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出会いました5〜過去からの〜

まだ陽が落ちる時間ではないので、まだ室内は明るい。

しかし、図書室の片隅は雰囲気がとても暗かった。


学業の時間から解放された私と王子が無言で向かい合っているからだ。

王子の顔は酷く沈んでいて、ヒドいものだが

伝えておかないとこれからの話で差し支えが出るとみ事を申告する。


「最初に謝っときます。私、相模さがみさんの事は覚えていません。」

その言葉に反応するように彼は、寂しそうに応える。

「うん、そうだろうと思ってた。」

申告がすんなりと受理されたので、私は驚いたが今までの彼の言動を考えると

”覚えていない”ことは想定済みだったのだろう。


「えっと、話の続きをしてもらえますか。」

私が覚えていない記憶。

彼にはしっかりと残っている記憶。

気になってしょうがないのだ。


長く息を吐き、彼は姿勢を正して喋り始める。


「・・・僕は、皆に嫌われていた。

 この容姿の所為もあるけど、大きな原因は僕の知能的成長が遅れていて喋らなかったから。

 目立つ存在なのに喋らない僕が気味悪かったんだと思う。

 幼稚園の年長組に上がった頃から悪戯(いたずら)をされるようになった。

 小学校にあがると陰湿な悪戯いたずらになっていった。」


私は話を聞くうちに、顔が険しくなっていく。


小学校1年の悪戯いたずらにしてはレベルが高いからだ。

提出したノートが黒く塗りつぶされて返ってきたり、教室の清掃を全て任された後に汚されたり。

大人には気づかないように、うまく誤摩化ごまかせる範囲の出来事だ。

彼は、放課後になると更なるいじめをおそれて走って帰宅していたそうだ。

頷きながら私は聞き入る。


「いつものように早く帰ろうと思って、靴がない事に気づいた。」


靴がなければ、上履きで返るしかない。苛められていることがバレてしまう。靴をなくした事を両親に怒られるのも怖い。大人に報告されたと思われて更に虐められるのも怖い・・と独り言のように語る。

うん、子供ながらに悪循環にらわれていた彼に同情しそうだ。


「でも僕は学校の中を探し始めて、見つけたんだ。」


彼の遠くを見ていた瞳が私に向く。


「僕の靴を大事そうに抱えている女の子を」




**********



『あの・・・それ、・・』

大事そうに靴を抱える女の子に僕は怖々と声をかける。

靴を盗ったのが、この女の子かもしれないからだ。

彼女は僕が声をかけたのも気づいていないようで、振り返らない。

しかし、返してもらわない事には帰宅出来ない僕は出来るだけ大きな声を出す。


『っそれは、僕の靴です。』


少しだけ責めるような言い方になってしまったが、今度はちゃんと声が届いたようで

女の子が振り返る。


前髪を眉上で切りそろえ、肩下まで伸びた黒髪がゆれ、

ほんのりと色づいた頬が彼女の肌が白いことを強調する。

人形みたいに可愛い。


『人間?・・・・これ、君のなの?』

少女の疑問に頷くと、落胆したように肩を落とす。

『むぅ〜人間か。・・・はい、返すね。』

少し唇を尖らせると、すぐに笑顔になり僕に靴を渡してくれた。


この感じからすると、盗ったのは彼女ではないようだ。

ほっとした反面

なぜ彼女が持っていたのか気になったので質問してみる。

すると、不思議な答えが返ってきた。


『精霊さんを捕まえる呪文をとなえたら、靴が現れたの!』

興奮気味の彼女に圧倒されながら僕は話の整理をする。


図書室で”ひとり”魔術師ごっこをしていたら、呪文とともにドンっという音がした。

驚いた彼女は、音のしたガラス窓をみやる。

そして、今の呪文が成功したのかと思い喜々として向かった先に”現代の靴”を見つけたのだ。

あたりを見回しても誰も居ないので、きっと精霊さんの落とし物だ!と思い大事に抱えて持って帰ろうとしていた・・・ということだ。

彼女の仕業ではないのに、責めるような言い方をしてしまったことに罪悪感を抱く。


『勝手にもって帰ろうとして、ごめんなさい。』

『大きな声だしてごめんなさい。』


ふたり同時に謝罪してお辞儀したものだから頭がぶつかり、しゃがみ込む。


『『・・・・・ふっくく。』』


お互いに視線があった瞬間にわらいだす。

どうやら彼女も、不可抗力ではあるが他人ひとの物を”盗ってしまった”という罪悪感があったようで緊張していたようだ。

笑い合って、僕らは友だちになった。

そして、初めてのトモダチが出来た僕は放課後になると図書室に通う。


図書室で読書をする彼女に付き合い、感想を聞き、共感する。

そんな毎日を送る中気になったのは、彼女がつねひとりだということだ。

人より妄想癖が強い意外は、良い子なのに僕以外のトモダチと遊んでいるのを見た事がない。

もしかして、僕の所為せいで友だちが居なくなっているとかじゃないよね?

・・・。


『みほちゃん、僕と遊んでて楽しい?他の友だちとも遊びたいんじゃない?』


『さと君と一緒は楽しいよ。あとね、ず〜っと一緒でも楽しいはず!』

きょとんとした表情で返答された。

彼女は何事も無かったかのように読書に戻っている。


僕は今までに言われた事のない言葉に、顔が真っ赤になるのがわかった。

それから数分もしないうちに、彼女は笑顔で顔を上げた。


『さと君。ケイヤクしよう!』

『ケイヤク?』

『うん、みほもさと君が”(さみ)寂しくない”ように約束事をするの!

 ここにも載ってるよ!』


彼女が指した先には、お姫様と騎士がお互いに信頼しあっている・想い合っている証として、お互いの指先に唇を落としていた。

僕は恥ずかしくなり後ずさる。

どうやら、心の絆を深める儀式のようだけど・・・・ちらりと隣の彼女をみる。

彼女は乗り気のようで、すでに手を差し出していた。


『みほちゃん、本当にするの。』

恥ずかしさのあまり涙声になっている僕に、彼女はキラキラ期待した瞳を向けてきたので、観念する。

本に描かれている通りに動作する。


『『”すべてを貴方あなたへ”』』

みほちゃんは僕の手を、僕はみほちゃんの手を取って短い呪文を唱えてから手の甲へ唇をつける。

そして、彼女の提案で僕は”騎士様”となり彼女は”お姫様”という役割を得たのだ。

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