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出会いました

学校は楽しい。

適当に勉強していれば、どう過ごそうと自由だから。


「鈴村さん、居ます?」


いつものように自分の席で、親友と昼食をとっていると

「スズムラ」という聞き慣れた単語が耳に入ってきた。

自分の弁当箱や筆箱、さらには放り出したままの鉛筆の側面に

鈴村美穂(すずむらみほ)と書かれているのが目に入る。


ありふれた名字なので小さい頃から自分の持ち物には名前を書く癖がついているのだ。

という訳で、私を含めて5名のスズムラさんがこのクラスには居るので

フルネームで呼ばれない限り返事をしない。



だって、返事をして私じゃなかった!なんて恥ずかしい思いはしたくないでしょう。

そもそも友達の少ない私は親友の純(ジュン)ちゃん意外とはあまり喋らない。

だから”私では無い”と結論付けて、食事を続けていると誰かが私の前で立ち止まる。



「鈴村美穂さん?聞こえてるかな」




弁当箱から視線を少しずつ上へとずらしていくと見た事のある男子生徒が私を見ていた。

落ち着いた金髪で少し青みがかった目が私を映している。

えーっと、誰ですか貴男あなた

この綺麗な顔・・・見た事はあるが名前を覚えていない。

微かに記憶されているのは同学年で、『喋った事のない人』という意味のない情報だ。


「私に用ですか」

思いのほか硬い声で返答してしまった事に、自分でも驚く。

いや、久しぶりに純ちゃん意外と会話するから緊張しているのよ。

頑張れ自分!と励ましながらぐっと顔は彼から反らさずに言葉を待つ。


「うん、用という程ではないけど・・・会いに来ただけだから。」

私の言葉に、困った表情をした彼はボソリと呟く。

「は?」

「またね、お姫様」

さらに意味不明の言葉を残して教室を出て行く。

「えぇ?」

何あの人、電波でも飛ばしてそうで怖いんですけど・・・

未知なる物体に怯えている私は、クラス中の視線を集めていた。


純ちゃんは面白そうに目を細めて一言。


「どこで引っ掛けたの。」


「記憶にございません。」

ここ一週間を思い出してもあんな人と関わるような、特別に変わったことはしていなない。

小首を傾げて私も純ちゃんに尋ねる。

「ところで、あの人は誰ですか」





**********




放課後、クラスメイトの視線を避けて辿り着いた図書室で私は読書に夢中になっている。

登場してくるのは妖精とか魔法使いとかドラゴンとか・・・

とにかく現代社会とは大きくかけ離れたファンタジー小説というものだ。

幼い頃からこの手の本を読みあさり、今もなお熱中しているのだから

立派な趣味と言えるだろう。


「あっ、うっ」

ちなみにこの(うめ)くような声は感動したときに勝手に出てくる。

表情筋も連動しているのだが、そんな顔を人に見られるのがいやなので

前髪は頬にかかるくらいの長さで表情を常時隠している。

今に限らず私の前髪は顔を隠している。

だって、教室でも読書するのだから見られたくないじゃないですか。


呻き声はいくらでも聞いてくださっても良いんですけどね。

はふぅ、ドラゴンが騎士に倒された中盤まで読み終えて

私は前のめりになっていた姿勢を正す。

すると前の席に向かい合うように人が座っていて、にっこりと笑いかけてくる。


「っっっ!」

驚きに声を上げそうになったが慌てて口を塞ぐ。

お昼にあったばかりの人物だ。確か・・・

「相模さん?」


私が小さい声で話しかけると彼は目を見開いて、更に笑みを深くする。

相模聡(サガミサトシ)2年3組の王子様。女性に甘く人気があるが彼女はおらず、

彼を狙っている女性が多く存在する。

・・・ファンタジーでいうならドラキュラとか似合いそう。

うん、最後のは個人的な意見だけど。


「鈴村さん、僕の名前知っていたの?」

それが標準の表情なのか、彼の顔にはずっと笑顔が張り付いたままだ。

筋肉つかれないのかな?


「生憎ですが、今日のお昼に貴男(あなた)の存在を認識したばかりです。」


考えている事は言葉にせず私は応答する。

知らない人と話す時は、大体ムスッとした口調になるのは仕方ない。

不安と緊張と、人見知りなのだから。

とりあえず、お昼にも言った台詞をもう一度。・・・電波な答えが返ってきたら逃げよう。

「相模さん、何か御用ですか。」


少し低めに声を出す。

こんな地味な女に何の用があるのか。

私は早く、落ち着いた世界に戻りたいのだ。


無駄に端整のとれた美男子が隣に居ては、本に集中したくともできない。

その証拠に、いつもは静かな館内がピンク色のオーラでも纏っていそうな

女生徒でザワツイているのだ。

しかも、視線が相模さんに向けられている。


明らかにこの甘くて落ち着かない雰囲気の元凶はこの男だ。


図書館という聖域に、魅了魔法(チャーム)を使うような魔物はいらないのだ!

と心の中で叫んでいると、彼の指先が私の本へと向けられる。


「鈴村さんとは趣味が合いそうだから友達になりたいんだ。」


はてな?

この人は何を言っているのだろうか。

「僕もね、好きなんだよ。特に冴村っていう作家のファンタジー小説とか」


私は、先ほどまで『あっちいけー!』と思っていたのを一瞬忘れて

目の前に座る男子生徒をまじまじと見つめる。


そして、

なんで私がファンタジー小説好きなの知っているの?ていう恐怖心と

私も冴村先生好き!というのを言った方が良いのか?ていう困惑と

この人は危険人物なのだろうかという猜疑心と・・・・


「明日も図書室来るよね?」

彼が問いかけた事に気づかず、うっかり頷いてしまう。

「じゃあ、また明日ね。」

そう台詞をのこして図書室を出て行く彼の後ろ姿を私は頭痛のする思いで見送っていた。

「・・・明日も会うのか・・・。」

苦々しくかみ殺した文句は誰にも聞かれなかったはずだ。






初めての小説(処女作)で、緊張しています。頑張ってかき終えたいと思います!

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