文芸部入部は夢を見せない
高校に入った目的、文芸部に入部するために、見学をした、海と心愛。
部員はみんな独特の格好をしていて・・・
そして同じ目的を持った2人は仲良くなり、文芸部独特の雰囲気を出すために・・・
部室に入った。
部屋には思ってた人数よりは幾分か少なかった。
「おやおや?入部きぼうかぃ?それなら体験入部は明日からだから、今は…見学でもしていくかなぁ?あぁ私は部長の赤石綾乃だよぉ。」
そう言って声をかけてきたのは、茶色がかったストレートロングをツインテールにし、魔女のような帽子を被った部長だった。
「あの…ここは文芸部ですよね…どうしてそんな格好を…?」
僕は赤石部長の格好を気になって尋ねてみた。心愛は先ほどとは打って変わり、おとなしく辺りを見回している。
「はっはっはぁ。これは私の作品の主人公と同じ格好だぁ。なりきって書くのが好きでねぇ。」
赤石部長は笑いながら言った。そういえばここの部員は全員そういった格好をしているようだ。
「あの。服は…服は自作ですか!?」
隣にいた心愛が目をキラキラ輝かせながら言った。デレの部分か?もしかしてこれが心愛のデレの部分なのか…?
「そうだぁ。ここにいる部員は皆、主人公と同じように自分を作り上げるんだよぉ。私もその一人だぁ。」
どうやらこの部は感情移入させ登場人物を生かしている様だ。僕も早く小説が書きたくなってきた。
僕等は、お言葉に甘え早速見学をしてみることにした。プロットと呼ばれるものはパソコンを使わず手書きで書き上げコピーする、本書きはパソコンを使うのが主らしい。それにしても、どの小説も面白い。
少し後ろから見させてもらっただけでも面白く、続きが気になるぐらいだ。
「海。海。ここの部、案外いいじゃない。見学した後、少し話をしてあげないこともないわよ。」
心愛が僕の袖を引っ張って言う。上から目線で態度は大きいが、不思議とかわいく思わずにはいられなかった。
「じゃぁ、話でもきいてもらおうかな。」
僕は少し笑みを浮かべながらうなずいた。どうあがいたって、僕は一応健全な男子高生なのだから、
目の前に容姿完璧な心愛が居るとドキドキしてしまう。
性格に少し問題はあるが、嫌いにはなれない。もう少し素直で可愛ければ…
ある程度の時間になり、僕等は見学を終え、部室を出た。
「ちょっと付き合って。」
心愛はそう言って歩き出した。僕はその後を追ってついて行く。
学校を出て、しばらく歩いた。僕は見慣れない地域に戸惑ったが、心愛は構わず進んでいく。
「ここよ。海も買うんでしょ?」
連れてこられた場所は、色々な種類の布、糸と手芸に良く使われそうなものばかりが売っていた。
「…。もしかして、服を作る材料を買うってこと?」
「別に前からコスプレに憧れてたわけじゃないからね!?ただ文芸部の方針に従おうと思ったまでよ。」
僕の質問に心愛は焦りながら答えた。これは絶対前からしたかったに違いない。
しかしあえて口をつぐんだ。下手に言うと怒られそうだったから本能的にやめた。
「僕もやってみたいけど、手芸なんてしたことないよ…?」
僕は男で手芸なんてちまちました作業を好まない。
というより、今までコスプレをしようと思ったことがことなかった。
レイヤーさんを見るのは好きだが、自分がするには少し抵抗があったのかもしれない。
しかし、自分の描く主人公像を自分が再現するというのは興味がある。
僕は心愛の手芸力を頼りにやろうと思ったその時
「何言ってるの?私もしたことないに決まってるでしょ!?だから一緒にしてあげるわ。」
またしても上から目線で堂々と心愛が言った。しかも、したことない割に…。
「したことないんだ…。まぁ何とか2人で協力しよう。それより一緒にするって…どこでしようか…クラスじゃ出来ないよね…。」
仮にもコスプレ衣装の作成は場所を考えなくてはいけない。なるべく人目を避け邪魔が入らず作業ができる場所。
かといって、部室では原稿を書いていたい。
そうなれば、放課後、人目のないところで、邪魔されない場所…
「バカね。海の家じゃダメなわけ?」
考える僕に心愛が突拍子もないことを言った。
「ちょっと待ってよ!!僕だって男なんだよ?そして心愛は女の子。この違いわかってるの?」
「安心して。海のことは男の子として見てないから。むしろ草じゃない。」
心愛の言葉はどうしても胸に刺さる。僕だって男だよ。
「草って…どういう意味?草食系男子とかじゃないの!?」
「草よ草。海は光合成しそうだし。」
男と思われてない以前に、この言われよう。そろそろ泣いてもいいよな。いいんだよな。
草って食物連鎖で真っ先に食べられる運命じゃないか。大体僕は、人間なんだから光合成はしないよ。
それにしたって自分の部屋に完璧な容姿の持ち主、心愛が居れば、僕自身が集中できそうにない。でもこれは、恋愛フラグがたったと思っていいのか?
「海、勘違いしないでくれる?何があっても、海と私とじゃライトノベルでは王道になる展開でも、フラグは立たないわ。さぁ、早く買っちゃいましょう。」
項垂れる僕をよそに、心愛はそう言って店に入っていった。切り替えをつけ、僕も少し遅れながら店に入って買い物した。
僕等は買い物を終えた。と言っても、僕はまだ新しいライトノベルの主人公は決めていない。
なので、ある程度の想像力を使って使いそうな布を買った。
心愛はというと、僕よりもはるかに買っている。
「そんなに買ったの?もう主人公は決まっているんだね。」
見たところ僕の5倍は買っているのではないかと思う。そんなに買ってお金の方は大丈夫なのか…。
僕がまじまじと眺めていると、心愛がだるそうに財布からあるものを出した。
「あー。私、コレあるから…。」
僕は目を疑った。心愛が持っているのは、お金持ちがお札の代わりに持つもの。
ブラックカードが出てきた。人生で最初で最後の見物だと思い、人目構わず拝んでしまった。
「ちょっとやめなさいよ。恥ずかしいわね。ほら、行くわよ。」
心愛が恥ずかしそうに顔を赤らめて僕を引っ張って走った。たぶん心愛は僕よりも足が速い。
悔しいけど、お金持ちで運動神経までいいのか。
「ちょっと待ってよ。速い。速いからさぁ!!」
大通りを走り抜ける心愛を叫びとめた。僕の声に心愛はやっと止まった。
「なに?早くしなさいよ。私は海の家知らないんだから。」
心愛は振り向いてそう言った。
そんなに怒らないでもらいたいものだ。
「ちょっと待ってよ。今日来るの?部屋片付いてないよ?親に何も言ってないんだけど…。」
僕は冷静になって考えた。流石に今来られたら堪らない。
いくら僕でも準備ってものがある。
「それもそうよね。仕方ないわ。じゃあ明日行くから片付けていなさいよ。どうせクラスは同じなんだし、いつでも会えるわ。後メアド教えなさい。別に欲しいとかそうじゃなくて、連絡に困るからってだけなんだからね。」
といつもの様に上から目線を決め込む心愛に苦笑してしまった。
「なに笑ってるのよ!!」
と心愛に怒られはしたが、僕等はメアドを交換した。
それにしても夕陽をバックにした心愛の顔は可愛い。道行く人が振り返り見とれているほどだ。
見た目はこれだから仕方がない。
「心愛って黙っていたら可愛いよね。」
僕はポロッと本音をこぼした。
「はぁ!う…海!!なに言ってんの!馬鹿じゃないの…ばか…」
僕の言葉に心愛の顔が赤らんだ。ついでに馬鹿ときたものだ。中身ももう少し可愛いげがあれば良いのに。黙っていたらの部分は聞こえていないのか、怒ってこないのでいいとしよう。
「もういいわ。私帰るから。また明日学校の教室で会ってあげるわ。」
心愛はそう言って走って帰った。僕もその後ろ姿に手を振って自分の家に帰った。