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染まりますか3

今までの行動から相模さんが「ホームルームが始まるまで一緒」と言い出したらどうしようかと思ったがそんな私の予想を裏切り彼はあっさりと私の隣を離れて自分の教室へと向かっていった。

彼の背中を見ながらホッとした反面で少し寂しいと感じたのは気のせいだと思いたい。


気持ちを切り替えて、放課後までに相模さがみさんへの対策を考えることにしよう。


そう思い身体を反転させると、いつから居たのかと思わせる距離に親友が立っていた。

ぶつかりそうになった瞬間に彼女は器用にバックステップを踏み私から遠ざかる。


運動が出来ない私と違って、彼女は運動神経が良い。

理由を聞けば幼馴染みの渡辺先輩の家が剣道場を営んでいて小さい頃から同じ環境で可愛がられた、いやしごかれたという。


ともかく、運動音痴な私は小柄で華奢な彼女からは想像できない動きに感嘆の声を抑える事ができずに呟いた。

「すごい。猫みたい」


すると彼女は何とも言えない微妙な表情をしたが、すぐに口角を上げた。

その変化に私は嫌な予感を覚え、挨拶をしつつ自分の席を目指す。

歩き出すと私の後ろをピタリとくっつくように純ちゃんは移動する。


授業時間にお世話になっている席に着くと、慣れたように親友も私の前の席に座る。

一番後ろの日当りの良い二席が私と彼女の定位置だ。

くるりと彼女の身体が反転して、私と向き合う形になる。口角は上がったままだ。


「おはよう、美穂みほ。今日は王子と一緒に登校ですかぁ〜ほほぅ〜」

親友の楽しそうな口調に私はすかさず事実を提供する。

「偶然、一緒になっただけだよ。だから何も面白い話題はないから」

私がきっぱりと言い切った事で彼女は残念そうに不満の声を漏らしたが断固として何も喋る気がない私の気配を察したのか、それ以上は何も聞いて来なかった。


親友の不躾の視線を無視しながら、時間が過ぎていく。


しかし時間が経過するという事は放課後が近づくというわけだ。

恐怖の王子様が、朝と変わらない爽やかな笑顔を引っさげて出現する確率は100%だ。


彼への対策が思いつかない私は防御率は皆無なので、一戦交えると敗戦すること確実な魔の時間がくること間違いなしだ。

と言って、私の中に”図書館に行かない”という選択肢はないんだな〜・・・・。

穏やかに過ごせる筈の図書室ばしょへ、すでに4日以上は通っていない。

それに活字が恋しくなり始めている。


最終手段として親友を連行していこうとしたが、彼女は別に用事があるようでホームルームが終わると足早に去っていった。

周りはすでに部活や帰宅するための行動に移っている。


そして、視界の隅に移った彼を確認した私は萎えそうになる気持ちを叱咤する。

気合いをいれガッツポーズを取りながら私は席を立つ。

「よしっ逝こう!」

気持ちは負けると分かっている戦場へ赴く兵士の気分だ。

一歩、教室を出ると笑顔の恐い王子が立っていた。

「お供しますよ?鈴村さん」

胡散臭うさんくさくて涙が出そうだ。

不思議だ。

不思議すぎる。

この人なら女の子を選びたい放題できるのに、何故に私なのか。


「図書館で待っていても、鈴村さんが来るか不安でね。迎えにきたよ」

心を読んだような事を言う相模さん。

「・・・・・・ご苦労様です」

敵前逃亡させないために死刑宣告しにきたよ?という事ですか。

苦々しく、反発したい言葉を飲み込む。


気持ちを落ち着かせて目的の図書館ばしょを目指す。

同時に彼も私の歩幅に合わせて動き出す。

仲良しのごとくピッタリと動き出す。

この距離感おかしくないですか?


「相模さん、離れ「駄目」

「・・・・離れ「却下」

「・・・離れ「嫌」


私の要望を遮るように発言を重ねていく相模さがみさん。

駄目、却下、嫌ですか。

私の言い分を聞かないとわかる。

素晴らしく良い笑顔で言っているのが凄く腹立たしいけど。

そして、そんな事を考えている間にも距離は縮まり恋人の様に寄り添ってしまった。


油断させる甘い表情、甘い声に優しい瞳。

口調も柔らかく、人当たりも良い。

幼い頃と変わらない天使みたいな顔。

でも私は知っている。ここ数ヶ月の付き合いで知っている。

どんなに優しく見えても目が笑っていなかったり、腹黒い面があったりすることを。


「相模さん、強引になりましたね」

私のやりたい事に付き合わされても何も言わない優しい子だったのに、意地悪な男性ひとに育ちましたね。

随分ずいぶんと昔とは違うもんだ。と恨めしげに睨む。

すると私のにらみが効いたのか王子の動きが少しだけ遅くなった。

しかし、それもほんの数秒のことで、彼が私の腕を掴みささやく。

「うん・・・・・でもね、僕が強引にしてるのは君だけ」


私は彼が腕を掴んだ事で、前に進めなくなり立ち止まり顔を上げる。

彼の爽やかな笑顔はなく、真剣で泣きそうな表情をしている。

そんな彼に、どうしようもなく立ちすくんでいる私をどう思ったのか。

彼はいつもの笑顔を無理に貼付はりつけたようないびつな笑顔で力なく呟いた。

「美穂ちゃんだけなんだ、こんな俺を作っているのは」


思わず視線を外し、私は”そうですか”と覇気のない返事をした。


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