皆は目を逸らして、見なかったことにしていたのだ。
「まぁいい、見たところは困っていたようだが?あ、俺は氷雨ね」
「氷雨さんですね。私はメアリー・ジャバネットと申します」
お互いの名前を自己紹介し、改めて何で困っているのか、聞いてみた。
「使用人と街に来ていたのですが、その使用人とはぐれてしまって……。もし、はぐれた時のために待ち合わせを決めておいたのですが、なかなか着かなくて……」
地図を見せてくれる。指を指した先は氷雨も知っている場所だった。そこなら案内できるが…………
「あれ、地図はあるなら、行けるよな…………もしかして、方向オンチか?」
「ホホッ」
このお嬢様は笑って誤魔化そうとしていやがる。まぁ、暇だったから案内ぐらいはいいか。と考えることに。
「ついて来なよ」
「はい」
メアリーは大人しく氷雨に着いて行く。初対面の相手を信じて着いて行くとは、警戒心が足りないお嬢様だなと思った。
「そういえば、何人なんだ?日本語が上手いが……」
「私はイギリス人の血を引いていますわ。生まれは日本です」
「あぁ、それで日本語が上手いのか……」
名字が日本人じゃないのかと思ったが、初対面相手にそこまで聞くことではないと判断した。
『むー、楽しそうに話している……』
(あ?楽しそうに見えるのかよ、面倒事に巻き込まれてんぞ?)
『やっぱり、胸なの…………?』
ココネは影の中で胸が小さいことを気にしていた。メアリーのをチラッと見ると、確かに大きい。
ドレスで胸が少し出ていて、大体C~Dだと想像出来る。
「ねぇ、視線は何処を向いているのかしら?」
「ふむ、胸だ」
「正直に言わないでくれますかしら!?」
顔を赤くして両腕で胸を隠す仕草をしていた。だが、氷雨はどうでもいいように目的地へ向かっていく。
その反応が気に入らなかったのか、メアリーは胸を肩に押し付けるように手を抱いていた。
「もしかして、さっきのはワザとかしら?私の反応を楽しむために」
「まぁ、正解だな。しかし、胸を押し付ける理由がわからないな」
「むぅ、罰として、しばらくはこのままね」
「重いし、歩きにくい」
メアリーが下へ引っ張るため、歩きにくいのだ。顔も美人で胸も大きい女性が恋人のように腕を抱いているのに、氷雨の反応は全く変わらない…………いや、少しウザそうにしていた。
「面白いわね……、貴方は」
「さぁね?もう着いたから、離れろ」
「あら、もう着いちゃったわね。お返しに貴方の反応を見たかったのに残念だわ」
そう言って、腕から離れるメアリー。待ち合わせ場所は公園だったようで、子供が何人か遊んでいるのが見えた。だが、使用人らしきの人は見えなかった。
「使用人はまだ来てないみたいだが、案内はここまででいいよな?」
「うん、ありがとうね」
「じゃっ」
氷雨は友人程度ならいいが、今は親密な関係を求めていない。今はそれよりも楽しそうなことに身を投じているからだ。
「また、いつか会ったらお礼をするね!!」
氷雨が公園を出る時に、メアリーが大きな声でそう言っていたが、氷雨は連絡先も交換してないから会うこともないだろうと、軽く手を挙げただけにした。
氷雨が完全に姿が見えなくなったところで…………
「メアリー、いいのか?」
影から白い騎士が現れた。さっきまで周りに子供がいたはずなのに、今はいない。
白い騎士が現れる前に、偶然にも子供達は帰った…………いや、帰せられたが正しいだろう。
「ふふっ、欲がない人だったわね。…………いえ、戦いに飢えているように見えたわ」
「あの人は悪魔を連れていたのはわかっていたはずだ。どうして戦わない?」
強さまではわからないが、白い騎士の悪魔は影の中にいる悪魔を察知することが出来る。
「うーん、何故かわからないけど、ピーンと来たんだよね。今は戦うよりも仲良くした方が得になると」
「お前がそういうなら、もう言わない」
そう言って、白い騎士はメアリーの影へ消えていく。メアリーは次に会える日を楽しみにしながら、日が落ちていく空を見ていた…………