出会いました6〜過去からの〜
私は遠い目をして相模さんの話を聞いている。
小学1年で精霊さんや魔術師ごっこをするのはまだ可愛げがある。
しかし、手の甲とはいえ接吻するとはアホすぎる。
目の前にいる男性は端整な顔立ちの所謂美男子だ。
成長過程とはいえ、幼い頃の彼にチューを強要する私を想像する。
立派な痴女ではないか・・・恐ろしい。
心の中で身もだえている私に気づかない彼は話を続けている。
「僕にとって初めて出来たトモダチ。お姫様は特別だったんだ。
でも僕は君を、裏切ってしまった。」
**********
図書室の入り口についた時、内側から派手な音と女の子たちの笑い声が聞こえた。
何だろうと思い扉を音がしないように少しだけ開け、中の様子を窺うと僕の”お姫様”が複数の子と対峙しているのがわかった。
ーみほちゃんは、本ばかり呼んでるから猫背だね。おばあちゃんみたい。
ー本をよんでいる時も、ぶつぶつ呟いているし気持ち悪ーい。
ー読書している間、顔もどんどん変わるし気色悪ーい。
ーだから、今から可愛くしてあげる〜。
親切心だと言わんばかりに、彼等は”お姫様”から本を奪い取り力任せに破いていく。
止めてっと言う声が室内に響くが室内には彼等と彼女だけ。
一人で複数を相手に出来る訳が無く、本は最後まで破かれてしまった。
僕の居る場所からは”お姫様”の顔はわからないが、彼女は手を握りしめている。
俺は、助けに入らなかった。
自身に向けられる彼等の仕打ちが怖くて、動く事が出来なかった。
ー読む物が無くなれば、呟かないし、変な顔にも変わらないね!
満足げに言った男の子が残骸になった本を彼女に押し付け、醜悪な笑顔を見せる。
ーイメチェンも手伝ってあげる!
どこから持ってきたのか、手には鋏が握られている。
複数名が押さえつけようと”お姫様”に近づくが、彼女は慌てて身を翻す。
でも、取り囲むモノから出られず”お姫様”は押し倒される。
男の子に前から馬乗りになられ、髪を強く引っ張られた彼女を周りの子達が嫌な笑顔で迎える。
じゃきっ!
肩下まであった黒髪が一気にショートになった瞬間、彼女は恐怖を露に叫び、暴れだす。
予想外に力が強かったのか、彼女が暴れた反動で馬乗りになっていた彼が体勢を崩した。
彼の握っていた鋏の刃が彼女の肌を傷つけ、血が流れるのが見えた。
『きゃあああああぁぁぁ!』
より一層、高い声が響き渡る。
俺はその場から駆け出していた。
その後、寂しそうに図書室にいる”お姫様”を俺は遠くから見ているだけだったが、両親の都合で引っ越しをすることになった。
結局、俺は”お姫様”とは一度も会わずに転校した。
**********
話を終え、言葉を切る王子は背後から負のオーラを出している。
幼い頃に出会った(らしい)相模さんと私。
どうやら、お互いに虐められっ子だったようだ。
私自身には虐められていた記憶はない。
だが、私に起こった事柄に彼は罪悪感を持っている。
多分、見捨てたとか助けられなかったとか思っているのかな。
そこまで整理して私は口を開く。
「相模さんがヘタレなのは、わかりました。」
思いのほか重い口調になってしまい、更に王子の顔色が暗くなっていくのを見て、慌てて言葉を追加する。
責めたい訳ではないという事をわかってもらわないとね。
「多人数を相手に飛び出すのは脳みその無い人のする事です。
怪我をしてしまったのは私と襲いかかってきた子たちの責任です。
決して、相模さんの所為じゃないんです。」
その場を目撃したとしても、仲良く犠牲になる事は無い。
逃げて良かったんだよ〜っと思えるのは、当時の記憶が無いせいかも知れない。
しかし、太ももの傷を制服の上からなぞっていたら
言ってはいけない本音が出てきてしまった。
「早く、助けを呼べば傷も付かなかったのかな。」
言った後に、はっとして顔を上げると彼の表情が瞬く間に歪んでいく。
そして、俯いてしまう。
っっうあぁ〜〜!
責めたい訳ではないのに、何気ない一言が彼を沈める要因になるのが嫌だ。
私は彼に向けて言葉を投げる。真っ直ぐに伝わるように。
「相模さん、貴方が気にすることは何一つないんです。」
彼は顔を上げて、私を見ると表情を緩め席を離れて私の隣に移動する。
訳が分からずに彼の動向を見守ると隣で深々(ふかぶか)と頭を下げられてしまった。
「・・・ありがとう。俺の優しい”お姫様”」
小声で囁く声が嬉しそうだ。
でも、私は早く礼を崩してほしくて必死になって隣に座るように促す。
彼は苦笑いで隣の席につく。
彼の瞳は明るさを取り戻したようで、綺麗な碧眼が私を見つめている。
直視されると恥ずかしいと考えて私は視線をそらす。
しばらく沈黙していると、彼が私に言った。
「じゃあ、改めてよろしく」
今の台詞に私は嫌な予感がしてゆっくりと後ろに身体を引こうとすると、素早く彼に二の腕を掴まれ捕獲されてしまった。
彼の思惑がわからずに表情を窺うと、目を細めて艶やかな笑みを浮かべている。
半強制的に王子とトモダチになった状況を思い出す。
この顔、獲物を狙うネコ科の目だ。
でも、あの時とは違い色気がある。
・・・ちょっと、怖いんですけど!何これ!
ぐるぐると回る思考の中、王子の手が私の手を片方ずつ握りしめる。
そこで思い当たるのは、先ほどの話だ。
「相模さん、この手はなんでしょうか。」
私の質問しに、当たり前のように答える王子。
「契約に決まってるでしょう。」
答えを聞いた私は反論しようとしたが、相模さんが遮るように喋りだす。
「俺は、”お姫様”のことをずっと忘れられなかったんですよ。
それなのに、”お姫様”と呼びかけたら避けられ怯えられ、
あげくの果てに俺の事を覚えていなかった。
最初はそれでも良いと思っていたけど、油断していると危ない目に遭ってるし・・・」
ちょっと、溜息は失礼じゃない
危ない目に遭ったのは、貴男の所為なんですけど!
ぎっと睨むと、それを受け止めた彼は真顔で恐ろしい事を言う。
「俺の”特別”を危ない目に遭わせた奴ら全員に、
裏から手を回して退学に追い込むのは苦労したんだよ?」
聞き間違いかなぁ。
そうであってほしいなぁ。
「君を守れる程に、体も頭も強くなった。だから俺の”お姫様”にもう一度なって。」
うわっ!
この眼は本気だ。危険だ。
私は彼に手を握られたまま考える。
この危険人物は今までの経験からして簡単には振り切れない。
じゃあ、どうするのが一番か・・・・制御を失った人格者ほど恐ろしい物はない。
だったら私が制御するしかないっぽい。
いやだ。
もの凄く嫌だ。
でも、それ以外に手は無いような気がする。
(さすがに、退学は駄目でしょう。)
私は彼の手を握り返して誓いの言葉を唱える。
それに破顔した彼は同じく誓いの言葉を唱える。
後は、お互いの手に唇を落とす。
私が素早く手短に済ませると彼は不満を隠しきれない様で、眉間に皺が寄る。
そして、予想外の行動を取る。
「はゎっ!」
彼の唇が離れたかと思うと、舐められた。
舐められたというか優しくゆっくりと愛おしむように・・・
いやぁ〜〜!
「相模さんの変態!」
「”お姫様”が素っ気ないからだよ。」
王子はしれっとした顔で唇を離し、手を解放する。
本気で危険人物だなこの男は・・・・と考えて、私はこの男を制御しないといけない事を思い出す。
まずは、ここからだ。
「相模さん、”お姫様”ではなく前と同じ様に呼んでください。”お姫様”は禁止です!」
「じゃあ、『みほちゃん』?」
何の躊躇もなく彼の口から出てきたのは幼い頃の私の愛称。
私はすかさず訂正を入れる。
「ちがいます!鈴村です!」
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