夏から醒めない(☆)
野球ボーイズ三人衆の大学一年目&プロ一年目のお話です。ほぼノー恋愛。
「夏時間、君と」内「私を野球場へ連れて行って」「ふつうの恋人」、「ハルショカ」内の「何もいえない」「夏時間、君と」内「何も云えないはずはないのに」などに関連していますが、未読でもお楽しみいただけると思います。
「おーい、嵯峨、こっちこっち!」
昼時の学食。自校の学生でごった返しているそこに、今日も当たり前にいるその男。
すっかり顔馴染みとなった俺の学友にまで「なー今度バーベキューしようよ!」と声をかけまくる元学友で現腐れ縁。ずっしりと重いかつ丼のトレイをしっかりテーブルに置いてから、その頭を軽く叩く。
「何すんだよー」
「何すんだはこっちの台詞。お前の大学はここじゃないだろ、反町」
「てへっ☆」
舌を出して、上目遣いでおどけて見せて。そんなごまかしはかわいい女の子じゃなきゃ無効だっての。
俺は大きく長いため息をして見せる。そうしたところで奴の心が罪悪感に苛まれたりはしない。けっして。
「――それ食ったら戻りなよ」
「了解!」
同じ高校で同じ野球部だった反町は、何故か俺の大学に日参してくる。
大学は俺も向こうも同じ駅が最寄りで、一五分も歩けば相手方についてしまう程の距離だ。反町はジョギングしながら来るからそれほどかからないと笑う。
初めてここにやってきた奴を見た時は、『ああ、キャンパスが近いから顔見に来たんだな』と思っただけだった。ところが。
『やー、こっちの学食の方がおいしいからさー』
『ここの図書館、うちの大学と提携してて俺も本借りれるんだよ、知ってた?』
なんて、通う本人である俺よりもこの大学をエンジョイしてないかお前。というか。
「――もしかして反町、通ってる大学で友達とかいないのかな」
ふと思いついたそれがにわかに心配になり、高校の同級生で、プロ一年目にして既に一軍で活躍している野原へ電話を掛けると、向こう側で豪快に何かを咽た音が聞こえた。
『あいつがんなわけないだろうが。心配し過ぎだ幸太郎は』
「ならいいんだけどさ」
『お前は?』
「え?」
『大丈夫か?』
デッカイくせに無神経じゃない野原が、静かに問うた。
「……大丈夫だよ」
そらっとぼけたけどそれ以上は追及されずにすんだ。それをいい事に、「ちょっと、野原に心配なんかされたから寒イボ立ったじゃん」なんてねつ造まで。でもやっぱり、それも野原は咎めたりしない。
『だろ? 反町もお前にそんな心配されてるなんて知ったら『寒イボ出た!!』ってギャーギャー大騒ぎするぜきっと』
「確かにね」
夏が近くなってきているこの時期になってもせっせとこっちへ通ってくる意図が読めずにモヤモヤするけれど、まああいつも楽しそうだしいいか、と思う事にした。
――夏が、来る。
そう思うだけで、ぞっとするほど寒気を感じた。
「ねーねー嵯峨嵯峨、遊ぼう遊ぼう」
「反町、いちいち連呼するのやめ。大体遊ぶにしても、お前も俺も部活あるだろ」
「そうなんだよなあ、俺大学入ったらもっとラクかと思ってたけど結構そうでもないし……今度の週末なんかミニ合宿だし……。コピーロボットがあればそいつに行かすんだけどなー」
本気でそんな思考逃避をしていたかと思うと、急に表情をぱっと明るくした。
「嵯峨、持ってない?」
「持ってる」
「え!」
「訳ないだろ」
「ああああーひどいよー嵯峨がひどいよー」
「十八にもなって信じる方がどうかしてるって」
「俺はピュアボーイなんです!」
「いいからさっさと食べろ。あと声デカいから」
人の心配(俺が勝手にしてるんだけど)も知らずに、反町は梅雨入りしてもほぼ毎日やってきては、周りに笑いを提供している。
昔っからこうだった。リトルで一緒になった時も、シニアに一緒に上がった時も、果てには甲子園まであと一歩のところで俺らが――いや、俺がそれをまんまと自分の手から逃した日にも。
「終わっちゃったな」といつもより寂しそうに、それでもいつものようにニカッと笑ってた。
高校三年、最後の夏、県予選決勝、九回裏。同点、カウントツーツー。何とか凌いで、延長戦にもつれ込むしかない回だった。
公立高校の野球部は、エースを温存できるほど層が厚くない。タフな事でも怪物レベルだった野原も、この連戦でさすがに疲れを見せていた。
バッターボックスに立った相手に今日は目立った活躍はなかったものの、ここに来ての四番という事で、ベンチも俺らも警戒した。満塁になってしまうがここは歩かせて、次の打者を打ち取ればいい。
俺のボール球のサインに野原は首を横に振り続ける。仕方なくストレートを要求すると、ようやく首が縦に振られた。そして、欲しかったより高目に入った球を相手の四番バッターは見逃すわけもなく。
迷わず振り抜いたバットが、ボールを高く打ち上げた。
青い空に向かって、ぐんぐん上り続ける白球。思わず、綺麗だな、とのんきに思う程。それは、打たれる事と負ける事が大嫌いな野原が悔しがれないくらい、完璧な打球だった。スタンドに入れば、わっと一際大きな歓声が上がる。それを背に、悠々と生還してくるランナーたち。ベンチでもみくちゃにしながら迎える相手チーム。
試合終了のサイレンが鳴る。それをまだどこか他人事のようにとらえている自分がいて、向かい合って集まりだした両チームの選手の作る列に入らなければと思うものの、足が動かずにいた。ただ一人整列せずに立ち尽くしていた俺の背中を野原がそっと押して、「ほら最後、挨拶」と耳打ちしてくれて、ようやくのろのろと坊主頭たちの作るイコールの片方へ歩いた。
さっきまで、ほんの数秒前まで、勝利はどっちに転がるか分からなかったのに。俺はこの後の回の投球プランも組み立てていたのに。
ストレートを要求しなければ。いつもの野原なら打ち取れた、でも明らかにあの時の球威は衰えていた。いくら首を振られ続けていたとしても、譲るべきじゃなかった。あれは俺の采配ミスが招いた敗北だ。
その思いが小さな火になって、じりじりと自分を焼く。いつまでも。
誰も俺を責めはしなかった。それどころか「いい夢見せてもらった」だの、「あのまとまりのないチームをお前がよくまとめてくれたよ」などとOBや監督にもほめられる始末。
優しい言葉は、柔らかく何度も俺の心をえぐる。声をかけてくれた人たちの言葉に、そんな含みなんか一切なかった。俺が勝手に、そうとらえただけ。でも、
お前のせいだと、いっそ責められた方がマシだった。
スポーツ推薦は狙っていなかったので、進路先は学力に相応な大学を選んだ。
野球とは無縁の生活を望んでいたから名門と呼ばれる大学ではなく、野球部はあったものの存続も危ういような、ぶっちゃけ弱小のチーム。なのに、OBから申し送りでもあったのか、入学するとすぐに野球部から勧誘がきた。
「平成の真怪物の女房をつとめた奴を放っといたらもったいないからな」
先輩の放ったその言葉に、ああ逃がしてはもらえないのかと悟った。
結局、今まで同様野球を中心とした生活。でもあの夏から輝きはがらりと変わった。ただ楽しかった日々は終わり。
そんな中でも、ふと心が『思い出してしまう』瞬間がある。
長雨が続いてずっと室内トレーニングしか出来なかった後、ようやく日差しが戻ったグラウンドに足を踏み入れる時。
練習が終わって、グラウンドを整地した後、夕日に伸びる仲間の影。
ああ、いいな。やっぱり俺は――
うっかり緩んだ気持ちを仕舞い込む。あとかたもなく。
「この後行かないか?」と片手でジョッキを煽る仕草の先輩に「はい!」と笑顔で答える。
「嵯峨がいると割り勘計算早ぇから助かるわ」
「ちょ、俺の存在価値ってそんなもんなんですか?!」
わはは、と盛り上がるロッカールーム。自分の用具をしまうのに割り当てられたロッカーの扉は、歪んでいるので開け閉めにコツがいる。
動かすたびに枠に当たって擦れ、すっかり塗装の剥げた扉の側面を持ち上げて、今日も捻じ込んで、閉じた。擦れる音は、まるで悲鳴のようだった。
俺なんかが野球を楽しむなんて、もうしちゃいけない事なんだよ。
誰に云われなくても、自分が一番そう思っている。
なのに。
「あ、その肉団子うまそう! いっこちょうだい!」
「――一つがでかくて全部で六個しかないのにやる訳ないだろ」
「ちぇ、けちだなー」
今日もやってきた反町との子供じみたやりとりに、周囲は遠慮なく笑う。まったく、巻き込まれるこっちの身にもなってみろ、女子の皆さんに俺の人間性を誤解されたらどうするんだ。
遠巻きに笑う中にちょっとだけ気になる子もいるけど自分からは行けないでいる。そのくせ、そんな風に思ってみる。
唐揚げ定食(もちろんご飯は大盛り)をさっさと平らげて、今度はどのデザートに手を出すか迷っている反町。
「チーズケーキもいいけど、コーヒーゼリーも捨てがたいんだよなあ」
「知るか」
「お前ならどうする?」
「両方食わない」
「俺はそんなストイックな答えを求めてないんだよ幸太郎君」
「じゃあ両方食う」
「だからぁ、もうちょっと親身にアドバイスしようよ」
その言葉が、何故だかひどく癇に障った。
俺の大学へわざわざ来て、俺の友人とも仲良くなって、自分の野球部についてああだこうだと楽しそうに話して。いいよな、お前はのんきで。
――こんなのただのやつあたりだ。反町は悪くない。
これ以上一緒にいると、自分がどんどん嫌な人間になってしまう。それを知られたくなくて、定食の残りをかっこみ、「悪い、俺先行くから」と返事も聞かずに席を立った。
「嵯峨、」
その呼びかけも、学食に溢れる会話でかき消されたふりをした。
軍人か、って勢いの早足で歩く。次の時間は休講で、行くなら図書館かダラダラ出来るところ。なのに、気付いたら足は勝手にキャンパスの端の端、グラウンドへ向いていた。
まったく、俺はどんだけ野球バカなんだよ。心がないまま練習しているだけのはずなのに、ぼーっとしたままここに来るなんて。
そんな自分を一瞬楽しいように思って、直後に気分はずんと沈んだ。
――いつか、きちんと棄てられるだろうか、白球を手にすると湧き上がる希望や、楽しさや、枯れる事を知らない情熱を。
いつまでもうろうろと迷い、足掻いている自分に呆れる。
とっとと棄てろよ、それは俺が持ってちゃいけないもんだろ。――そう思う一方で。
何度も棄てようとしたよ。でも、出来なかった。
どうしても、出来なかった。
心を偽っても、野球をしていたかった。楽しめなくても。辛くても。罪悪感にまみれていても。
――そう思う自分もいる。
霧雨に濡れるフェンスを掴んでため息をついていると。
「足、あいかわらず早すぎだってキャッチャーのくせに。嵯峨、競歩の選手とか向いてるんじゃん?」
息も切らさずにやってきた反町が隣に並んで、ニカッと笑った。
「……デザートは?」
「はい?」
「チーズケーキとコーヒーゼリーの二択」
「それより気になる事があったから」
「学食のかき氷は来月からだけど」
「え、マジで! 俺全味制覇しようっと!」
反町が何を気になってるか分かっててはぐらかしたのに、奴はあっさりそれに乗ってくれた。
二人して、傘も差さずに濡れそぼっている。一年坊主でまだまだ試合には出させてもらえてないとしても、俺の大学よりうんと真面目に取り組んでいる他校の野球部員の体をむやみに冷やしたくはない(冷えは故障の元だ)。もう中へ入ろう、そう云いかけたところで「お前、野球はどうなの」と何でもないような口調で反町からつっこまれた。
「――ちゃんとやってるよ」
人数が少ないので、一人でも欠けると公式戦はおろか、練習試合もままならなくなる。だからみんな体調管理には気を配り、怪我しないように入念にストレッチやマッサージも行っていた。そんな状態なのにだらだら出来るはずもなく、結局俺は本気で配球の指示を出し、マスクを被っている。一年坊主がレギュラーでキャッチャーなんてありえないと何度も固辞したけれど、正キャッチャーだった人に『俺がちゃんとキャッチャーやってたのなんかリトルリーグが最後だから!』と泣き付かれて、結局する羽目になってしまった。
ちゃんとやってる、と答えたのに、返ってきたのはしかめっ面だった。小学生みたいに全力の。
「お前が『きちんと』やってるのは知ってる。そうじゃなく」
「――」
痛いところを突かれた。反町はたまに本質を見抜くのがうまい。
「忘れらんないんだろ」
何が、なんてとぼけるのは無駄だと分かったから黙った。
「自分のせいだと思ってんだろ、どうせ」
「だったらなんだよ」
「幸太郎ったら、バカな子!」
「お前にだけは云われたくないっ!」
思わずまた『食堂コント』のノリで返すと、思いのほか真面目な顔が俺を見ていた。
「バカだよ。あれの前に俺ら、散々ポカしたじゃん。守備でエラーもあったし、打席でも打てるはずの球打てなかったじゃん」
「それは、……試合ってそういうもんだし」
「だから、お前の最後のあれだって、特別飛びぬけたミスとかじゃなくてあの日の俺らの負けの一部なだけだろ」
「……」
「だいたい、野原が『俺、ストレートで打ち取れる』とか思っちゃったのが間違いじゃん」
「だからそれを突っぱねなかったから、俺が」
「そもそも野原、あの時点で超ヘロヘロだったじゃん」
「それは、二年じゃあいつの代わりが出来なかったから」
「な、どうしようもないだろ」
言い負かされてしまった。
「どうしようもないんだよ、俺らが勝ってたかもしんないけど、負けた。でも試合ってそういうもんだし、それで全部ダメになった訳じゃない」
リトルの時の突き指が原因で未だに少し曲がったままの指が、フェンスをなぞって、水滴を散らす。その向こうの無人のグラウンドを、二人で見た。
「誰もお前を悪いなんて思ってないんだから、そろそろお前もお前を許してやれよ」
「……許せないよ」
「許せなくても許すの」
「無茶云うなよ……」
「でないと、俺はいつまでたってもお前が心配で、こうして毎日来ちゃうじゃんか」
「――え?」
「お前がいつ、高いところからフラッといっちゃわないか、車の列にフラッといっちゃわないか心配してたの、俺だけじゃないから。それくらい、お前自分で分かってないけどヤバかったから」
ばれてたのか。自分では、うまく隠せていると思っていたのに。
「野原なんかすげーぞ、『頼んだぞ、お前なら遠慮なくズカズカ踏み込めるから』って俺をここへ来させて、今日はどうだったって毎日電話かけて来てうるせーうるせー。つか俺のこと遠隔操作しやがってあのヤロー許せねえ野原のくせに」
「くせにって、一年目で既に一軍で大活躍の投手に何つう口きいてんのお前」
「あいつがさー、チョー気にしてる訳よ、あんなデッカイなりしててさ」
「……何を」
「俺があんとき幸太郎の云う事聞いてたら、あいつは今頃『ちゃんと』野球出来てるのにって」
「野球ならしてる。誰にもそんな風に気を遣われるいわれはないよ」
硬い声で答えても、反町は鼻で笑っておしまいだった。
「ちゃんとってのは、真面目に取り組む以外に楽しむってことも含むんだよ、嵯峨君」
その取り澄ました云い方がムカついたので、無言で頭をペしっとはたいた。
人が人を許すのに、一年なんて短すぎじゃないだろうか。自分の反省なんて、そんなもんなんだろうか。
躊躇していたら、「クソマジメ、嵯峨らしい」って笑われてしまった。
「もっと早く、こういう話をしたかったんだけどさ、お前ずーっと『今その話するな』光線が出まくりでビビっちゃったんだよなー」
「……悪い」
「大学入ったら少しは落ち着くかなとか思ったけど、ここの学食うまいからつい当初の目的忘れそうになったわ」
「……」
謝るんじゃなかった。
「いいじゃんもう。野原があの試合で推薦とか球界入りとか全部パーになって盗んだバイクで走りだしちゃってたらさすがに後悔してただろうけど、ちゃんとプロになったじゃん」
「……まあな」
「嵯峨」
「なんだよ」
「もっかい、野球やれ」
「は? やってるけど」
「自分の心殺してやってるのは野球じゃねーだろ」
「……見てもないくせに何云ってんの」
苦し紛れに笑えば、顰め面された。
「バッカ、お前のこと高校の時から見てたっつう女子が、大学に入ってからのお前のプレーはなんか違うって俺に云ってくれたんだよ、それで見たよ。あれはお前の野球じゃない。そうだろ」
「……ちょっと待って誰その女子って」
「気になるか?」
「なるに決まってんだろ!」
高鳴る胸。もしかして。
答えを早く欲しい俺に、奴はにんまりと笑い、そして。
「おしえなーい」
「……!」
「教えてほしかったら、本気でやれよな」
「ちょっと待って反町」
「待たなーい。俺もう帰って午後の講義出るし」
「だったらせめてヒント!」
「再来週の土曜日」
「……は?」
「俺のガッコとお前んとこと、練習試合するから。彼女、それ知ってるから」
「……」
「本気でやってちゃんと楽しんだら、彼女から声掛けてくれるんじゃん?」
じゃーねーと手を振り、反町はとっとと走り去ってしまう。まったく、相変わらず嵐みたいな男だ。
でも嵐は、俺の中の燻り続けていたものを鎮火して、そのまま連れ去ってくれた。
野球がしたい。ただ素直に。
そう思っていた俺だけど、あいにく雨は午後になってもやむ気配を見せず、室内での筋トレに終わってしまった。反町に許された途端に晴れを焦がれるほど望む自分はひどく現金だし、やっぱりどこか許せない、とは思う。
けれどもう、駄目だった。好きなものを好きではないものに変える魔法は、結局一度だってきちんとかかりはしなかったから。
その晩、野原から俺に電話があった。用件は見当がついてる。
奴は開口一番、『悪かった』と止める間もなくそう云った。
『幸太郎一人に背負わせて、悪かった』
それを、燻ったままの俺なら受け止められなかっただろう。でも。
毎日やってくるお人好しの笑顔が浮かぶ。あんな風にニカッと笑われて、嫌な気持ちになる奴はいない。だから、俺はすこぶる素直に振り返る事が出来た。
「ほんとだよ。せっかくの人のリード、よくも拒否してくれたよな」
『……それについては反省してる』
「今だったら絶対、お前に流されないんだけどな」
『いや、今だったら俺も絶対きちんとストレートで打ち取れる』
電話の向こうできっぱり言い切る野原の顔が想像出来すぎて、噴いた。
明日から、もっと走り込みをしよう。現状維持じゃ向こうのチームには勝てない。二週間でどれ程変われるかは分からないけど、本気でやるなら今の俺じゃだめだ。皆も。
火が付く。ずっと燻っていたのとは違うもの。
焚き付けた本人は、俺に火をつけたなんて気付いてもいないかも。まあいい。そういう奴だから。再来週の俺を見てニカッと笑ったら俺の勝ちだ(試合の勝敗は別として)。
反町が思わせぶりにチラ見せした『彼女』が俺の気になってる子だといい。でも違ったとしても、やっと自分から行ける気がした。
ずっと燻り続けていた夏が、やっと終わって目醒める。そして、新しい夏に向かって、俺もやっと走り出す。
野球の時間だ!




