頼りない言葉
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「吉岡さん、入国で田島さんを止められませんか?」
吉岡の調べで、既に田島が機上の人であると分かった。
大樹はとにかく、彼の入国を阻止したかったのだ。
田島の気持ちは、分かる。
しかし、彼には死なれたくなかった。
アーシャだって、止めるつもりだったのだ。
みんなまとめて、入国でブロック出来ないのか。
「I国に直行じゃなく、近場の観光国に行く便だな。間に合うか分からないが、やってみよう」
吉岡は、そういうと部屋を出て行った。
「せっかく帰ってきたのになー物好きだぜ」
ありえねー、とツカサが眉間を寄せる。
「一回巻き込まれたよな、抗争みたいの…また、アレみたいなんだろ?」
彼の言葉は、何故か軽く聞こえる。
しかし、ツカサだって、銃撃戦の真っ只中にいたのだ。
恐さはいやというほど、身に染みている。
「あの時とは、何もかも違うよ」
大樹は、ため息をついた。
ツカサは、抗争とひとくくりにしたが、今回とは大きく違う。
「あの時は、こっちが圧倒的優勢だった…始めから」
今度は――
「や、ヤバいじゃん」
やっと重大さに気付いたようだ。
ツカサの眉が、ヒクついた。
「あーもぅっ、ジゴージトクじゃん! 行かないって言ったのに、勝手に行くんじゃ、しょうがないだろ。オレらにまで黙られたら、どーしようもねぇよ」
シリアスな思考を長くしたくないようで、ツカサはついに放り投げた。
しかし、彼にも引っ掛かりはある。
黙られたことも、ショックの一つだったのだ。
一緒に死線を超えた、仲間のはずなのに。
「入国で、止まる事を祈ろう…」
祈る――なんて、頼りない言葉なんだろう。