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1話 懐かしい世界

1話目です♪


どうぞよろしく!






「・・・どこだここは?」

私の声は何時もの様に反響する事なく響いた。


私の視界に映るのはあのどこまでも続く黒の世界ではなく、綺麗な装飾をされた小さな部屋の光景だった。電気は消えているがあの暗闇よりも数倍明るいおかげで部屋の様子がよく見える。


見えるものといえばまず私を見つめる数人の人達。居るのは五人で黒いフードを被っており一番前に居る者は小さな杖を持っている。何かの魔法の儀式の途中の様だ。周りには特に何もなく、部屋の隅には追いやられた様に机が積み重なっていてその上にシーツが被せられていた。


ふと足元を見てみる。


「・・・この魔方陣は・・・召喚術か。」


自分の足元を中心に大きな陣が描かれており薄っすらと光を放っている。


床に描かれている召喚術の魔方陣に魔法の儀式中の様な人達・・・。


なるほど・・・。私はあの黒い世界(・・・・・・)からこの世界へと召喚された様だ。

ここが元の世界かは分からないが一先ずは安心、といったところか。


「おぉ・・・おぉ・・・あなたが勇者様ですか・・・?」


一番手前の杖を握ったフードの者が年老いたしわがれた声を歓喜に震わせて言った。


この状況からして、このフードの者達は勇者の召喚を試した様だ。


確かに私は”力”を持っている。それはもしかしたら勇者を凌ぐほどの”力”を・・・。


彼らにしては術は成功だろう。膨大な力の持ち主を召喚したのだから。だが実際は逆だ。

これは失敗と言った方がいいだろう。ただの失敗よりも大分悪い失敗。


だがその事は言わないほうがいいだろう。


言わない方が・・・面白そうだから、ね。


それに、偶然とはいえ私をあの世界(・・・・)から出してくれたのだから・・・。


「はい。私は勇者です。」


にっこり と微笑み、皆に聞こえる様に言う。


「おおぉぉぉぉ・・・」


フードの者達は嬉しさからか声を殺して泣き出す。

それほどまでに彼らはこの術に託していた様だ。


「で、ではこちらへどうぞ勇者様。」


慌てて涙を拭いた一番手前の者が手で部屋の出口へと行くように指し示す。


「あ、はい。 ・・・その前に服をくれますか?」


少し謙虚目に頬を赤らめながら自分の体を見下ろす。

よく少女と言われることに恥じない虚しくなる13歳くらいの子供の体だ。


まぁ結構気に入ってるし別に恥ずかしくないが流石に素っ裸なのはどうかと・・・。


「そ、それは申し訳ありませんでした! す、直ぐにお召し物を御持ちします!」


近くに居たフードの者の一人が慌てて出口から出て階段を上っていく。

声からして20前後の男性の様だ。


フッ。青いな。


男性の持ってきた服は布を縫って作られたシンプルな服だった。

身を清める時に巫女が着るような簡単なものだ。


とりあえずはそれを身に纏う。

それを着てから改めてフードの人達を確認する。

全員がフードを深く被っているから顔は全然確認出来なかった。だが最初に私に話しかけてきた者以外のほとんどが大分と若い様だ。きびきびと私の為に動き回っている。


「では上へと上りましょう。」


トーンの高い声に急かされて階段を上る。素直じゃないタイプの女性の様だ。



「・・・ここは?」

上に上るとただただ草原が続いていた。

草原の中心にポツンと無機質な階段があり私はそこの地下から出てきた様だ。


「ここは名もない森の中に人知れず存在する草原です。ここを知っている者は私達のみ・・・。」


後ろから着いてきた女性が私の問いに答える。

女性は私達しかここを知るものはいない、という。


でも、私は知っている。


ここはあの人達(・・・・)と・・・。


「どうかしました?」


「・・・いえ。なんでもありません。」


懐かしくてか、それとも悲しくてか、とにかく込み上げてきた涙をばれない様に拭き取る。


ここを私は知っている。ならこの世界は私の元の世界だということになる。

私は、帰ってこれたのだ。元の世界に。


「・・・ああ。やっぱり風は気持ちいいな・・・。」


強すぎともいえる風だが私にとっては久方振りの風だ。心地良くも感じる。


「・・・? そうですか・・・。」


フードの者達がぞろぞろと上ってくる。


にしても、どうしてこんな所で召喚なんてしたんだ?


「では今から転送魔法を使いますので私にお掴り下さい。」


「あぁ。わざわざ上に上ったのは魔法を使うためですか。」


「! ・・・どうしてその様に思われたんですか?」


私の何気ない言葉にフードの者達の空気が急に変わった。先程までの緩みきった空気ではなく、何か敵に対する警戒のピリピリとした空気に。


「・・・私が召喚された場所には魔法が使えなくなる無効化の魔法が張られていたでしょう?」


失敗したな と思いつつも素直に答える。


そう。あの地下には無効化の効果を持つ魔法が張られていた。

わざわざ召喚術だけは例外として使えるように施された高度な魔法が・・・。

あの魔法を使った者は相当の実力を持っているだろう。


さっき服を取りに階段を上っていたが、わざわざ転送の魔法を使って取りに行ってくれた様だ。

うん。ありがとう。


「・・・流石勇者様、というところですかね・・・。ですが召喚魔法で呼ばれるのは異世界人のはず。

勇者様の世界は魔法に長けていたのですか?」


「・・・ええ、まぁ・・・。」


この世界出身ですから。とは口に出さず、心の中で呟いておく。


曖昧に、とはいえその返答に納得したのか重い空気は軽くなった。


「・・・では転送魔法は出来ますか・・・?」


女性が控えめに聞いてくる。

無駄な力は使いたくないのだろう。出来るなら自分で転送しやがれって事ですか・・・。

まぁ確かに転送の魔法は普通の人(・・・・)には結構辛い魔法だからな。そう思うのもしょうがないか・・・。

私はもっと凄い魔法使えるから転送くらい出来る。でもね・・・


「・・・す、すいません。 私、まだ出来なくて・・・。」


今の私は謙虚な幼い少女。

そんな少女キャラが転送なんていう上級魔法使えたらおかしいでしょ?例え勇者でも。


「・・・そう、ですか。では掴って下さい。」


召喚されてから感じる値踏みする様な視線が外れたのを確認し、私は女性の腕を掴む。女性は、願った勇者がこんな幼い少女だったからか複雑そうに眉を顰める。


・・・不愉快だ。


複雑な思いを持っているのは最初に話しかけてきた年寄り以外の若い者達共だということは顔を見ずとも、肌で感じる。これは黒い世界に閉じ込められていた時よりも昔からのことだった。

そう・・・ずっと昔からの・・・。


「では行きます! 《転送(テレポート)》!」


よく私が口ずさんだ魔法に懐かしく思いながら、私はその身を術に委ね、目を閉じる。


・・・あの黒い世界の時みたいだな・・・。


私の全てを奪い、私を縛ったあの黒い世界でさえ、私には懐かしく思える様になったようだ。





































主人公の名前は追々出てくる予定です。。。

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