待ち受け画面は夢を見せない
海の学ランを着た心愛と、心愛のフリフリ衣装を着た海のツーショット写真を3人は待ち受けにした。海以外の2人はノリノリ。
そして、心愛は、2人にある提案をする。
その提案とは…
さらに海の本棚には毎月いくつもの夢が積み込まれていて…
待ち受けを心愛との2ショットにしてから約1時間。良く考えてみれば、恥ずかしい。
いや…良く考えなくても恥ずかしい。心愛はなにも思わないのだろうか。
ほんとに僕の姿は異様だ・・・。
そう考えると女の子は得だよな。服装がオールマイティーなんだから。女の子がズボンを穿いても不思議ではないが、逆にどうだろう。僕達男がスカートを穿くと、苦情がでる。
いや、穿きたいわけではないんだけど、ちょっと不公平に感じる。
ま、ゆるふわな可愛らしいスカートは女の子が着ているから可愛いんだろうな。
僕はそう思った。それにしても…
「岡本くん…そんなに笑わなくても良いだろ…。」
心愛の陰で信司がケータイの画面とにらめっこをしている。もちろん信司が全敗だ。
「ごめんごめん。松山の女装が似合いすぎて。」
信司が笑いすぎで出た涙を拭いながら言った。似合うと言われても嬉しくない。女装が似合うってことは、同時に男らしくないって事って言ってるようなわけだし。
「僕なんかより、心愛の方が似合ってたよ。」
僕は悔しくなって呟いてみたが、誰も聞いてはくれず悲しくなった。
衣装が出来て幸せそうな心愛が急に話を切り出す。
「ねぇ私ネットで見付けたんだけどさ。小説を投稿するサイトみたいなもの。そこで投稿してみない?私たちの小説を第3者の目から見てもらっちゃいましょう!」
心愛は嬉しそうに言う。確かにそれは良いかもしれない。しかし文芸部との両立が出来るだろうか。少し不安だった。
「やろうぜ!松山!!文芸部だって月1の報告会以外は自由だし。」
信司が乗り気で言う。あれ?ちょっと待ってよ。月1にしか全員集まらないなんて始めて知ったよ。でもそれなら出来そうだ。
僕は俄然やる気が出てきた。
「早速やろう。パソコンが要るよね。ちょっと待ってて。」
僕はそう言って隣の部屋に向かった。心愛と信司は首を傾げた。
1分も経たないうちに僕は2人を呼んだ。
「おーい。ちょっと手伝って。」
僕が呼ぶと2人はすぐに来た。心愛は少し気だるそうだった。
「これ運ぶの手伝ってよ。重いんだよ。」
僕はパソコンを指差した。2人は目を輝かせながら2つ並んだパソコンを見つめる。
僕の部屋にもパソコンが1つあるから、これで3つ揃う。
「海ったらやるじゃない!褒めてあげるわ。」
口調は嬉しそうだが、態度は上から。心愛らしいけど、褒めるならもう少し素直に褒めてほしいよ。
それでもパソコンを運ぶ後ろ姿は幸せそうで何も言えなかった。
「それにしても、よくあったな。パソコンなんて。」
信司がニッと笑う。心愛も興味があるようで、パソコンを僕の部屋の勉強机に置いた後、僕の方へ駆け寄ってきた。
「そうだね。特に面白い話じゃないんだけど、前に母さんがネットでいろいろしてたんだよ。いつの日かパソコンが壊れたって言ってもう一台買ってきたんだけど、実はコンセントが抜けてただけだったんだ。そして、今は使わなくなって、ここにあるってわけ。母さんは機械音痴なんだ。」
僕は苦笑いしながら言った。
機械音痴ってだけではない気もするんだが…。
「ユニークなお母さんで。まぁ良いじゃないか。そのお陰で、パソコンが皆使えるんだし。」
信司はパソコンのコンセントを挿した。パソコンを立ち上げてインターネットを開いた。
「ちょっと待ちなさいよ岡本!海もほらぐずぐずしてないで早くするわよ。一緒にログインするんだから。」
心愛がパソコンの前に座り、信司によって既に立ち上げられた画面を見る。
僕もつられるようにパソコンの前に座った。心愛が言っていたサイトを開き新規登録画面に行く。
「じゃあケータイアドレス入れて、ケータイでも出来るようにしようぜ。」
信司がそう言う。僕と心愛も信司の意見に賛成し、アドレスを入れた。
「「「登録完了!!」」」
3人の声が重なった。ハイタッチを交わして拍手をする。
「パソコンをバックに記念撮影するわよ。」
心愛はケータイの内カメラモードに切り替えて言った。僕も信司も心愛の向けるカメラを見た。
「笑って。はいチーズ!!」
パシャッ。フラッシュが眩しく光る。
「心愛って写真撮るの好きなのか?僕のケータイは内カメラモードってのはないから不便だよ。」
撮った写真を嬉しそうに保存する心愛に向かって話しかけた。信司も同様で僕の意見に賛成の様だ。
「バカね。女子ってもんを全くわかってないんだから。まぁ、普段はケータイなんて使わないけどね。知らないわけ?今の時代、‘プリクラ’って便利なものがあるでしょ?シールだから貼りやすいし便利よね。」
心愛は人差し指を立てて話す。要するに、プリクラが好きってことだよな?その解釈でいいんだよな。
僕がその手のものに詳しくないことに文句を言わないでほしい。
小説書いて早5年。休みの日??小説描いてます!…。はい、そんな毎日を過ごしてきたのだ。
そんな僕に現代技術の発達を示すような機械を言われても知るわけがない。
…。こう昔を振り返ると、僕の過去って小説しか書いてない人生じゃないか!
「小説ばかり書いてほとんど外に出ない僕がそんな機械知るわけないだろ…。」
僕は少し涙目になりながら心愛に言った。さすがに心愛も同情の目を向けてくる。
そんな捨てられた子犬を見るような目で見ないでほしいよ。涙が出るじゃないか。思い出だけで涙出ますけどね。
「松山ってほんと小説好きなんだな。本棚とか見ててもわかるよ。ライトノベルが隙間なく入ってる。コレ全部読んだのかよ。」
信司は僕たちのやり取りお構いなしに、本棚をまじまじと見る。
「そうなんだよ。昔から読むのも書くのも好きでさぁ。今じゃ、月のお小遣いがライトノベルで消えて言ってるよ。そろそろ本棚も買わないといけないぐらい。ちなみにここもスライトさせると…。ほら本棚が出てくるんだ。」
僕は本棚をスライドさせて後ろの本棚を見せた後、手を広げて得意げに答えた。涙は…興奮した時にでも出た熱で蒸発したことにしよう。
「すごいな。おすすめあったら貸してくれよ。」
信司は珍しいものでも見るように手に取っている。プリクラについてあつく語っていた心愛も本棚でライトノベルを探っていた。すると心愛があるものを手に取って叫んだ。
「海。コレ貸しなさい!コレ今人気過ぎて在庫が無くなって取扱いしてないのじゃない!諦めてたのに、ここで読めるなんて!!感激だわ!!」
感激の涙(?)を流しながら心愛が小説を掲げる。それは、心愛の言った通り人気の作品で、今ではどこも取り扱ってはいない。かの有名なネットショッピング様でさえ取扱いしていないそうだ。
そう言えば、そのネットショッピングを良く使ったな。家から出るのも億劫で全部ネットで買い物していた。あれ…。僕って友達いない奴…?そ…そんなことないよ…たぶん…。
まぁ、そんなことは置いといて、
「いいよ。その代り、待ち受け画面の写真を、パソコンをバックにした写真に…」
「嫌よ。海のフリフリ衣装が気に入ったの。文句は受け付けないわよ。」
僕の頼み空しく、あっさり断られてしまった。
「じゃぁ、せめて他人には見せないでくれよ。岡本くんもだからね。」
僕は2人に言うが2人とも本に夢中で空返事をされてしまった。ちょっと…かなり不安なんだけど大丈夫かな…?
僕は不安を残し、自分のケータイの待ち受け画面に目を向けた。フリフリ衣装の自分の横に、学ラン姿の心愛。信司がいないからと言う理由を付けても心愛はきっと同じ答えを出すんだろうな。そう思いながらケータイを静かに閉じた。
2人の本棚物色あ2時間以上続いて、2人がどんな小説を手に取ったかは、機会があれば。
もしくは、想像にお任せします。そんなナレーションを付けておこうかな。