登校時間は夢を見せない
ノートを忘れたから朝一で取りにいくと言い張る心愛と登校する海。
ノートと一緒に渡したものは・・・
そして初めて見せた心愛の表情は・・・
次の日、僕は心愛の言われた時間に間に合うように起きた。遅くなると心愛に怒られそうだ。心愛の忘れていったノートを用意した後、自分の用意に取りかかった。
とはいっても、用意は必要最低限しかしないし、朝ごはんは食べない。
「やっぱり少し余るんだよね…。」
7時30分にはまだ25分ぐらいある。忙しい朝も、こうなれば暇をもて余してしまう。
そこで僕は、昨日のクッションの余った布で、はにわのキーホルダーを2つ作った。気に入ってくれるかはわからないが、1つは心愛にあげるつもりだ。昨日のクッションと同様に気に入ってくれるとありがたい。
そうこうしてる内に、約束の時間になった。
外に出ると少し向こうに心愛の姿を見つけた。
「おはよう。はいこれノート。ついでにこれも。気に入るかわかんないけどさあ。」
僕は頭をかきながら、心愛にノートと先程作った、はにわのキーホルダーを渡した。
心愛はノートよりも先にキーホルダーを手にとった。
「なにこれ!!あり得ないほど可愛くてムカつくんですけど!!」
心愛が怒りながら誉めてくる。なんなのだろうか…いったい。
なにが心愛をそうさせているのだろうか。理性か?いや…それは無いな。プライドか?だとしたら何にたいしてのプライドだよ…。
僕は頭の中で自問自答した。それでも答えは全く出てこないけれど。なんとなくと問いただしてみた。
「えーと…気に入ってもらえたのかな?そう言うことでいいんだよね?」
僕が恐る恐る尋ねると、心愛はこちらを振り向く。
「当たり前じゃない。これを気に入らない私がいたら、怒ってるわ。」
心愛が訳の解らないことを言っている。自分を怒るって…?ほんとによく解らないよ。
「まぁ、ちょっとよく解らないけど気に入ってもらえたのなら良かったよ。ちなみに僕の分も作ったんだ。ほら、ここに付いてるだろ?」
僕は、心愛に自分の鞄を見せた。僕自身はにわを気に入っていて我ながら上出来だと思っている。
「海とお揃いねぇ…。まぁつけてあげないこともないけど、どうしてもって言うなら…♪」
心愛がニンマリと笑った。そして嬉々としながら鞄に付けた。
「心愛楽しそうだね。僕なんて今から学校かと思うと…。」
僕は心愛の横でテンション低めに言う。
「そうなの?私は嫌いじゃないわよ。勉強は嫌いだけどね。」
心愛は少し笑った。意外だった。
勉強が嫌いな人は学校も嫌いかと思っていた。
「勉強が苦手だからって、学校嫌いとは限らないでしょよ!?それに解らない所は海が教えてくれるんでしょ?」
心愛がふんぞり返って言う。僕が教える確証はどこにあるんだか…まぁ教えるけど。
「心愛の自信はどこから来るんだよ。本当に面白いやつだな。」
僕は心愛に面白いと言ってみた。怒られるかもと思ったが、意外にも心愛は笑っていた。
「バカじゃないの。大体自信なかったら人生やっけないじゃない。」
はじめて見せる心愛の、爽やかな眩しい笑顔に驚いた。
そんな僕を他所に心愛は、クルクルと回っている。心愛が回ると鞄に付いた、はにわのキーホルダーがフルフルと揺れている。はにわの表情が心なしか幸せそうに見えた。
勿論気のせいなのは確かなのだが。キーホルダーが笑うわけないわけだし。
「何してるの。早く来ないと置いていっちゃうんだからね。」
そう言って、心愛は僕を置いて、目の前に見えてきた校門に走って入った。
「こ…心愛!?ちょっと待ってよ。あんまり走ったら危ないよ。」
僕は心愛を追い掛けて校舎に入っていった。