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出会いました1

三時限目が終わると唐突に質問された。


「その後は何もなし?」

眉間にシワを寄せて迫ってくる親友に、私は上機嫌に頷いている。


あの『お友達』や『また明日ね』発言から3日が過ぎた。

私は”放課後”ではなく”休み時間”を利用して図書室に行っていた。

なので王子に会う事なく、いつもの日常生活だ。

少し違うのは、帰宅時間が早くなったことくらいだが


「静かに読書ができて満足」


嬉しい声で宣言をすると彼女は短く舌打ちをする。

「ちっ!絶対に面白い事になると思ったのに」

「純ちゃん・・・」


私は苦笑しながら目の前の親友をみやる。

これといった特徴はなく、少し低い鼻に少し小さな唇。

切れ長な一重まぶたは冷たい感じはしないが、優しい印象も受けない。

岩里純(イワサトジュン)。平均的な日本人顔だ。


ただひとつ印象に残るとしたら、彼女が腹黒い一面があると言う事。


「だって、楽しい事には心が躍るでしょう」

真顔で語る顔に『楽しみの餌になれ』と書いてあるのが見える。

ので出来るだけ重く一言。


「純ちゃん、一緒に踊らせてあげようか」

彼女の眉がぴくりと動く。

更に言葉を続ける。

「渡辺先輩と昨日の夜、こ」


途中で台詞が途切れたのは彼女が私の口を塞いだからだ。


「・・・」

「・・・・」


無言でお互いに圧力をかける。

先に動いたのは彼女だ。

「不毛な戦いはナシ!ってことで、どうでしょうか」

私は口を塞いでいる彼女の手をどかして「異議なし」と答えた。

たわいもない話をしていると10分の休憩時間が終わる。


変化のない日常は大好きだ。

次は数学かぁ。


このとき、一時間後には非日常になるとは知らずに私は安穏としていた。




「じゃあ、明日は46ページからだ〜。予習してくるように〜」

終了1分前。

数学教師の間延びした声を聞きながら、ノートを閉じて教科書ごと机にしまう。

この先生授業は、あまり人気がない。

黒板にビッチリと数式を書き込むからだ。

今は5月だが、2年生になって買った数学のノートは1冊を終え、2冊目に突入していた。

周りを見渡すとまだ写生し終えてない生徒が沢山いた。

皆の頭の上に焦った様子で『お昼休み!』の文字が見えてくる。


学校には大きな駐車場が完備されていて、お昼時間になると弁当屋が立ち並ぶ。

弁当を持ってきていない者が敷地外に出てサボらないようにするためだ。

チャイムが鳴ったら走って弁当を買いに行く者は多い。


勉学の時間に敷地外に出ようとすると、警備員が止めてくる。

この時点で外のコンビニには行けない。

(ちなみに強行突破しようとした生徒は学生証を提示させられ、

担任である教師がついてくる。

もちろん担任は不機嫌極まる。昼食時間を削がれるのだから。)


という訳で、うちの学校では「食べて、遊ぶ!」という健全な昼食時間が主流だ。

「じゃあ、今日はここまで〜。」

先生が言うのと同時にチャイムが鳴り、お弁当という宝を巡る戦いが始まった。


「熱いですな。」

純ちゃんが感心したようにパチパチと拍手を送る。

「そうだねぇ、がんばれ〜〜〜」

私は猛ダッシュで宝を追い求める勇者達に声援を送る。

私と純ちゃんは、毎日お弁当を持ってきているので不参加だ。


「では、いただきますか」

鞄の中のお弁当を取り出そうと前のめりの体制になる。

「鈴村さん」

何だか聞き覚えのある声が・・・とりあえず、お弁当とってからにしよう。

ゆっくりと鞄から目的物を取り出して私は顔を上げた瞬間に小さく悲鳴を上げる。

「ひっ!」


三日ぶりにみた王子は薄い笑みで私を見下ろしていた。

「久しぶり。図書室に行っても会えないから来たんだけど?」

ブリザード魔法でも使っているのではないかと思うくらい空気が冷えていく。


まっ負けるものか。

「そうですか、でも貴男に会う約束をした記憶はありませんよ。」

声が震えないようにゆっくりと喋る。


「でも僕『また明日』って伝えたよね。」


伝えてきたけどそれが何ですか。

「私は図書室に行くとだけ約束しましたよね。」


ぴりぴりとした口調でそう告げると彼は目を細める。

ネコが獲物を捕らえる時と一緒の雰囲気だ。

怖い!何!?


「『また明日も会うのか』て言ってたよね。」


冷や汗が背中を流れる。

「聞こえて・・・」

あの距離で良く聞こえましたね。

どんな聴覚してるんですか貴男。


「だから会ってくれると思い込んで、放課後の図書館で待ってたんだけどね。

まさか、休憩時間に通ってるなんて・・・ねぇ」


最後は問いかけるように視線を向けてくる。


うぅ〜、私は手詰まりとなり謝罪する。

「スミマセンネ」

心が籠ってないのがせめてもの反抗だ。

「うん、じゃあ宜しく。」

「えっ?何を?」

私は意味がわからないという顔をする。

前髪でわからないと思うが・・・

戸惑っているのは声で把握できたようで彼が当たり前のように告げる。


「喧嘩して、仲直りもしたし。

友人になってくれるでしょう。」


それは遠慮したい。

と言いそうになったが会話を聞いていたのであろう生徒の視線が

集まっている事に気がついた。


特に女子の視線が刺さる・・・・

「王子を待ちぼうけさせた上に断るつもりじゃないでしょうね」

という声が聞こえてきそうだ。


純ちゃんは、ニヤニヤしながら傍観を決め込んでいるし・・・

考えるの、面倒くさい。


そう判断した私は溜息を飲み込んで「よろしく」と答えたのだ。




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