義理と人情
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ひさしぶりに再会した、自分の左腕は、すっかり痩せ細っていた。
とても自分の腕に見えず、田島は感動の余り、まじまじと見つめる。
「ありがとう、タジマ」
最終の飛行機。
隣席のアーシャが、不慣れな拝むポーズ。
英語も現地語も半端な田島には、多少ボディランゲジが必要だと思っているのだろう。
サンキューくらいは、分かるな、うん。
アーシャの親切に苦笑する。
この飛行機に乗るために、田島は姉に二つ準備してもらった。
携帯とパスポートだ。
会社で、二年に一度社員旅行がある。
前回、韓国だったので、その時に作った奴。
正規の手順で行けるのが、自分だけだと気付いた田島は、一人でアーシャたちに付き合うことにしたのだ。
今頃、大樹たちは気付いているだろう。
頭のいい彼のことだ。
すぐに、彼の行き先も察知するはず。
気付くと、きっと止めたに違いない。
だから、黙って一人で計画して、時間ぎりぎりを見計らって、行動を開始したのだ。
やっぱ、だーれもいかないワケにはいかんでしょ。
恩人の命が、かかっているのだ。
たとえ、猫の手にしかならなくても、協力したかった。
田島は、ちびっ子たちよりは古い人間だ。
義理人情を、頭だけでは割り切れない。
邪魔なギプスをはずすのに、看護婦だという貴恵の母に協力してもらおうとした。
だが彼女は、振り上げた小型ノコギリを、田島の頭に振り下ろそうとしたのだ。
「そんなに命を粗末にしたいなら、アタシが引導渡してやるよ」
結局、彼女は取り押さえられ、組員に頼むはめになった。
極力、生きて帰りたいけどなぁ。
飛行機の天井を眺めながら、田島は軽いため息をこぼしたのだった。