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成長してます6

意識が浮上する。

窓に視線を向けると、カーテンの隙間からは

藍色の暗い色に少しだけ白が混ざった空が見える。

いつもは携帯のアラームで起きているが、目覚ましが鳴った気配はない。


空の感じから

夜は明けてないようだけど今は何時なのだろうか。

ごそごそと枕元を手探りし、携帯を手繰り寄せる。


画面をタッチすると、待ち受け画面が光る。

デジタルの光に目を細めつつ時間を確認すると

”AM5:00”

と表示されているのがわかり、再びまぶたを閉じる。


起きて学校へ行く準備をするにしても、

かなりの時間が余るので、後もうちょっとだけ寝ようと体勢を整える。

すると隣の部屋の扉が開くような音が聞こえ、

次に足音が部屋の前をとおり過ぎていくのに気づく。


夢の世界へと旅立とうとしていた意識を呼び戻し再び目を開けた私は

昨日の出来事を思い出しながら隣の部屋との壁を見つめる。


兄さん、もう起きてるのかな。


昨日、急に再会した兄が近くに居ると思うと少しだけ緊張してしまう。

兄と何を喋ればいいのかもわからないけどね!

寝台の上でゴロゴロと体を動かすこと約10分。

二度寝をあきらめて起きあがる。


とりあえず、水を飲みに台所へ向かう。

昨日は伯父もいたので、すんなりと会話していたが

二人きりで御対面となるとドキドキする。


手先が緊張で冷えてくるのがわかったが、台所にはドキドキの相手はいなかった。

そして、テーブル上の置手紙に気がつく。

”いってきます。 穂登ひでと


たった一言だけ。

綺麗な文字で書かれたその手紙に緊張が解かれて、手先に熱が戻る。

どうやら、寝台でゴロゴロしている間に出たらしい。


む、無駄に緊張してしまった。

朝から脱力しながらも手紙を読み返す。

「”いってきます。 穂登ひでと”」

うん・・・・家族っぽくて照れる。


それにしても、こんな早い時間から登校するなんて、

兄は部活でもやっているのだろうか。


考え事をして、すっかり目が覚めた私は

ベッドに戻るのもイヤなので、弁当をつくり、入浴を済ました。

ついでに軽く掃除をしていると、目覚ましのアラームが鳴り響く。


「6時半か・・・・」

準備は万端だし、今日は早めに学校に行こう。

私は家の戸締りを確認して、さっさと学校へと歩き出す。


いつもの通学路を歩きながら兄と会話せずに済んでホッとした反面

少しは話したかったな~・・・という複雑な感情を持て余していた私だが

考えてみれば帰宅したら嫌でも顔を合わすことに気づいたのは、誰も居ない教室に着いてからだ。


席に着き、鞄から授業で使用する教科書たちを取り出す。

昨日は予習せずに眠りに落ちてしまったので、今日の授業範囲を流し読みしていく。


わからない所にだけメモ書き用の付箋を貼り付けて、次は復習だ。

といっても真面目に問題を解いていくと時間がかかるので昨日の授業までに

張られている付箋たちを理解した部分のみ剥がし、読み返していくだけの作業だ。


ペリペリと、付箋を剥がしていく音だけが教室に響く。


あ~、すごく眠い。

早起きに、単調な作業。

ウトウトしてくる。


どんどん意識が眠りの世界へと傾いていくので、ふと手を止め少しだけ目を閉じる。




『姫は、お勉強好きなの?』

大きな青い瞳が真っすぐに私を見つめる。

『好き!さと君は嫌いなの?』

私からの質問に、彼は満面の笑みを向けて答えた。

『えっとね、姫が好きなら好き!』

『なにそれ~』

笑い声が響く・・・。



楽しそうな笑い声に、ハッと目を覚ます。

教室内で、数人のクラスメイトが談笑している。

いつの間にか私だけの静寂から、活気付いた空間へと変化していたようだ。


夢?

違う、記憶?


さと君?・・・・相模さん・・・・あぁ、私の・・・・・。


ぼんやりとしている私に、聞き慣れた声が低く響いてくる。


「姫は、お勉強好きだね。」


先程の子供の声に重なる、少し優しい声。

それに応えていた、幼い私の笑い声。

あぁ、さっきの彼はこの人か。

そう思った瞬間に、彼に関する記憶が蘇る。


「そう、ですね。」

顔を上げたると、夢の中と変わらない青い瞳が私に向けられている。

夢の中の少年が成長して、目の前にたっている。


「相模さんは、嫌いなんですか?」

私の質問に満面の笑みを向けてくれた幼い彼とは違い、

彼は少し困ったように そんなことないけど・・・ と答える。


懐かしい、私の大切な友達。


「さと君は嫌いなの?」


幼い頃の口調で、もう一度問いかけると、彼の青い瞳が大きく揺れた。

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