後で怖くなる話
(語り部:伊達勇希)
あーっと、次はわたしだっけ。
わたしの故郷も、ふっるいぶんそんなおかしな話がごろごろ出てくるんだよな。
けど、今回はつい最近の、実体験を話してやるよ。
***
最近わたしの故郷でも新しいマンションやホテルとかがけっこーできてんの。そのとき、わたしは仕事でホテルに泊まることになった。ちょいとだけサービスしてもらったから、いいとこに泊まれた。
夕食も食べ終わって……まぁ、あれは姉貴が作ったメシのほうがよかったかも。そんで、風呂も入って部屋で休んでたわけだ。ちょっと暇ができたもんだから、ベランダに出てみた。なんとなくな、なーんか面白いもんでもやってねーかと思って。
結果から言ったら、いいもんはなんも見えなかった。高いビルばっかで、わたしが泊まったとこはそこまで高いとこじゃなかったから、見晴らしもあんまよくなかった。ちなみにわたしが泊まったのは七階だ。つまらないから、目の前のビルを眺めてた。
面白いテレビ番組もやってねーし、窓から面白いもんでも見えねーかって……別に変態は見たくねーけど。
ま、向かいはマンションでこっち側に扉をむけてたから、なにも期待できない。
そうしてたら、ある階から一人の男が勢いよく飛び出してきた。
その男は……そのときはよく分かんなかったけど、少しだけ慌ててた気がするな。黒い長袖シャツ着て黒いズボン履いて、目立たないようにするためだったかも知れないけど、明るいうちだと逆に目立ちまくりだよな。
で、わたしはそいつと目が合っちまった。すぐ逸らそうとしたけど、そいつは指を一本立てたんだ。
上の方をさしてるのかと思ったら、一度指を少し下げて、また少しずつ上に上げていく。
ぽかんとしてるうちに、その男は一目散に走って行っちまった。なにがなんなのかさっぱりだったぞ。部屋に戻ってそのことをずっと考えてた。
そしたらな。ダチの和歌から、ちょっと前に似たような話聞いたことがあったの、思い出したんだよ。
『とあるマンションの四階に、女性が一人で住んでいた。ある時、目の前のマンションで殺人事件が起こる。そして、彼女はその犯人らしき男を目撃していた。その時、犯人はなぜか指一本たてて上を指した。そして、犯人はその場から立ち去った』
確か、そのときなんで上をさしたのかと聞いた気がした。
「なぜだと思う?」
けどスピカは悪戯っぽく笑ってじらした。
わたしがいろいろその理由を当てようとしていって、……最後に降参して答えを教えてもらったんだけどな。そのときは、少しぞわーっとしたのを覚えてる。
けど……教えてもらった答えだけはどうしても思い出せなかったんだよ。なんでわたしがそんなに怖いと思ったのか……その犯人はなにしようとしてたのか……。
ヒントになるかと思ったのに、逆に余計分からなくなっちまった。
……あ、お前はもうオチ分かっちゃったよな。でも、ネタバレすんなよ? って、なんか顔色悪いぞ? 大丈夫?
ま、続き話すな。その後、わたしは思い出すのに飽きてストレッチとかしてた。で、もう寝るーってときに……思い出しちまったんだよ。
その、答えをな。
『犯人は上をさしたのではない。目撃者の彼女が住んでいた階が、何階なのかを数えていたのだ』
確か、なんで? とか、犯人はなにしたかったのか? とかも聞かなかったと思う。聞かなくても分かったんだろ。
犯人は……顔を見られたために彼女を殺しに行こうとしたんだ。だから指をさして数えてた。
あの黒っぽい男も……部屋でなにをしてたのか……。もうそれ以上考えたくも無かったけど、急に身の危険を感じたんだよ。急いでホテルから出る支度をして部屋を飛び出た。
ホテルマンに会計を支払って出入り口から出て行くとき……その野郎が入ってきやがったんだよ。
でも運よく? そいつはわたしに気がつかなかったから、絶対顔をあわせないようにして、さっさと外に出た。そっこー自分の家に帰ったよ。
***
次の日、そのホテルの目の前のマンションで、無理心中があったってラジオのニュースで聞いたんだ。女性が刺し殺され、元旦那の男が自分で首吊って死んでたらしい。階の位置的に、あの男が出てきた部屋だとすぐに思った。
さすがにびっくらこいたぜ。できれば、早とちりの方が良かったよ。
だってさ……なら、あの男はなにをしてたっていうんだ? 今もわっかんねぇ。
ま、それからはそこのあたりはできるかぎり寄らないようにしたり、ホテルに泊まらないようにしてるけどよ。もう、あの男に会いたくねーから。わたしの話はこれでおしまいだ。
……って、ごめん、あんまオバケとかそっち系じゃなかったな。でもすっげー怖かったし、今でも怖いくらいだぜ。
***
……どうした? 本当に体調が悪いんじゃない? へ? その男の他の特徴?
あーっと……遠目だったからよく見えなかったけど……。あ、すれ違ったときに左頬に火傷の痕があった! それがどうかしたか。
「そやつは……未だお主のこと……狙っておるようじゃな」
詳細は忘れましたが、多分元ネタは都市伝説です。