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5話 ラーム世界の魔族








『ラーム』 それがこの世界の名前だ。この世界は魔法が発達した神秘的な世界であり、愚かな人間の巣くう醜い世界だ。まぁそれはどうでもいいのだが。

『ラーム』に生きる人種は大きく分けて三つ。


特に何の変哲のない『人間』


動物や魔獣の力を持って生まれた『獣人』


そして、『闇』の属性を操ることの出来る『魔族』 だ。


体の何処かに動物や魔獣の一部がある獣人とは違い、人間と魔族の違いは極めて少ない。

『闇』属性の魔法が使える、又は『闇』属性を魔力を持っている というのが人間と魔族の違い。


もともと人間と魔族は纏めて『人間』だった。だが、人間は自分とは違う異質さを嫌う者。何時からか人間は人間と魔族を分けるようになったのだ。

魔族からしてみては理不尽極まりない。ただ闇属性だから、と差別を受け、勝手に人間から外されてしまったのだから。

そんな不安定な関係が何時までも続くはずがなく、終いには『人間側』と『魔族側』の戦争にまでなってしまった。

その戦争の時に魔族を率いる者として『魔王』が生まれた。それが初代魔王。

魔王は只ならぬ人望と支配力を発揮し、後に『ラームの決戦』と呼ばれる様になる戦いに勝利を残した。

人間を恨んでいた魔族は恨みを晴らせた事を大いに喜び、進んで魔王を王とした魔国を建設した。


これで人間に恨みを晴らせた。


我らを迫害した事を後悔しろ。


勝ったことに浮かれた魔族たちは魔王が居れば大丈夫だ、と、そのまま人間を放っておいた。

だが、魔国で籠もっている間に人間の国は復興し力を取り戻していき、また溝が深まっていった。


何時しか人間は『勇者』を送ってくるようになった。


もともと全体的に能力の高かった魔族の、もっと特別的に能力の高い王――魔王には勝てなかったが・・・。


溝を埋めないまま魔王と勇者の戦いは何百年もの歳月を戦う。


魔王も勇者も変わりながら・・・。


ある時、人間の王は『勇者』を召喚した。

それは私が魔王となって、落ち着いてきた時の事だった。


確かに強いが私に勝てるとは思えない位の粋がりな勇者 というのがその勇者の第一印象だった。

その勇者と私は力の限り死闘を繰り広げ戦った。

最後と思われた時、彼は言った。


『ただでは負けない。』


と口角を上げ、そして―――。




気付けば暗い黒い世界に居て、自分が封印されたのだと理解した。


勿論、私が封印されている間のラームの事も知らない。



私が居ない間、ラームの状況は一変していたというのに・・・。





「・・・魔国が、崩れ・・・た?」


「・・・もう800年ほど前の事です。」


1000年前から・・・私が封印されてからラームの状況は変化していった。魔王が居なくなった魔族は混乱し、其処に人間の戦闘用部隊が導入された。

まとめ役である魔王が居ない状態の魔族は十分に強い、が・・・勇者が居る という希望があったせいで勢いづいた人間は魔族に打ち勝った。


つまり・・・


魔族軍が負けたのだ。


その時の戦いは『ラームの決戦』に次ぐ、『ラーム第二次決戦』と呼ばれる様になった。


そして魔族は殺され、弄られ、辱められ、奴隷とされた。


魔族の築いてきた威厳と尊厳は地に落とされ、見事に築かれた魔国は人間に乗っ取られてしまったのだ。

今では美しい自然溢れていた魔国は汚く踏み荒らされ人間の首都として使われているとか。


「・・・魔族はもう残り少ないうえに、ばらばらに固まって奴隷として使われているのです。

魔王様。貴方は我らにとって希望です! 我ら魔族をお助け下さい!!」


私はその言葉に事の深刻さについて理解することが出来た。


私にしか彼らを救う術はないと。


でも・・・


「・・・ご、ごめんなさい・・・。」


「! な、何故ですっ!?」


弱々しく謝る私に誰もが表情を歪めて食い入る。

まるで捨てられた様に愕然として。


「・・・『力』がない、の・・・。 貴方達を助けられるほどの『力』が、()の私にはないの。」


そう、()の私には『力』がない。


()は言っていた。


『この封印は俺の最高の魔法だ。何時か封印が解けても、お前が直ぐに行動がとれない様に細工のしてある自信作だぜ? 存分に味わえ、魔王よ。』


と。


細工というのは、封印が解かれた直後には私の実力が出せない、というものだろう。


余計な細工をしてくれたよあいつは。


「で、ですが・・・先程はあんなに力を示していたではありませんか・・・。」


老人が焦ったように問いかける。


「確かに私は使えないとされている『腐敗』の魔法を使った。 ・・・前はあれぐらい無意識にでも発動出来たのに・・・今はあれで魔力が枯渇寸前の状態。 転送魔法も使えないくらいにね。」


だから王達を殺した後にフードの者の影を借りて通ったのだ。

転送するための魔力が足りなかったから。

それでも『腐敗』の魔法は上級魔法で、城全体を覆うほどの魔力を持っているのは魔王だからだろうか。

たとえ弱っていても魔王は魔王。魔族を従える者なのだから魔力は格段に大きい。


「で、では・・・力が回復してからでも・・・。」


「・・・回復はしないよ。 彼の封印は完璧だった。 私を黒い世界に封印すると同時に、私の力を分散して別々の所に封印されているみたいだね。 それもバラバラの所に厳重に・・・。」


「そ、そんな・・・。」


()あの時(・・・)の封印の魔法に全てを賭けていた様だ。

この世界に召喚された時から、自分の”力”がいたる所にばら撒かれ、深く封印されている事に気付いており、それが彼の魔法のせいだというのには直ぐ気付いた。


私のその言葉に老人を含むフードの者達が項垂れる。

その光景はまるで光のない闇の中。希望も夢も失った闇の中の虚ろな者達の様だった。



・・・で?





「・・・何を勝手に諦めているの?」






私の冷たく、聞く者を凍てつかせる様な怒りの声がフードの者達の間を駆け巡った。


















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