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染まりますか

大きく揺れた瞳の中には私の姿が、しっかりと捉えられている。


幼い記憶。

肌は白く、さらさらの金の髪と青く輝く大きな瞳で、

いつも顔を隠すように下を向き小さい体を隠すように縮めていた。

大きな怪我はなかったけれど、小さな傷をどこかしらにつけて、暗い顔をしていた男の子。

その沈んだ顔も私と一緒にいるときは、

天使みたいに妖精みたいに素敵な笑顔を見せてくれた。


男の子を、今の相模さがみさんを見る。

可愛いかった顔は成長して、端整のとれた優しげな顔になっていて女生徒から人気がある。

面倒見が良い事に加え、人当たりも良いので男子生徒からも好かれて、頼りにされている。

たまに見かけると、周りに人が集まり楽しそうにしている。

”静かな時間、少ない友人、騒がしいことが苦手な私”とは正反対に居る。


そう、正反対だ。

なぜ彼は自分の事を覚えていない私に構うのか、不思議でならない。

律儀にも子供の頃の”ごっこ遊び”の延長と言われれば納得・・・・しないな。

まさか、私の友好関係が薄弱過ぎて同情して声をかけたとかないよね。


その暗い思考に行きついた瞬間に思考が、ぼんやりとしていた頭が高速回転しだす。


さっき、思い出した記憶に気分が高揚した私は昔の呼び名を彼にかけてしまった。

急に馴れ馴れしくなった私を、どう思っただろう。

それだけじゃない。

今まで冷たくしていたのに、態度を急変させたら周囲の人はどう思うだろう。

優しくされて、舞い上がっている”勘違い女”ように映るかな、映るよね、嫌だな。

暗いことを考えてると、彼の唇が動きそうになったのでさえぎることにした。


私は、今の私の学園生活に満足しているんです。

崩されたくないんです。

だから相模さん、同情はありがた迷惑です。

私にあまり関わらないでください。

という思いを込めて喋る。


「まぁでも、相模・・さんのことは私には関係ないので、どちらでも良いですけどね」

「っ・・・・・・」

その言葉を受けると彼は動きかけた唇をきゅっと結んだ。

そして、沈黙して私をじっと見ている。


さっきの発言を無かった事にしようと私も彼を見返す。

ついでに心の中で念をこめて、更に叫ぶ。

 ーーあれは夢!夢です!

 ーー夢だと思ってください!相模さん!

 ーーそうしないと、私は勘違い女のレッテルを貼られてしまいます!

しかし私の念は届かなかった。

彼は沈黙したまま私を見続けている。

耐えきれなくなった私は、最大限に冷たくあしらう様に、言い放つことにする。


「それにしても私に用でも?

そうでなければ、邪魔です。早く自分の教室に行ったらどうですか。」

うん・・・・本当に冷たい言い方になってしまったので後悔する。

私は私の言い草に、あんまりだろう!と思いつつも彼の表情を伺った。


呆然としている様に見える。

なんか、気まずい。

今のは台詞、さすがに傷ついたかな。

少しだけ心配になり彼の瞳をじっと見つめる。

すると、予想外にも彼は目を細めて幼い頃の面影がある、最大級のキラキラ笑顔をみせた。


「わかりやすいなぁ。

姫、逃げられると思わないでね」


何?逃げる?どういう事?

確実に今のやりとりから導きだされる返答ではない事に混乱するが、

彼はそれ以上何も言わずに立ち去ったので良しとしよう。


あっでも、本当に用事ではなかったのか?

何だったんだろう。


ホームルームまで少しの間、幼い男の子の記憶を辿ってみる。

可愛い少年との思い出を、愛でる。

すると、遅刻ギリギリで登校してきた親友と目があった瞬間に言われた。

「どうしたの?気色悪いんですけど」

微妙に口角が上がっていたみたいで気味悪がられた。

でもね純ちゃん、”気色悪い”というのは、凄く私に失礼です。

結局その日の私は甦った情報を整理することを優先させ、

思い出し笑いをするたびに親友に奇異の目で見られた。




童話が並ぶ、放課後の図書室。

出会った、男の子。

仲良くなるまでに、さほど時間はかからなかった気がするなぁ。


『小人の靴屋』を読み終えたタイミングで出会った。

だから、小人さんと会いたいが故に

”ひとり魔術師”ごっこをしていたのだと思う・・・痛い子だ・・・。


彼と出会った時に私が妖精(=小人)さんだと誤解したのも、

天使とか妖精とかいっても良いくらい可愛かったので少しだけ

”そう”ではないかと疑っていたのも思い出した。

あと、精神的に打撃を受けたけど涙目の可愛い男の子にチューを迫る私も思い出した。

うぅ本気で、ここら辺は忘れていても良いのにっ。



時間が過ぎるのは早い。

学生の本分である授業をことごとく無視し、今は放課後だ。

放課後がきてしまった。

いつもなら喜々として図書室に向かうが、きっと居る。

彼が居る。


そして、私の心が訴える。

”駄目!今、彼に会えば赤面する!精神的にきつい!無理!死んじゃう!”

・・・・・・・よし。

帰ろう。

精神的ダメージを受けた私に、相模さがみさんのスマイルはきつ過ぎる。

心因性のショック死とか嫌過ぎる。

幸いなことに、明日は土曜日。

休日を挟めば何とか落ち着けるはずだ。


いまは、無理・・・・・・。

『小人の靴屋』・・・・グリム童話。小人が貧しい靴屋さんを救う。

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