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染まりますか2

明日のお昼の仕込みも済んで料理用具を洗っているとお風呂場から兄が出てくる音がした。

すでに夕飯は準備できているので、すぐに食べるのであればと思い少しだけ大きな声を出す。

「にいさ〜ん!ご飯で来てるから食べていいですよ〜!」


私の言葉に返事は無かったが、小走りな足音が近づいてきたので声は届いたようだ。

足音は料理が並べられた付近でとまったので、私は洗い物をしながら言葉を継ぎ足す。


「冷蔵庫に麦茶が入ってるから自分で入れてくださいね」

言葉を言い終わると同時に、洗い物を終えた私は手をぬぐうためにタオルに手を伸ばす。

するとタオルに手が触れた瞬間に、頭の上が重くなったので驚いて硬直してしまった。

硬直している私に気がつかないのか、手は髪を梳くように頭を撫でる。


「美穂も飲むなら、一緒に淹れましょうか」


首だけ振り向くと斜め後ろの直近に浴衣姿の兄が立っていた。

何故に浴衣姿なのか疑問に思うが・・・・・

「急に触れないでください。驚きましたよ!」

私は睨みながら注意をすると撫でていた手は止まり、兄は難しい顔をしながら私に尋ねた。


「スキンシップを取ろうかと思ったのですが、美穂は照れ屋さん?

あぁ、スキンシップする時に許可を取れば良いのでしょうか?」

尋ねるというよりは一人で自問自答しているようだ。

私が何かを言おうとする前に答えは出たようで、兄は「ふっ」と一息入れたかと思うと真剣な表情で甘い台詞を吐いた。

「凄くでたいので、れても良いでしょうか」

お風呂上がりなので、身体が全体的に赤みを帯びている目の前の男性。

兄妹でこの状況はなんでしょうか。


この場面だけ見れば口説かれている様にみえだろう。

「すでにさわってますし、でてますが?」

私が無表情に言うと兄は真剣そのものに私を見て言った。

「一応、許可も得ておこうかと」

”一応”という事は断っても撫でる気満々だということじゃないか。


兄に呆れた私は溜息をつく。

すると兄はそれを拒絶と取ったのだろう。

明らかに沈んだ表情になり渋々と私から手を離した。


構ってもらえない大型犬のようだ。

そう思いながら兄を見つめていると、何かを期待したのか見つめ返された。

寂しそうな表情で・・・・・私の目には耳と尻尾が垂れたように映る。

その姿に負けてはいけない!とは何処かで感じたものの、つい言ってしまった。

今日を含めて3日間は兄という存在と同じ空間で過ごす事を忘れて、つい言ってしまったのだ.

「・・・・・・触るなとは言ってません」




二日間の休日が明けて、新しい週のはじまり。

月曜日。


私はかつてない程の嬉しさで家を出た。

理由は兄の”スキンシップ”を逃れる事ができるからだ。

あの発言から兄は私を触りまくっていた。

それこそ頭を撫でたり抱きしめたりという軽いものだが、その軽い動作を飽きもせずに四六時中に何回も何回も何回も・・・・・・・・。


「私は人形じゃない!」とキレたら、それすらも「そうですね。よしよし」と言って頭を撫でられた。

そこでようやく私は気がついた。

どうやら兄は、私をとても大事なツンデレな妹というフィルターを通して見ているようだ。

大事なのはツンデレな妹。

そうツンデレだ。

その所為で私と兄は会話が通じない。

通じているけど、通じてない。

思い至って私は諦め、自分に言い聞かせる事にした。


兄に撫でられるのは嫌いではない。

むしろ、鈴村の男性陣が愛情表現として頭を撫でる癖があるのは身に染みている。

だから慣れている・・・・・・慣れているんだ。

自分に言い聞かせながら、休日の後半は屍のようにされるがままの状態で過ごした。


そして今日は月曜日。

私が起きた頃には兄の姿はなく、またしても置き手紙。

兄の手紙の内容は、用事があり今日の帰りは20時を過ぎる事と夕飯はいらないとい事だった。

文章を読んでいる最中の私が満面の笑みだったのは仕方がない事だと思う。


少しだけ浮かれた気分で私の足は学校へと向かう。

が、私の脳みそが忘れやすい鶏頭とりあたまなのではないかと自己嫌悪する瞬間がやってきた。


通学路の途中。

前方方向に爽やか過ぎる笑顔を貼付けた彼が現れた。

そして彼の青い瞳が私を捉えるなり細められる。

「おはよう、鈴村さん」

浮かれていた気分も吹き飛び、歩調も遅くなる私に彼は面白そうに笑う。

「どうしたの?足取りが急に重くなったけど、大丈夫?」

そう、そこには笑顔なのに瞳が笑っていない相模さがみさんがいた。

一歩を進みだせば距離が近づき、最終的には並んで歩く形になったので挨拶を返す。

「おはようございます。相模さん」


先週のこともあり、何か言われるかと思えばしばらく沈黙が続く。

ちらりと表情を伺ってみれば、胡散臭い笑顔を向けられた。

何を考えているのかわからないのが恐くなり、私は教室に向かう事に全力を傾ける事にした。

黙々と歩く私と、その隣を歩く王子の姿は周りの生徒達にどんな風に映っているのだろう。

出来るだけ離れて歩いて欲しいのに彼は沈黙したまま側を歩いている。


くっ!

休日は兄のことで手一杯になって対処法を考えるのを忘れていたのが痛い!


「・・・・さと君って、もう呼ばないのかな。美穂ちゃん」


隣から急に話しかけられて思考が中断する。

ち、ちょっ直球でくるとは思わなかったので無言で返してしまった。

どんな顔でそんな質問をしているのかと彼を見てみれば、何でもないといった表情でこちらを見ていた。

私も驚いている心を隠そうと、何を言っているのかわからないという感じで見つめ返す。

すると彼は喉の奥で笑い、私をからかってきた。

「動揺してるの?」

「なっしてません。」

焦って笑顔の彼を睨み返すと、更に双眸そうぼうを細めた彼は低い声で唱えた。

「美穂ちゃんの嘘つき」

何も言えずに私は黙り込む。


結局、私は教室に着くまで沈黙を貫き通した。



そろそろ相模の猫が剥がれる予定。ん?すでに剥がれてる・・・・?

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