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11話 大切な何か

ジンことジルベルト視点です。。。









俺は忌み子だ。魔族と人間の間に生まれた汚らわしき存在。

魔族は体の何処か・・・髪や瞳、もしくは刺青に『黒』がある事が特徴的で、主に闇魔法を得意とする。

髪や瞳のどちらかが黒か、魔族の証である刺青があっては魔族だと人間から迫害を受けてしまう。

だからといって魔族は、同じ種族には敏感だからか混ざり者だと直ぐに気づき、追い出そうとする。

忌み子は『黒』を持って生まれる事が多いが、俺は運が良かったのか『黒』を持たずに生まれた。

人間は見た目だけで判断するから『黒』さえ持っていなければ忌み子だと気付かれずに済むのだ。


魔族は母親の方で、長い黒髪の美しいヒトだった。

人間である父親とお互いに一目惚れし一緒に隠れながら生きる事を選んだのだ。


だが人間は無情だった。


何処に行こうと受け入れようとせず、両親は俺が生まれてからも住処を探す旅ばかりだった。


俺が生まれてから一年くらいで父親が死んだ。

それは行き成りで唐突の、かなり辛い事だった。

父さんが人間だったおかげでマシだった人間達の俺達に対する態度・・・それは父さんが亡くなると同時に凄まじいものへと変わってしまったのだ。


母さんは人間に殺された。

森の奥でひっそりと暮らしている時の事、何時見つかってしまったのか、帰ってみると家は既に燃え尽きていた。魔族を悪魔だと、魔女だと言う人間の仕業という事は直ぐに検討がついた。

母さんの遺体は酷かった。

火傷の痕だけでなく、多くの打撲の痕・・・。

人間は母さんを嬲り殺したのだ。


人間は嫌いだ。


だが魔族の所へ行く事は出来ない。


嫌いな人間の世界で隠れながら生きるしか俺には道がないんだ。


人間への恨みを忘れず、何も知らないふりをして生きよう。

そう決意したのは10歳の時だった。




18歳になった。

俺は何時もの様にブラブラと森を彷徨いながら魔物を狩り、魔物から毛皮や角などを剥ぎ取り売りながら暮らしていた。


そんなある時、俺は叫び声を聞いた。


「キャアアアァァァァァ!!」


若い女の悲鳴だ。魔物にでも襲われたのだろうか。


俺は子供の時から訓練し続けた、魔力とはまた違う生命の力――『気』を目に集めて声のした辺りを見た。『気』は呪文なしで発動する事が出来る力だ。ただ出来るのは簡潔に言うと『肉体強化』のみだが。


強化した目で見たのは魔物から逃げる女だった。


「・・・人間か。」


そう呟き、関係ない、と俺は『気』を解除しようとして・・・止めた。


人間の女とは少しずれた方向に少女が居るのを見たからだ。

長い黒髪の少女――つまりは魔族の少女だ。

その少女は魔物が頻繁に出現するこの森では随分と不釣合いな格好をしていた。

身に纏っているのは簡単な作りの黒いワンピースのみ。

しかも何か普通とは違う特別な『気』を感じる。

隠している様だが、魔力も只ならぬ量の様だ。

そしてその逸脱した『美』。


ただ者ではない事は一目瞭然だった。


人間を助けるくらいならあいつを助けよう。


そう思って俺は少女に襲い掛かろうとしている魔物――人食いの汚れた植物『ダーティープラント』に狙いを定めて矢を放った。


少女は大して驚きもせず、俺に自己紹介をしてきた。


その面白くない反応に俺は多少がっかりとしてわざと嘘を吐いた。


「俺は『ジン』。何でも屋をやっている20歳だ。」


ほんとは18歳だけど。しかも『ジン』って誰だよ。


少女――マリはニコリと微笑んでその言葉を受け止めた。


(・・・何だ気付かなかったのか。 こいつが『特別』なんて思ったのは俺の思い違いか・・・。)


俺は少なからずショックを受けた。

何かを・・・面白い事を期待していたぶんショックは大きいのだ。


そこでマリが何かを呟き、その言葉が俺の気持ちを昂らせた。


「・・・人間か・・・・。」


「ん? 何か言ったか?」


俺はばっちり聞いた言葉を聞かなかったように装う。

少女は「何でもありません。」と言って話を逸らしたが俺の頭はその言葉で一杯だった。

少女は人間の女に気付きながらも笑って流した。それはつまり、まだ子供の様だが、この少女は見事なまでの冷徹な心を持っているのだという事。


この少女は間違いなく普通じゃない(・・・・・・)

この少女はきっと俺を面白い所へと連れて行ってくれるに違いない!!


そう確信した俺は、今度は少女の観察に移った。


正体を知る為に・・・。







「・・・何処かで見た炎・・・懐かしい感じの・・・蒼い炎・・・蒼い?」


え?


「・・・そういえば確かに何処かで・・・んー・・・。」


ま、待て。


俺は目の前に倒れているホーンベアから意識を変え、少女へと向ける。


お前はあの蒼い炎を知っているのか?


あの謎の炎を! あの(・・)命をも死滅し尽す炎を!


「お、おい! お前、あの炎の事知っているのか!?」


気付けば勢いよく問いただしていた。


少女は呆然としていたが時期に、何かを思い出したように身に纏っていた雰囲気を変えた。


「あれは・・・彼と同じ炎(・・・・・)だ。」


彼? 誰だそれは。


少女はそう言ってから急に話し方を変えた・・・というよりも戻した様だ。

物凄く上から目線の話し方だが、これがこの少女の元の話し方だと軽く納得する。






そしてその後、少女は俺を魔族だと断言しただけでなく、ご丁寧に魔族の説明までしてくれやがりました。


ああ・・・むかつくなこいつ。


「・・・やはりお前は魔族か・・・。」


「まぁ・・・魔族ではあるな。うん。」


歯切れの悪い言い方に少しからず不信感を抱くが、今はそんな事どうでもいい。


この微妙な空気を何とかしなければ。



「・・・そういえばお前・・・俺の炎を不完全だと言ったな。完全な炎はどんなものなんだ?」


興味があり過ぎたので聞く事にした。


「ん? ああ・・・君のよりも数倍綺麗で、数倍純度が高くて、数倍の大きさだ。」


・・・聞かなければ良かった。


こいつ雄弁に罵倒し過ぎじゃないか?


自分の炎を『未完成』だとか言われて落ち込まない奴はいないぞ。まったく。


そんな事を思いつつも俺は密かに気を許していることに気付いてハッとする。


・・・俺は誰にも気を許さない事にしているのに・・・。


苦笑しながらも俺は少女の案内に努めた。







「君は『混沌』を望んでいる。」



少女はそう言って俺の心の内側へと入り込んできた。


少女の口は止まらない。


俺は混沌を、世界の破滅を待っているのだと少女は語る。



「ねぇ、私が違う世界を見せてあげるよ。

今のこんな醜い世界とは違う、綺麗で美しい世界を。

だから一緒に来ないか?

この世界を変える『力』を手に入れる私の旅に。

この世界を見て回る私の旅に。」



違う世界を・・・?


俺の望んだ『混沌』と『新しい世界』を見せてくれると言うのか、こいつは?


「・・・結論を急ぐ必要はない。

だが考えておいてくれよ。

私と共に来れば違う世界を見ることが出来る。

旅の途中で強くなる事も、大切な何かを手に入れる事も・・・。

その代わり、君は捨てないといけないものもあるんだ。

それに、私が君の思いを遂げる事が出来ない可能性もある。」


「・・・」


こいつはどうしてここまで(・・・・)知っている?


何故そんな俺を見透かしたような目で見るんだ。


どうしてお前は俺を求める(・・・・・)




「・・・ではな『ジルベルト』。」


「っ!?」


こいつは一体()なんだ!?俺の名乗った名前を嘘だと気付くだけでなく、一度も口に出していない俺の名前を言い当てた。

それほどまでにこいつは俺を見透かしているのか?



「俺は・・・。」
















あいつが()なのか分からない。


それでも俺はあいつの全てが頭に焼き付いて離れない。


あいつは俺に世界を見せてくれると言った。


俺の望む『混沌』も・・・。


そして大切な何かを手に入れる事も出来ると言った。今、十分大切なものはあるが、それ以上の何かを見つけることが出来るかも知れない。


あいつは俺に一緒に来ないかと聞いた。


命令口調の様だがその声には優しさがあり、温もりがあった。そして『悲しさ』も。


あいつは心の中で『付いて来て欲しい』と願っていたのだろう。


なら俺は――




「付いて行ってやるよ。」



「・・・ありがとう。」



お前が寂しく思わないように、ずっとな。



俺の望んだ『大切な何か』はもうこの時から見つかっていたのだ。


















ジルベルトは世話好きキャラですかね?



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