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さようなら

 昼間。


 アーシャが、美容室に来た。


「ちょっ!」


 抜け出してきたかと、貴恵は焦ったが――後ろに、西脇組の人間を従えている。


「あいさつに来ただけよ、すぐ帰るわ」


 ああ。


 貴恵は、その視線に気圧された。


 まとうオーラが、覚悟の色に染まっている。


 来日したばかりの彼女とは、まるで別人。


「チーフ…ありがとう、おかげで楽しかったわ」


 淡々とした英語で、アーシャは別れの言葉を吐く。


「また日本に来たら、是非ここに寄ってよね」


 チーフは、微笑んだ。


 彼は、いまからアーシャが帰る国の状況を知らない。


 だから言える言葉だったが、彼女もそれに笑い返した。


「また、髪を切ってもらいにくるわ」


 自分の髪に指を入れ、外に跳ねさせる。


 そしてアーシャは、ととっと、爪先でチーフに近づいた。


 あ。


 黒い腕が、するりとチーフの首に絡み付く。


「……!!」


 貴恵は、口をぱくぱくしながら、その光景を見ていた。


 アーシャが、チーフに――


 言葉で認識するより先に、アーシャは体を離した。


「役得、でいいのかな?」


 チーフが、にっと笑う。


「さようなら」


 アーシャもにっと笑うと、踵を返した。


 もう、振り返らなかった。


 貴恵は、まだ驚いていたが、同時に自分の足がわなないているのも知った。


「アーシャの英語は、おかしいな。普通のさよならは、see youの方だろ」


 チーフが、仕事に戻りながら、小さく呟いた。

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