乙女心は夢を見せない
朝になり、学校に向かう海は道であった心愛を怒らせてしまう。
さらに信司の言葉に海は・・・
僕はまだ眠たい目を擦ってベットから起きた。心愛に遅れるなと言われていた事から、いつもより早めに目覚ましを設定していたのだ。
「朝日が眩しいな。僕は夜型なんだよ。朝はギリギリまで寝たいよ。」
僕はケータイのアラームを止めた。そして待ち受け画面に戻って目が覚めた。
昨日撮ったコスプレ写真が目にとまる。1日たった今、改めて見ると不気味だ。改めて見なくても不気味なんだけど…。
寝起きの働かない脳ミソですら、待ち受け画面のおぞましさを教えてくれる。
「待ち受けにコレは耐えれないよ…気分が下がるよ。心愛は可愛いけどさぁ。」
僕はそう思うが、心愛と信司とおそろい?って言うのかなんと言うのか解らないけど、何とも言えない。どっちにしろ変えたりすると怒られるだろう。
やっぱり怒られるのは嫌だな。心愛に嫌われたら困るし。
「それにしたってズルいよな。心愛は男装?な訳だし、僕とは違って見てて不快になることもないんだからさ。見る度に思うよ。」
そう呟きながら用意を済ませた僕は、また心愛が校門前で待ってるんだろうな、と思いながら家を出た。
今日こそ心愛に文句を言われないように、ある程度の速度で自転車を漕ぎながら、学校への道を急ぐ。
「心愛っていつも待ってなくても良いのに待ってるんだよな。しかもなぜか岡本くんまでいるんだもんな。1人で教室に入れないなら、いっそ岡本くんと入れば良いのに。むしろ1人で教室に入れない理由はなんだろうか。」
考えても悩みは解決することを知らない。一旦悩むのを止めた。
すると、気が抜けたのか、風をきり通りすぎる木々の緑の匂いが鼻をかすめる。
桜もすっかりピンクの服を捨てて、緑の服を着直していた。
"毛虫の森"
ここは夏になれば毛虫が桜の木に群がっているので、そう呼ばれている。たまに毛虫が落ちてきたりして寒気がする。
そのせいもあり、春には花見で人が集まるが、夏になると誰も近寄らない。
僕はそんな森とも呼べない木々の間を先程よりも速い速度で走り抜けた。
今の時期に毛虫がいないのは解っているが、気分的に早く逃げたいと思ってしまうのだ。
森をすぎてしばらく行くと、歩いている心愛を見つけた。しめた今日はタイミングが良い。
「心愛おはよう。今日はいい感じでしょ?」
僕は自転車を降りて心愛に話し掛けた。心愛は振り向いて驚いている。
「なによ今日は早いわけ!?遅れなかったことは褒めてあげるわ。」
心愛は朝から元気のようだ。
「心愛は相変わらずだな。僕は眠くて眠くて。」
僕は目を擦る素振りをして見せた。すると心愛は気だるそうに口を開ける。
「私も眠いんだけど?岡本のせいで考え事しちゃったのよ。別に海が悪い訳じゃないんだからね。」
心愛の言葉に頭を悩ませた。信司の言葉に悩まされたと言ったのに、どうして僕まで出てくるのだろうか。ツンデレ過ぎてはいるけど、本音が見えないわけではない。
「昨日の帰りに何があったんだよ。また何か変なこと考えてたんじゃないのか?」
僕はわざわざ僕の名前を出す心愛を不審に思った。心愛はめんどくさそうに首をふった。
「別に何にもないわ。もしあったとしても、海には関係無いわ。」
心愛は冷たく言い放った。
そこまで言わなくてもいいのではないのかな。
それにしても関係無いって仮にも友達に言うことじゃないよね、不通だったら。
「話してくれたって良いじゃないか。岡本くんには言えるのに僕には言えないのわけ?」
僕は少し寂しくなって声を荒らげてしまった。
「そんなに気になるなら岡本に聞けば良いじゃない。」
心愛は顔を赤くしながら走って行ってしまった。
僕は何が何だかんだかわからず、ただ立ち尽くすしかなかった。
「岡本くん。昨日の帰りに心愛と何話してたの?」
僕は心愛が走り去った後に来た、信司に話し掛けた。
「え?どうした?急に。」
信司は驚き顔で僕を見た。
「さっき心愛に昨日なにがあったと聞いたら、"岡本くんに聞け"って言われたんだ。だから聞きこうって。」
僕は信司を見た。少しでも心愛が怒った理由を知りたかった。
「そうだな。俺の口からは言えない。姫川を信じてるんなら、あいつが言うまで待ってやれ。」
信司は僕に言う。そしてさらに続ける。
「安心しろ。姫川の事を1番に理解できるのはお前なんだろ?」
信司は僕の肩を軽く叩いて言った。僕には信司の言葉を理解しきれなかった。確かに信じてるよ。信じてるけど…。
「僕には良くわからないよ。」
僕は自転車を押す手を止めた。
「大丈夫だ。いずれ解るよ。まぁ気長に待つか、自分が動くかしてみな。なんなら土下座してみたらどうだ?たぶん1番早いんじゃないのか?」
信司は笑って僕の先を自転車に乗って行ってしまう。
僕はさらに頭を抱えながら、信司の後を自転車で追いかけた。
たぶん僕には、理解力が足りないんだろうな。乙女心なんてわかんない上に、信司の心すらわからないなんて。
自分に呆れながら漕ぐ自転車はどうにも重く感じた。気持ちとの比例は現実しか僕に与えなかった。