表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/127

女二人

 アーシャの迎えが来たのと、ワンの意識が回復したという連絡は、ほぼ同時だった。


 アーシャ以下、西脇組の面々が病院に押し掛ける間、貴恵は組でお留守番だ。


 母親は夜勤なので、ある意味、屋敷に一人の気分だった。


 勿論、組員は残っているのだが。


「あ、貴恵さん」


 随分、清潔感溢れる髪型のヤクザがいると思ったら、貴恵が実験台にばっさりやった相手だ。


 そんな彼が、廊下で話しかけてくる。


 役職はしらないが、三十後半のにーさん肌だ。


「なんですか?」


 そんなにーさんに、微かに赤らめた顔で、もじもじし始められると、可愛いというよりコワキモイ。


 そして、いやな予感がした。


「あの…ですね…その、美津子さんに付き合ってる人とか、いるんですかね」


 見事な予感的中だ。


 あんな女王さまがいいと、思う人もいるんだ。


「多分…いないと思いますけど」


 貴恵の答えに、小さくガッツポーズ。


 いや、どうせ無理ですよ――彼女は、言葉を飲み込んだ。


 そんなことを自分が言うのは野暮だし、トラブルの種は避けたかった。


 母なら、自力でどうとでもするだろうと。


「き、貴恵ちゃんは…新しいお父さんができるって…どう?」


 話か飛躍してきたー。


 変なコメントを求められそうになって、彼女が戸惑っていると。


 表に車が複数停まる音と、ざわついた気配がただよってくる。


「帰ってきたのかな」


 貴恵は、相対するヤクザのにーさんの意識を、玄関に追いやろうとした。


 慌てて彼は、すっとんでいく。


 ふぅ、とごまかせたことにほっとしていた。


 しかし。


 帰ってきたアーシャの、お通夜みたいな顔を見た時――更なるいやな予感にさいなまれたのだった。


 ※


「帰れない?」


 お通夜顔のアーシャの告白に、貴恵は驚いていた。


「ワンを撃ったの、伯父さんの手下だったの」


 伯父――内輪揉めときたか。


「ついさっき、本国の方でもドンパチ始まったらしくて…いまは、帰ってくるなって」


 はぁぁぁ。


 帰りたがってはいなかったが、さすがに身内同士の抗争に憂欝なようだ。


 と、いうことは、貴恵たちも、もうしばらくここで暮らさなければならないということになる。


「ワンが、パパの傍を離れたのが、どうも引き金みたいで…」


 身内の事件のきっかけが、結局自分にあると思ったのか。


 アーシャは、更にため息を深くした。


「お父さんが無事だといいわね」


 ヤクザだのマフィアの世界が、どうなっているかなんて、貴恵が知るはずがない。


 ただ、親を心配に思う気持ちだけは、理解できるつもりでいた。


「無事でいてもらわなきゃ、困るわ。パパが死ぬと、私は絶対、故郷に帰れなくなるもの」


 それは――伯父の天下が始まる、という意味なのだろう。


 しかし、純粋に父を心配する気持ちはないのか。


「キエが、何を言いたいかはわかってるわ…でもパパは、パパでありボスでもあるの。私は、娘でもあるけど、後継ぎ候補でもあるのよ」


 ここにも。


 年の割りに、重い荷物を背負っている子がいる。


 貴恵は、アーシャと大樹がかぶって見えた。


「兄弟は?」


 候補というからには、ほかにもいるのだろう。


「姉さんが、一人いるわ…無事だといいけど」


 後継ぎが、女二人。


 危険な組み合わせに見えた。


 抗争後、どっちかの娘を妻にすれば、そこから組織をしきっていく材料にできそうだったのだ。


 伯父では結婚できないだろうが、その子ならイトコだ。


 射程圏内である。


 マフィアのことは分からなくても、おなじような下克上は歴史の中で、腐るほど行われてきた。


「大したことがなければ、毎日でも電話がくるわ…」


 自分に言い聞かせるような、アーシャの声。


 逆に言えば、電話が途切れたら――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ