暴走乙女は夢を見せない
海の思いと心愛の思い。入れまじる2人の本音が少しずつ明かされていく。
そして、間に挟まれた信司の思いはいったい・・・
ようやく学校に着いた僕は、すでに席に座っている心愛に声をかけた。
「心愛。さっきはごめん。ここはちょっと人目があるから土下座は出来ないけど。ほんとごめん。」
僕は必死に謝った。心愛は目を丸くする。
「土下座!?そこまで怒ってないわよ。岡本に何を吹き込まれたわけ?」
心愛は僕に言う。僕は何が何だか解らなかった。
「そうなの?1番手っ取り早いのは土下座だって言われたんだけどなぁ。岡本くんに昨日の話は、心愛が言ってくれるのを待てって言われたよ。だから心愛から話してくれるまで催促せずに待つことにしたんだ。」
僕は自分の気持ちを心愛に伝える。少し照れ臭くなり頬をポリポリかいた。
それでも信司にも言われた"心愛の事を1番に理解できる"のは僕だと信じている。それは誰にも譲れない。例え、心愛に恋人が出来ても、僕と心愛はパートナーなのだから。僕は自分で考えて、自分でにやけてしまった。
「なに笑ってるのよ。気持ち悪いわね。あっ。ほんとに気持ち悪いとか思ってないわよ!?」
心愛は自分で言った言葉を慌てて訂正している。かなり面白い。
"気持ち悪い"は心愛の本音じゃないことぐらいわかる。むしろ本音でないと信じたかったわけで。
「気にしなくてもいいよ。心愛は僕の事嫌いにならないって思ってるからね。それに今にやけたのは事実なんだし。」
僕は心愛に笑って見せた。心愛は少し戸惑い顔で僕を見てきた。そんな心愛を周りのクラスメートが見ている。そんなことはつゆ知らず、心愛は僕に必死に話しかけてくる。
「ほんとに!?ほんとのほんとのほんと?嘘だったら許さないんだからね!!」
髪の毛をフルフルと振るわせて、心愛が僕の袖を引っ張る。周りのクラスメート(主に男子)が僕に冷たい目線を向けている。無理もないんだけど、入学式から何日も経った今でさえ、これなのだから仕方がない。
「心愛さん。クラスメートが見てるよ。そんなにくっつかれると、周りからの視線が痛いんですけども。」
僕は心愛に話し掛けた。心愛はプクッと頬を膨らませた。そしてパシッと腕を叩かれた。
「海ってほんとバカよね。そこが良いのかもしれないけど。」心愛は僕の背中に向かって声を小さくして言う。
「ごめんなんて言ったの?良く聞こえなかったよ。」
僕は申し訳なく振り向いた。ふと信司と目が合ったきがした。特に何かを言われた訳ではないので、気にしないことにした。
「海って鈍感よね。」
心愛は笑いながら席についた。チャイムが鳴り響いて僕も席についた。
「海のバカ。何よ。あんたのせいで不愉快だわ。」
お昼休み、手を洗いに行って戻ってきた心愛が見るからに不機嫌そうに言う。
「あの…いきなりそれは酷いよな?なにかあったのか?」
僕は取り合えず心愛を落ち着かせて座らせた。
「なにかあったのか?じゃないわ。聞いてよ岡本!海ってば同学年にモテててるのよ!私誰だか知らない女子に話しかけられたわ。"松山くんの彼女ですか?"って。」
プリプリと怒りながら身振り手振りを付けて話した。これには僕もかなり驚いた。
「姫川はそれの何が嫌だったんだ?別に聞かれるぐらいなら良いじゃないか。」
信司は心愛にそう言った。確かにもっともだろう。違うと言ってしまえば終わることだ。
「私が言いたいのは、海が陰でモテるって言う事実。岡本は明らかにモテそうだけど、海は明らかな草じゃない。100歩譲って草食系男子ってやつでしょ。」
「あぁ。ま、松山はそこら辺の女子より女顏だし、可愛い系男子として人気があるんじゃないか?癒し系でもある。妥当なんじゃないのか?」
「気に入らないわ。見た目は悪くないけど、納得いかない。」
「姫川。言ってることが無茶苦茶だぜ?」
どうも僕がモテるっていうことが心愛には気に入らないらしい。まったく無茶苦茶な話だよ。それって実際のところ僕は何も関係なくはないけど、少なくとも悪くはないはずだ。
「それに海が彼女なんか作って小説家になるって夢、一緒に叶えられなかったら嫌なのよ。」
心愛は強がりを見せてはいるが、目から溢れだす雫を止められないでいた。
僕はそれが涙だときずき焦った。別に僕は誰かと付き合うなんて言ってもいないし、まして陰でそんなことを言われていることも知らなかった訳で。それに、小説家になる夢はこの3人でしか叶えられないものだ。
心愛にだってそんなこと、当たり前過ぎて解っているはずなのに。どうして不安になったりしたんだろうか。
頬を伝う心愛の涙は、いつもの堂々とした振る舞いを隠していた。
「バカだなぁ。僕は誰とも付き合わないよ。」
"土下座するまでは。"僕の最後の1言は心愛には聞こえなかったようだ。そして、心愛の涙を指で拭ってあげた。そると先程まで下を向いてた心愛が、不意に顔を上げた。
「まぁそうよね。まぁ信じてたわよ。」
やっといつもの調子を取り戻したらしく心愛は、腕を組みながらそっぽを向いてしまった。太陽の光に照らされた顔が赤く染まって見えた。
そんな2人を隣で見ていた信司は、なんとも言いがたい気持ちになっていた。何が2人をそうさせているのか。信司にはわからない。信司は黙ったまま2人を交互に見るしかなかった。