少年少女の本音は夢を見せない
時間が過ぎ、帰ることにした心愛と信司。心愛は駅まで送ってくれない海に不満気味。
そしてその帰り道に、信司は心愛の本音を聞く。それを聞いた信司の思いは…
ようやくラブコメらしくなる展開に3人の気持ちは…
なんだかんだで時間が過ぎた。
「そろそろ帰らないと。楽しかったぜ。明日も頑張ろうぜ!」
信司が立ち上がって言う。確かにかなりの時間が経っている。
僕らは玄関先に向かう。荷物はどうせ明日も来るのだからと、2人とも必要な物以外を部屋に置いていくようだ。まぁ良いけどさ。心愛さん…。作ったばかりの服まで置いていかなくてもいいんじゃないかな…。良いんだよ?良いんだけどさぁ…。
「それじゃあ気を付けてね。また明日。」
僕は靴を履き玄関の扉を開ける心愛と信司に言った。その時、心愛は振り替えって首をひねった。
「送ってくれないわけ?昨日は駅まで送ってくれるじゃない。」
心愛は不思議そうに尋ねた。昨日は一人だと危ないと思ったけど、今日は一人じゃないじゃないか。
「だって岡本くんいるじゃないか。岡本君と駅までの方向が一緒だよ?」
僕はそう言って笑って見せた。あっそと言わんばかりの心愛の視線が刺さる。
「ふーん。んじゃまた明日。ゆっくり来るなんて許さないからね。今日より早く来ること!いい?」
心愛はそう言って歩き始めた。どうしてだか信司は何も言わない。そんな雰囲気にいる僕は何も言えなかった。2人にただ手を振ることをした。
そして僕は暗闇に2人が溶けこむのを見送って扉を閉めた。
「姫川って松山のこと好きだよな。待ち受写真だって俺に入ってもらいたくないって口だろ?」
信司は待受画面を眺めていり心愛に話しかける。
「別にそんな事ないわ。学ラン気に入っちゃっただけ。」
信司の言葉に返事をした。心愛はケータイを閉じてポケットに入れた。
「前にさ、"海が土下座したら付き合ってあげてもいい"って言ってたよな?もし俺が土下座したら?」
信司は試すかのように1音1句はっきりと言った。
それに対して心愛は、少し開き直った風に見せた。
「岡本って今時男子系でアホそうに見えるねに…以外と賢いのね。もし岡本が土下座したら?そうね、答えはNOよ。岡本の事は友達として好きだけど、岡本じゃ私を扱えない。それは海以外の全ての男子に言えるわ。海以外に私を理解する人はいないって断言できるわ。逆に私以外に海の事を理解してあげれる人もいない。」
心愛は信司をまっすぐ見て言った。信司は心愛の意外な面を見てしまった。
いつもなら海が一緒にいて、ツンデレとしか言い様のない発言をしていた心愛の本音がチラついたからだ。
信司はもしかしたら心愛の本音が聞けるかも知れないと思い更に尋ねた。
「そう言うのを好きって言うんじゃないか?」
それでも、信司の言葉に心愛は横に首をふった。
「もし仮にそうだとしても私と海は付き合ったりしないわ。それは確実。」
心愛はそう断言した。信司はどうして心愛がそこまで言い切ることが腑に落ちない。
少なくとも海だって心愛の事を好きなはずだ。それは2人を見てきた信司が一番よく解る。それなのに、心愛は自分たちが付き合うことは絶対にないと言い張る。
信司は少し焦れったくなった。
「そんなことわからないだろう?未来の事なんて。それに松山だって姫川の事好きだと思うんだ。2人を一番近くで見ている僕だからこそ言えることだ。」
信司はもどかしくて仕方がなかった。心愛は小さい子に言い聞かせるように信司に向かう。
そして、腹をくくったかのように話をする。
「岡本だってわかってるでしょ。海が優し過ぎるぐらいのお人よしだってこと。それに鈍感。私への気持ちは恋愛感情にならない。更に私からは絶対に言わない。だから私たちは今のポジションからは動かない。むしろ動けないわけ。」
信司は、普段とは違う冷静とした心愛が長々と話したことに驚いた。しかしそれよりも、信司の目に映った心愛が寂しそうで、信司は何も言えなくなった。
「なんで岡本がそんな顔してるわけ?ほんと変な人。安心して。私も海も小説家デビューするまで誰とも恋愛ごっこなんてしないから。それじゃ、また明日。学校で会いましょう。」
信司は笑った心愛の顏が赤く火照っているような感じがしたが、暗くてはっきりとわからない。
それにしても、堂々と"ごっこ"とは良く言ったものだ。しかし、そこには強い思いがあるらしく、簡単に口を出せるような問題ではない。
小走りの心愛の後ろ姿を見送った信司は、自分も家の方向に向かって歩くと同時に、ケータイを開いた。
「なにがいいんだよ。絶対両想いじゃないか。間に挟まれる俺の気持ちも考えろよ。…。ま、確かに松山の性格上を考えれば、土下座して交際を申し込むようなことはしないだろうな。そもそも"可愛いよ"なんて天然タラシにもほどがある。姫川限定だけどさ。つーかあいつら俺以外の友達とか作ってないだろ。それはそれで優越感に浸れるか。」
信司はケータイの待ち受け画面に映る2人を見つめて呟く。信司の心の中は2人と友人であることを誇りに感じでいた。実際に信司には2人以外にも友人ができている。しかし、他の友人とは最低限のお付き合いしかしていない。
「何だかんだ2人といるときが1番落ち着いていいんだよな。目指す夢も同じようなものだし。しかしライトノベルを書くわりに2人とも恋愛には純情ってか純粋って言うか。それはそれで、俺としては楽しいけどさ。」
信司の言葉はすれ違う人々の声にかき消されて誰も知ることはなかった。