緊張の糸の限界
☆
「いくわよ」
アーシャの号令で、田島は建物の陰から飛び出した。
事前に忍び込み、仕掛けて置いた爆弾に、みなが気をとられている隙に、だ。
爆発したのは、母屋から少し離れたガレージ。
燃料も置いてあったため、予想以上の燃え上がりっぷりだ。
『いっそ、全部燃えていいのよ』
そう、彼女は言っていた。
今回の目的は、報復でなく奪還だと。
姉と、生きているなら父親を助けて逃げられたら、それでいいのだ。
協力しやすい内容で、田島は正直助かっていた。
報復だ、皆殺しだと言われたら、さすがに覚悟を決めるのに、時間が必要そうだったのだ。
二手に別れる。
完治していないワンと田島は、二階の姉の方。
アーシャと助っ人たちは、父親がとらわれているだろう地下だ。
蜂の巣をつついたような大騒ぎにまぎれて、彼らは二階に上がった。
人とすれ違っても、誰も彼らをとがめようとしない。
ワンはさすがに、顔が割れすぎているので、帽子をかぶっていたが。
「エイナ様!」
銃を構えながら、部屋を蹴り開けるワン。
壁に張りつきながら、田島が中を覗くと。
「遅いわよ、ワン」
中の主人は、ウェディングドレスを投げ捨てるところだった。
シャツとジーンズ姿になっているが、それでも細すぎる身体だ。
「って、大樹!」
中を観察していた田島は、すっとんきょうな声をあげていた。
間違って撃たれないように、端で苦笑しながらホールドアップしている。
はぁーと、田島は安堵のため息をついた。
緊張の糸が、切れそうだ。
安心する顔に、会ってしまったからだろう。
「シーツにくるんで、怪我人のように運び出しましょう」
そう言う大樹の姿が、何故かスシ屋のもので――田島は緊張の糸の限界にチャレンジしてしまった。
要するに。
笑いたくてしょうがなかったのだ。