逆輸入
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寿司屋に田島は、いなかった。
その代わり、西脇組の協力者には会うことができ、田島たちの動向を聞くことが出来たのだ。
「もう、連絡は取れないが、特殊ルートから侵入するようだな。決行は、式当日と聞いたよ」
この話を聞くために、大樹はしばらく待たされた。
極秘事項を、いきなり見知らぬ人間に、ぺらぺらしゃべりはしない。
おそらく、日本に確認を取っていたのだ。
西脇組に顔を出して、あいさつしておいたのが、功を奏した。
「式…当日」
大樹は復唱した。
「教会ではなく、わざわざ神父を呼び付けるみたいですから、えらく警戒してるのが分かりますね」
全てを屋敷の中で、完結させるらしい。
「僕と吉岡さんを、職人として混ぜてもらえませんか?」
当日勝負というのなら、大樹だってもぐりこまなければならない。
田島の奪還と、アーシャたちの描く救出劇は、完全に癒着してしまっているのだ。
分離できないのなら、両方にかかわるしかなかった。
「え…スシ握れる?」
イエスノーより先に、厳しいハードルがつきつけられる。
吉岡が、うわぁという顔をした。
しかし、大樹は怯まない。
「教えてください…見よう見真似で、覚えますから」
見破る相手は、外国人だ。
それなりに様になっていれば、なんとかなるはず。
「はぁ、待ってな…厨房使えるようにしてくるから」
男が出ていって、大樹は吉岡と目を合わせた。
彼に積極的に止められなかったので、だめな戦法ではないと分かってはいたが、それでもやっぱり気になるのだ。
「外国行って、スシの握り方マスターしてきました…って…すごい逆輸入だな」
彼は苦笑してはいたが――呆れているようには見えなかった。