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3話 闇の花







シン とした静寂の中、中央に立つ私は凜 と言い放つ。


それを一瞬で理解出来る者は居ず、ただただ沈黙の中私を見つめる事しか出来ずに居た。


しかしすぐさまそれを理解した王が驚きと困惑の表情で私に問いかける。


「・・・それが何を意味するのか、分かっている、のか・・・?」


途切れ途切れに紡がれた言葉は静かに木霊し、私の耳へと入る。だがその脅しこそ何の意味を持たないという事に気付く者は私を除き、この場には誰もいなかった。ただ、『()』から様子を窺う者以外は、の事だが。


「はい。重々承知してますよ。」


私は飄々とした軽い態度で冷たく言い放つ。

その言葉によってやっと周りの者達の硬直が解かれていく。


「っく! この勇者風情がっ! 身の程を弁えろ!」


そう叫んだのはやっと状況の読めた愚かな王だった。

そして私の首で揺らめくネックレス(くびわ)を指差し、何事かを呟く。

ビシィィ と最初と同じくらいの電流が私の体を駆け巡った。

――が、


「・・・これくらいで私を制することが出来ると思っているのですか・・・?」


気の弱い『マリ』だったはずの者の声とは思えないほどの静かな声が広間で美しく響く。私の変わり様にざわざわ と辺りの者が動揺しだす。毅然に振舞っていた王でさえ動揺の表情が窺えた。


・・・もういいか。もう少し楽しませてやろうと思ったが・・・。


「・・・それでは皆さん、お別れの時間のようです。また会えない事を祈って―――死んでください。

咲き誇る(ブローム)・・・腐敗の花(ラフレシア)》」


ザアアァァァァァァァァァ


私の言葉(じゅもん)と共に枯れ果てた・・・腐りきった花が広間の中で咲き誇る(・・・・)


「「「「「なっ!!?」」」」」


広間の者達が一斉に驚きの声を上げる。驚くのも無理はないだろう。なんていったって、床や壁を腐らせながら(・・・・・・)腐った花が咲き乱れていくのだから。しかも城を覆い尽くすほどの花が。


「き、貴様ぁぁぁ! 一体何、を・・・っ!? ゴホッゴホ!?」


怒りに我を忘れたという風貌の王が私に向かって騒ぎ立てるが、いきなりの息のし辛さに思わず咳き込む。周りの者達も騒ぎながらも咳き込み、恐れた様にな目で私を見、私の言葉を待つ。


「・・・何をって、『腐敗』の花を咲かせる魔法ですよ。・・・まぁ貴方方は知らない、というより知ったところで使えないような上級魔法でしょうがね。」


そこで一息入れ、周りの苦しそうにしている者達の視線が私に集まっている事を確認し、話を続ける。


「・・・そろそろ息の方はどうですか?辛いですか?

咲き誇る(ブローム)腐敗の花(ラフレシア)』は言葉の通り、腐敗した花を咲き乱れさせる魔法です。花 というのは花粉を飛ばすものでしょう?ですがこの花はただの花ではなく、腐敗(・・)した花です。花粉の代わりに腐敗を放つ(・・・・・)。 さて、この意味が分かりますか?」


最後は問いかける様に言い放つ。

『腐敗を放つ』ということは周りを――空気(・・)を腐敗させるということだ。

空気が腐敗してしまえば息が苦しくなるのは必然的な事となる。そして外には新鮮な空気がある。助かりたくば外に出るのが正しい。


さて、この場でそれに気付けたのはどれくらい居るのか・・・。


まず、王は私の言葉を直ぐさま理解した様で、顔色を変え、出口へと急いで向かう。

出口は王の座っていた王座とは逆。つまり、向かい合う様に立っている私に突っ込む様な形になってしまうわけだ。


そんな直球で逃げ出す馬鹿を私が見逃すはずがないというのに・・・。


兎に角、ここに居る者を考えず己の安全を優先するような愚かな王には蹴りを入れておく。気絶させない程度に、項垂れてしまうくらいに。


隣で腹を抱えて蹲る王を一瞥し、周りの様子を確認する。


誰もが空気を求め手を伸ばすが、その手は変わらず空を掴むばかり。

よく分からない叫び声を上げて私にがむしゃらに突っ込んでくる者には蹴りを。

出口へと向かう者にも蹴りを。

頭を下げて命乞いする者にも蹴りを。


逃げ場も助けも失った者達は一人、一人と力なく倒れていく。

低い喘ぎ声を発しながら・・・。



あぁ・・・愉快だ!



哀れで愚かで・・・これほど面白いものはない!



久しぶりの快感に胸が震えた。


そう。これこそが快感! これこそが人間! これこそが()


「フフ・・・フハハハハ・・・ハハハハハハハハハハハハハハ!!」


誰もが話すことのないモノ(・・)となった大広間に私の高らかな笑い声が木霊する。

まるで気の狂った者の声の様だが、その笑い声はどこまでいっても美しい美声だった。

聞いたものを虜にしてしまうほどの美しさだ。だが、その笑い声を聞く者は影に潜んでいる者のみだった。


「ハハハ・・・・さてお遊びは終わりにして、そろそろここから出ないとなぁ・・・。」


そう呟き、私は腐りだしてきた者達を一瞥し、最後に王の()を見つめる。


そこ(・・)から出てもいいかな?」


「っ!」


私の言葉は影に向かって放たれ、()に潜んでいた者が驚きの声を上げる。

今まで気付かれていないと思っていた者にいきなり話しかけられたんだ。驚くのも無理はない。しかも、その相手が笑いながら人を一瞬で散らすほどの者なのだからより一層恐怖に駆られるものだ。


少しの間をおき、影から人が時間をかけて姿を現す。

黒いフードを被った者だ。恐らく、私を実際に召喚した者達かその仲間だろう。


フードの者は黙りながらも横に避け、影への道を開ける。通っていい という事だろう。


私はその者にニコッ と笑いかけ、その影へと沈んでいく。

フードの者も私が入ったのを確認し、その後に続いた。


笑い声の消えた広間の後に残されたのは既に腐れ始めたモノ達(・・・)と、腐っているはずの歪な存在感を放つ、美しい花。そして広間の真ん中に残された文字の書かれたカードのみだった。


カードには一言の言葉が添えられていた・・・



『  死を彩るは闇の()  』



と―――



その後、その言葉を見た者達はある存在(・・・・)を脳裏に浮かべ、恐怖に駆られたとか・・・。

そして城で起こった惨劇は国中を不安にさせるものとなった。


・・・カードのことは一部の者達の胸にしまわれた・・・。

国の失態を隠すために・・・




















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