助けて
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だいぶ、調書も進んできた。
大樹は、他の二人の話と照合しながら、その事実を確認する。
一番進んでないのは、ツカサだった。
吉岡さん曰く、無駄な武勇伝が長いそうだ。
もうそろそろ、今後の身の振り方を吉岡に相談しようと思っていた矢先。
携帯が鳴った。
美津子の名前が浮かぶ液晶。
「はい、大樹です」
迷いなく、取って名乗る。
「あー大樹か? アーシャが、貴恵に内緒でおまえに連絡取りたいってうるさくてよー。浮気は上手にやれよ」
相変わらずの、美津子節は健在だ。
まだ、アーシャは日本にいるのか。
それと、何の用かと思っていたら、電話が彼女に代わった。
「ダイキ、助けて…パパと姉さんが、捕まったの!」
現地語で、単刀直入切り出してくる。
切羽詰まった声。
「警察に?」
思いつく最初が、それだった。
「もっと悪いところ! 伯父がクーデターを起こしたの!」
大樹の頭で、全部きれいにつながった瞬間だった。
身内以外知らないはずの、ワンの訪日。
いまもまだ、アーシャが日本にいる理由。
大樹が、予想した中の一つでもあった。
「私と一緒に国に来て。パパは恩人でしょ? 今度は、大樹がパパを助けてよ!」
繰り出される話は、とても重いものだった。
いま、大樹たちは一応、軟禁状態である。
吉岡たちを振り切り、正規以外の偽造パスポートでI国に戻り、マフィアの戦争に首を突っ込め、と。
アーシャは、それを大樹に要求しているのだ。
確かに、ボスは命の恩人と言っていい。
しかし。
今度は、拉致されるのとは違う。
行くなら――自分の意志を要求されるのだ。