18話 ただ探し求めて
ウィング村から歩いて一週間の所に町があるそうだ。まぁウィング村の村長の娘が言うのだから確かだろう。つまり、ルリトと別れた私達はその町に向かっているのだ。
ただ、この静かな空気は・・・気まずいと思う。
「・・・」
「・・・」
「・・・言いたい事があるのならどうぞ? ジン、リーナ。」
「・・・ほんとに魔王様だったのかお前・・・。」
「ええ。 確かに私は貴方達の良く知る御伽話の敵役ですが何か?」
「さり気無く根にもってるわけか。 言葉が辛辣だぞ?」
ジンが溜息と同時に何時もの調子に戻る。
リーナも後ろでクスクスと笑っている。
・・・何がおかしい・・・。
「貴方達は・・・私に付いてきてくれるのですか?」
不安に思っていた事を聞くと、2人はポカンとしてからまた笑う。
「ハッ。 魔王ともあろう者が随分よ弱気じゃねーか。」
「クス。 ええ勿論付いていきますわ。 だって私の生きる意味はなくなりましたし、貴方が一緒に探してくれるのでしょう? 私の生きる意味を――ね。」
「・・・ああ、そんな話もしましたね。」
「・・・私、少し胸にグサッと来ました。 ついでに目から何か冷たいものが・・・。」
「嘘ですよっと。 ・・・でもありがとう。 私が例え魔王であろうと、今の私は無力な小娘。そんな私には支えが必要だったので・・・・。」
「気にすんなよ。それに今はマリなんだろ?」
ジンとリーナが優しく微笑みかけ、私は少し安堵する。
でも・・・分かってるのかこの2人? 確かに今はただの小娘だが、腐っても魔王だという事を。
だって魔王は傲慢なものでしょう?しかもマリは子供ですよ?
にやりと口が歪むのを感じた。
「ではジン♪ 私、今から寝るのでおんぶして下さい♪」
「・・・はぁ?」
「ほらほら早く早く♪」
「お、おい勝手に・・・ってもう寝てる!? 起きろ! おいったら!!」
「現在マリハ機能停止シマシタ。 マタノ御利用、御待チシテマス。」
「起きてんじゃねーか! マリ!?」
「アハハハ! もう寝てるわ本当に! まあしょうがないと思うわよ?」
「何でだよ!?」
「だって貴方はその子をマリとして見てるわ。 マリは・・・子供だもの♪
貴方がマリと認めたという事は子供と認めたってこと。つまり・・・子供の我儘を聞くのは大人の仕事、ってね♪」
そしてジンの背中から伝わる振動・・・あれ? 何震えてるのジン?
「ふざけんなぁーーーーー!!」
ギャアギャアと如何にも危険そうな鳥達が飛び去って行った。
その絶叫を聞きながら私は眠りましたとさ。
マリは「すぅすぅ」と可愛らしい寝息を立ててジンの背中に収まっています。
本名は確か――『カーレリア』といったかしら。
マリは人間が恐れる魔王とは思えないほどに安らかに眠っています。
それは本当にただの無垢な少女の様に。
マリは1000年前に封印された存在。
今の今まで1人だったのかと思うと・・・流石に私まで寂しく感じてしまうだろう。
よく頑張ったのだと思う。
ジンは何だかんだでマリを背負ったまま私の前を歩いていきます。成程ジンは――
「・・・貴方、優しかったのね。」
ぽつりと呟いたその言葉にジンは思いっきり動揺して振り返りました。
「っんなわけないだろ!?」
「・・・必死ね? でも相手がマリなら当たり前なんでしょうね・・・誰もが。 特に魔族がね。」
少しの沈黙の後、ジンはふと何かを思い出すように空を見上げた。
「そういえば・・・ルリト――あいつは闇風のルリト・・・だよな? 結構有名な冒険者の。」
「ええそうだと思うわ。 マリは・・・闇風って言ってたけど・・・。魔族ではそう呼ぶのかも知れないわ。 噂では瞳の色も髪の色も蒼だと聞いていたけど・・・魔法かしら?」
「だろうな。 まさか魔族で、魔王の騎士だったとは・・・。」
「「・・・色々知らないってことか(ね)」」
その会話っきり私とジンは黙って歩きました。
「・・・あら?」
マリの目もとにきらりと光る何かが見えました。
黒い世界。 誰も居なくて何も無い無の世界。
どれだけ叫ぼうとただ響くだけ。
どれだけ足掻こうと見えない圧力に押しつぶされるだけ。
どうして?
どうして来てくれないの!?
私は何時まで1人で居ればいいの!?
私は・・・もう貴方達に会えないの・・・?
そうして私は手を伸ばす。
救いも慈愛もいらない。
ただ、彼らに会いたくて――
「・・・夢・・・」
私は汗をだらだらと掻き、手を伸ばしていた。何も無い空間に。
「ルリトに会ったから・・・ホッとし過ぎたのかも知れないな・・・。」
あんな夢を見るなんて――
・・・にしても明るい。
何この金ぴかりんの家具と装飾の部屋は。
目がやられて見えなくなるどころ、か変なものが見えるようになったらどうしてくれる、ぷんぷん。
別に元から視えるけど。
「あ! 起きたのねマリ!!」
何やらテンションの高い、少し痛い子が扉を開けて入ってきた。
「・・・おはようございますリーナ?」
「クス。 今は『こんにちは』よ。 で? もう調子はいいの?」
? 何のことだろう。 私はただ眠っていただけなのだから調子は関係ないと思うが・・・?
「・・・マリったら一週間も寝てたのよ? 大分疲れていたのかしら?」
「・・・マジですか・・・。」
まさかあんな夢の為に一週間も寝ていたとは・・・。 理不尽だ、訴えてやる。 何処かに。
「・・・まあいいわ。 大丈夫そうですし。 今からジンに貴方が起きた事を伝えてくるから、ゆっくりしててね? 直ぐ帰ってくるわ!」
そう言ってリーナは来た時と同じくらいの勢いで出て行った。
私はリーナが居なくなって静けさを取り戻した部屋でボウッとする。
直ぐに飽きたが。
することも無いのでしょうがなくカーテンを開き、外の様子を探る事にした。
活気に溢れ、大量の人々が行きかう市場を見た後、私は直ぐにカーテンを閉めて項垂れる。
「・・・私ってこれでも人見知りなんだよね・・・。」
あ、違うか。 人間見知りの方があってると思う。
と心の中で訂正してから大人しくリーナの帰りを待った。
正確には、『力』を使ってしょうもないトラップを仕掛けてから待った。
そのトラップは見事ジンが引っ掛かりましたとさ。
少しずつ書き方が変わっていっている様な・・・
気のせいですよねー(笑)