出会いました2
逃げ回った結果、(半強制的に)トモダチになった相模さんは
男女ともに人気がある事を知った。
「頼む、バスケの助っ人お願いできないか!」
上級生であろう男子生徒から依頼があったり
「来週から調理部での試食会あるので先輩も来ませんか〜?」
下級生から試食をお願いされたりと、目の前の人物は色々な人から声をかけられている。
(命名)王子はその全てを理由を付けて柔らかく断っていく。
が、女子生徒は王子目当てのお誘いだ、簡単には引き下がらない。
「相模先輩、放課後の1時間だけでも良いんです。」
「ごめんね。僕もやりたい事があるから。」
「でもっ」
「ごめんね。」
しかし、謝罪の言葉で圧力をかけて遮ってしまう王子。
彼と知り合って1週間が経過している。
放課後の図書室で向き合う形で座って読書をするのが日常化しだしているが
優しく威圧的に断りを入れる風景も見慣れてきた。
そして、もう話は無いという雰囲気を捉えて女生徒は立ち去る。
一瞬・・・睨まれたのは気のせいだろうか。
「読書中に騒がしくなってごめんね。」
女生徒が完全に退室したのを確認して彼が申し訳なさそうに顔を顰め、
少しくすんだ青い瞳が長いまつげで隠れてしまう。
「明日からは、こういう事は無いようにするから。」
その言葉を直訳すると”明日からも放課後に図書室で会う”
ということに気づくが、逃げても無駄という事は実証済みなので頷く。
「そうして下さい。」
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ファンタジー小説で一番好きな所は、お姫様がピンチの時に英雄が登場する場面だ。
「あんたみたいな地味女、ただの遊びに決まってる!」
「相模先輩を独り占めするのは許せない!」
「ていうか、気持ち悪いし邪魔だし!」
図書室に向かう途中の出来事だ。
あまり使用されていない様子の資料準備室に連れ込まれ、数分前から罵倒されている。
女生徒三名。
顔を見ると昨日みかけた調理部がいたので、下級生だと断定できる。
睨まれたのは気のせいでは無かったようだ。
鈴村美穂ただいま人生初のピンチに陥っております。
落ち着け自分と言い聞かせ、どうしたら良いのか頭を回転させる。
この娘たちは王子に好かれたいんだよね。
じゃあ、私に突っかかるのではなく彼にアピールした方が効率的でしょう。
なぜ私に抗議しにきたのか、わからない。
「私にあたる時間があれば、相模さんに会いに行けば良いのに。」
思わず発した言葉だ。
次の瞬間、突き飛ばされて体が後ろに倒れる事に恐怖を感じる。
幸いにも体に傷ができるような障害物が倒れ込んだ先にはなかったので、
変な怪我もせず、体を打ち付けただけですんだ。
頭を打たなくて良かったと安心したのも束の間。
「しばらく、ここに居なよ。」
リーダーらしき女生徒の呟きに顔を上げると、教室の扉が閉まる。
まさか!
私は慌てて扉を開けようとドアノブに手をかけるが、遅かった。
鍵が掛かっている。
そして遠くに走り去る彼女達の足音。
「閉じ込められた・・・・。」
扉はひとつ、外鍵が掛かっていて内側からはあけられない。
窓はあるが私の体が通るような幅ではない。
万が一出れたとしても3階なので死んじゃうかもしれない。
自力では出れない。
焦りながらも他に部屋から出る方法を探す。
天井の蛍光灯が目に入る。
そして扉の横にはスイッチ。
そっと押してみると、明かりがつく。
・・・・夜になって、警備員が見つけてくれるまでの辛抱だな。
結論が出て、冷静になった私はいそいそと本を取り出す。
部屋の奥には使われなくなったソファが何個か置かれているので腰掛ける。
暗くなっても明かりは確保できているし、警備員の巡回も何時間か後だろう。
背表紙のざらっとした独特の感覚を楽しむように、撫でる。
「ふふふ。」
一人の空間で読書が出来るのが嬉しくて笑いが出てくる。
先客が居ると知るまでは・・・
「ねぇ、何がおかしいの。」
背後から声をかけられて、驚きのあまり背筋が伸び変な叫び声を上げてしまう。
「ひぁっ!」
「ふぅん。可愛い声。」
声の主を見るために振り返ると、気怠げに少年が真後ろで寛いでいた。
人が居るとは思っていなかったので私は驚きで動けずに居る。
すると、少年が手を伸ばし私の制服を引っ張る。
予想していない行動に体が反応しきれず彼に寄りかかる体勢になってしまった。
「温かい。」
耳元に低い声で囁かれて緩く抱きしめてくる。
呆然としているとゆっくりと首筋に顔が息が・・・うわ!!!!
「気持ちわるっ」
自分の置かれている状況を把握した途端に背筋に悪寒が走り、思い切り叫ぶ。
腕の中から逃れようともがくが微動だにしない。
「うわぁ、傷つくぅ」
見知らぬ少年は棒読みのままゆっくりと体を離した。
どうやら解放してくれるようだ。
私は急いで体を離そうとしたが、腕をつかまれ距離を取る事に失敗する。
「そんなに慌てなくても、まだ何もしてないのに。」
何もしなくていいです!
「ねぇ、前髪邪魔じゃないの?」
彼が私の顔を覆う前髪をわけようと手を伸ばしてくる。
仰け反るように避けると鍵が掛かっていたはずの扉が勢いよく開くのが見えた。
そして、扉を開けた人物が私たちを視界に捉えると眼を細める。
「・・・その手、どけてもらえないかな。」
躊躇する事無く私を少年から引きはがす王子。
ここに閉じ込められた原因は彼の所為だという事は忘れていないが、
見知らぬ少年から私を救い出す相模さんが救世主に見える。
なんだか、話の収集がつかなくなってきた・・・?
最後まで書ききるのを目標にがんばります!