殊勝中止
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スシが食べたい――結婚式のパーティで。
バカイトコは、二つ返事でこれを引き受けてくれた。
エイナは、部屋の長椅子で、ため息をつく。
もし、妹のアーシャが戻ってきていれば、スシの発注をエイナの救援信号だと気付くだろう。
スシ屋は、ニシワキの古い知り合いの一軒しかない。
アーシャなら、乗り込んでくる。
ここへ。
助かるなら、それが一番いい。
でも、もしダメなら。
アーシャとエイナは、父に一つずつ、プレゼントをもらっている。
アーシャは、極秘の地下通路の道筋を。
エイナは――この屋敷を吹っ飛ばせる、爆弾の起爆スイッチ。
伯父もイトコも知らないヒミツだ。
多分、アーシャは地下通路から来る。
それで、みなが無事抜け出せればいい。
ただ、エイナは走り回れる体力が、体質的になかった。
最悪の場合。
エイナが、残ってスイッチを押そう。
そう覚悟はしていた。
「やぁ、エイナ」
ノックもなしに、バカイトコが入ってくる。
ワンの1/10も知性を感じない。
大体、アーシャがのこのこ日本なんかに行くから、ワンが追い掛けるハメになるのだ。
しんみりとしていたエイナだったが、イトコの顔を見ると、だんだん怒りが込み上げてくる。
おかげで、パパは地下牢、私はこいつの嫁候補!
結婚式が終わったら、二人ともいつ殺されてもおかしくないし、バカイトコの妻であり続けても生き地獄だ。
あんの、バカ妹めぇ。
やっぱ、殊勝に死ぬのヤメヨ。
イトコを完全無視のまま、エイナは肘掛に上半身を預ける。
長女エイナ――この家一番の気分屋だった。